現代社会ではストレスが蔓延しており、多くの人が食べ物に安らぎを求める傾向があります。いわゆる「ストレス食い」は、実際の空腹感ではなく感情が引き金となることが多い行動です。この習慣が続くと、健康に悪影響を及ぼすことがあります。
ストレスを感じると、人はアイスクリームやポテトチップス、ピザなど、高カロリーで糖分や脂肪が多い食品に手を伸ばしがちです。こうした「安らぎの食べ物」を多く摂取する食生活は、肥満や糖尿病、心血管疾患などのリスクを高める可能性があります。また、ストレスを感じるたびに食べ物に頼ると、体重の増加や罪悪感を引き起こし、さらにストレスが増幅されるという悪循環に陥ることもあります。
しかし、ストレス食いを抑える方法はあります。その中でも、他人との強い絆やサポートを得ること、そして運動を取り入れることが効果的だと言われています。
慢性的なストレス食いを減らすには?
2024年の研究によると、人とのつながりを大切にすることで、慢性的なストレス食いを防ぐ効果があると分かっています。友人や家族、近所の人たちとの絆を深めることで、ストレスが和らぎ、辛いときに食べ物に頼りたくなる気持ちを抑えられるかもしれません。こうしたサポートがあると、ストレス食いを根本的に止めるきっかけになります。
たとえば、「仕事のストレスでまたポテトチップスを食べそう……」となったとき、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者であるユービン・パクさんは、ちょっとした行動の切り替えを提案しています。
「もしストレスを感じて、『アイスクリームをたくさん食べたい!』と思ったら、その代わりに誰かに連絡してみるのもいいですよ」と、彼女は取材の中で語っています。
ストレス食いと社会的サポートの関係性
今回の研究は、健康心理学(Health Psychology)のオンライン先行公開に掲載したもので、2つの独立した調査で構成されています。
最初の調査では、1264人を対象に、ストレス食いと体格指数(BMI)、およびウエストとヒップの比率との関係を10年間にわたって分析しました。研究チームは、参加者の日記データ(8日分)をもとに、普段の経験や社会的サポートの有無を把握。そのうえで、平均的な社会的リソースのレベルが、ストレス食いによる長期的な代謝健康への影響を軽減するかどうかを調べたと、パク氏は説明しています。
「私たちは、感情的なサポートを受けているかどうか、つまりストレスを感じたときに周りの人から支えを受けているかどうかに注目しました」と、パク氏は述べています。
2つ目の調査では、536人を対象に、研究開始時点でのストレス食いとBMIの状況を評価しました。その後、参加者の日記データ(24日分)をもとに、日々のストレス食い行動と社会的サポートとの関係を探りました。この調査の目的は、最初の研究結果をもとに、日常的なストレス食いの動きに焦点を当てることでした。
「参加者に、その日に他人から大切にされている、理解されている、気にかけてもらっていると感じた度合いを尋ねました」とパク氏は説明しています。また、日々のストレスの有無やその対処法についても質問し、その日の食行動についても確認しました。「具体的には、『普段より多く食べたか』、あるいは『普段は控えている食品を食べたか』といった質問をしました」と彼女は付け加えました。
さらに、2つ目の調査では、初回調査の結果を再現するための追加分析も実施。2つの調査の背景が異なるにもかかわらず、結果が一致した点をパク氏は指摘しました。
最初の調査では、サポートのある人間関係は、10年にわたるストレス食いによるBMIや、ウエストとヒップの比率の増加などの悪影響を軽減することが示されました。一方、2つ目の調査では、日々「他人に気にかけてもらっている」と感じた日には、ストレス食いの傾向が弱まることを確認しました。これにより、ストレス食いが習慣化している人々には、サポートのある社会的環境が大きな助けとなることが裏付けられました。
なお、調査開始時点でストレス食いをしていなかった参加者は、その後もストレス食いに手を出さない傾向が続いていました。こうした社会的サポートの効果は、慢性的なストレス食いをしている人に特化したものであるとパク氏は強調しています。
研究チームは、社会的サポートがストレス食いに与える効果について、「観察的研究」であることを明らかにしています。そのため、次のステップとしては、この関係が具体的にどのような仕組みで長期的な効果をもたらすのかを、実験的に検証する必要があると指摘しています。
「ひとつの仮説として、社会的なつながりが持つ『報酬感覚』が、時間をかけて食べ物の魅力を和らげる可能性があります。この点についての追加研究が重要だと思います」とパク氏は述べています。
ストレスと食習慣の関係
ストレスは私たちの心と体の両方に影響を与えるため、行動全般に大きな影響を及ぼします。それには「何を、どう食べるか」という食習慣も含まれます。この関係について、栄養心理学センター(The Center for Nutritional Psychology)の博士課程候補生で、概念開発リードを務めるシェリーン・ベヘイリー氏が「エポックタイムズ」にメールで説明しています。
ベヘイリー氏によると、ストレスがかかると体内でコルチゾールというホルモンが分泌されます。このホルモンはさまざまな形で体に影響を与え、そのひとつに食欲の増進があります。特に慢性的なストレスが続く場合、カロリーが高く、糖分や脂肪を多く含む食品、いわゆる「やめられない安らぎの食べ物」(チョコレートやポテトチップスなど)への強い欲求が引き起こされやすくなるのです。
2023年に『Nutrients』誌で発表された10年間の研究レビューでは、長期間にわたるストレスやうつ状態が食事量の増加に関連していることが示されました。また、ストレスの多い時期には食べるスピードが上がる傾向があり、感情的な食べ方はたいてい「美味しいけれど健康には良くない」食品を選びがちだということも明らかにしています。
ベヘイリー氏は、チョコレートやアイスクリームなどの甘い食品、ポテトチップスやフライドポテトのような塩辛いスナック、あるいはペイストリーやピザのような加工された炭水化物は、ストレスを感じている人々に「身体的にも心理的にも安らぎをもたらす」と説明しています。
「こういった食品は脳の報酬系を刺激し、ドーパミンなどの神経伝達物質を分泌させることで、一時的にネガティブな感情を和らげます」と彼女は語ります。特に炭水化物が多い食品は、セロトニンやドーパミンが一時的に増加するので、気分を調整する効果があります。
さらに、これらの食品は心理的にも特別な意味を持つことが多いと彼女は付け加えます。「たとえば、チョコレートやアイスクリームには懐かしさや安心感といった感情が結びついていることが多いのです。これがストレス時に安全感や親しみを与える要因になります」と彼女は説明しています。
しかし、これらの効果は一時的なものであり、結果的に「食べ物をストレスへの対処手段として使う」という習慣的な悪循環を生み出すと指摘しています。
さらに、ストレスと食行動の関係性には、脳と腸の密接なつながりも影響しています。「慢性的なストレスは腸の健康を乱し、腸壁の透過性を高めてしまうことがあります。これは『リーキーガット』と呼ばれる状態です」とベヘイリー氏は説明します。
「この状態では、有害な物質が血流に入り込み、炎症を引き起こします。これが脳にも影響を与え、気分やストレス反応にさらなる影響を及ぼします」と彼女は続けます。
リーキーガットに関しては議論が続いていますが、2020年に『Current Opinion in Behavioral Sciences』で発表された研究では、ストレスやうつ病が腸のバリア機能を弱め、結果として炎症を引き起こすとされています。この炎症が脳に影響を及ぼし、さらなるストレスや気分の乱れにつながる可能性があるというのです。
孤独が引き起こすストレス食い
孤独という状態には、生理的、心理的、そして行動的な要因が絡み合っています。そのため、孤独を感じるとストレス食いを対処手段として選んでしまうのも理解できます。孤独感が強まると、孤立や無防備さを感じやすくなり、感情のコントロールが難しくなり、ストレスレベルが高まります。この状況について、シェリーン・ベヘイリー氏は「安らぎの食べ物は、孤独感を一時的に和らげる速効性のある手段になりますが、その効果は短期間で消えてしまいます」と説明します。
また、孤独はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を引き起こすこともあり、その結果、食べ物に頼りたくなる確率が高まります。
さらに、孤独は腸内細菌叢(腸内フローラ)に影響を与える可能性があります。そして、この影響は双方向に作用します。孤独が腸内環境を変化させる一方で、腸内環境の変化が孤独感を感じさせます。
腸内細菌の多様性が高いほど、感情的な安定感やポジティブな気持ちが強まり、社会的なつながりの広がりとも関連することが分かっています。この「腸と脳の相互作用」は気分や意思決定に影響を与え、ストレス食いといった食行動を形作る要因になるとベヘイリー氏は指摘しています。
社会的なつながりを活かそう
パク氏の研究でも強調されているように、強い社会的なつながりを育むことは、ストレスが原因の食行動を防ぐ助けになります。また、2023年に『Nutrients』誌で発表された別の研究では、友人から社会的サポートを受けている参加者は、間食が減り、食事の量をコントロールしやすくなり、ストレスも軽減することが示されました。
シェリーン・ベヘイリー氏は、特に現代の孤立しがちな環境において、意味のある人間関係を築くには意識的な努力が必要だと指摘しています。その方法として、クラブ活動やボランティアなど、共通の興味を通じて他者とつながる機会を持つことを勧めています。また、既存の人間関係を強化するには、定期的なコミュニケーションや相手の話に耳を傾けることが効果的です。
さらに、つながりを築くのが難しい場合は、カウンセリングやサポートグループといった専門的な支援を活用することも検討すべきだと彼女は提案しています。「オンラインの交流も価値がありますが、直接会って交流することで、より深い感情的なサポートを得られることが多いです」とベヘイリー氏は述べています。
パク氏は、自身の研究を通じて得た個人的な教訓として、人はストレスを感じているときに社会的な交流から得られる恩恵を実際よりも過小評価しているのではないかと語ります。
「誰かと話してみてください。必ずしもそのストレスの原因について話す必要はありません。ただ、人とつながっているという感覚や親密さは、それ自体が報われる感覚を生み、ストレスを健康的にコントロールする鍵になると思います」と彼女は述べています。
また、パク氏は、サポートを必要としている人を支える側にも得られるものがあると指摘します。「人は親しい人のためにサポートしたいと感じるものです。もちろん、サポートすることがいつも簡単で楽しいわけではありませんが、それでも、愛する人にとって頼りがいのある存在でありたいと感じることには満足感があります」と彼女は付け加えています。
「もしストレスを感じたときに、他人に迷惑をかけたくないと考えたり、誰にも頼りたくないと思ったりする人がいれば、こうした点も考えてみてください」とパク氏は言います。
慢性的なストレス食いのサイン
ストレス食いが慢性化するのは、単発の行動ではなく、継続的なパターンとして定着したときです。
もし「この習慣が癖になっているかも……」と不安を感じているなら、シェリーン・ベヘイリー氏は次のようなサインに注目することを勧めています。たとえば、ストレスを感じたときに高カロリーや甘いもの、脂肪分の多い食品を頻繁に欲しがること。また、食べた後に罪悪感や恥ずかしさ、後悔を感じる場合は、感情的な要因が食べ物の選択に影響している可能性があります。さらに、空腹ではないのに大量に食べたり、間食をしすぎたりすることも、慢性的なストレス食いのサインです。
「また、社会的な交流や活動を避けて、一人で食べることを優先している場合は、根底に感情的な不安が隠れている可能性があります」とベヘイリー氏は述べています。
ストレス食いを断ち切るためのツール
ストレス食いを克服するには、生理的・心理的な要因の両方にアプローチする必要があるとシェリーン・ベヘイリー氏は述べています。その第一歩は、自分がストレス食いをしていることに気づき、その引き金となる要因を特定することです。
ストレスの原因は、人間関係の問題や近所の騒音、迫りくる仕事の締め切り、不眠など、多岐にわたります。ベヘイリー氏は、ストレスを感じたときにはマインドフルネスを活用することを勧めています。これにより、身体的な空腹と感情的な食欲を区別しやすくなります。
「感情的なストレスを解消するために、運動や日記を書くこと、リラクゼーションの技法などの代替手段を試してみてください」と彼女は提案します。
2024年に『Nature』誌に発表された研究では、マインドフルネス瞑想のトレーニングが、ストレス食いの習慣や食欲を減らし、マインドフルネスを高めることが明らかになりました。この研究では、脳のさまざまな領域、特に視床下部や報酬系の間のつながりが変化し、感情調節、注意、意識、感覚処理に関連する脳の活動が強化されていました。瞑想トレーニングは、31日間にわたり、1日15分のビデオや音声による瞑想を行う形で実施しました。
ストレスを感じたときに何を食べるかも、行動を意識することと同じくらい重要です。多くの人が手を伸ばす「安らぎの食べ物」は、ストレス食いのサイクルを助長する身体的な影響もあります。
「特に高カロリーで栄養価の低い食品の摂取は、脳の構造や機能に変化をもたらすだけでなく、腸内細菌叢(腸内フローラ)を乱します」とベヘイリー氏は説明します。こうした食品を選び続けることで、ストレス食いのサイクルが悪化し、断ち切るのがますます難しくなります。
このサイクルを断ち切るには、「安らぎの食べ物」ではなく、栄養価の高い「ホールフード」を選ぶことが重要です。「バランスの取れた栄養豊富な食事は、感情の調整や脳の健康をサポートし、ストレス食いのサイクルから抜け出す助けになります」と彼女は続けます。また、意識的な食べ物の選択や、血糖値を安定させるバランスの取れた食事は、食欲や感情的な食べ過ぎを抑えるのに役立ちます。
バランスの取れた食事には、加工が最小限でパッケージされていない食品が含まれます。例えば、新鮮な果物や野菜、肉や魚、卵、豆類、全粒穀物などです。
この次、ストレスを感じてポテトチップスに手を伸ばしたくなったら、一度立ち止まってみてください。その代わりに誰かとつながる時間を持つことを試してみましょう。楽しい会話や直接の目を合わせた交流は、チップスほどの即効性はないかもしれませんが、未来の自分がきっと感謝するはずです。
(翻訳編集 華山律)
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