骨粗しょう症と骨折 高齢者の静かな危機

骨粗しょう症は、股関節の骨折や転倒のリスクを高め、それが原因で高齢者の死亡率が大きく上がる場合があります。この病気を予防する方法を知っておきましょう。

骨粗しょう症が原因で骨折のリスクが高まり、特に股関節の骨折では1年以内に亡くなるリスクが通常の2~5倍にもなると言われています。台湾の「健康1+1」という番組では、新義堂中医診所の院長である呉國賓先生が、骨粗しょう症の症状や原因、そして予防法について詳しく解説しました。

骨粗しょう症は、世界中で最も多い加齢に伴う骨の病気です。特徴として、骨密度が低下したり、骨の内部構造が壊れたりすることで、骨そのものの強さが弱くなります。この結果、ちょっとした転倒やぶつかった程度でも骨が折れてしまうほど、骨が非常にもろくなります。

「骨リモデリング」という仕組みで、大人になると骨は常に新しい骨が作られ、古い骨が壊されていきます。通常は、この新しい骨を作るスピードと古い骨が壊されるスピードはバランスを取っています。しかし、年齢を重ねたり、他の要因が影響したりすると、新しい骨が作られるペースが追いつかなくなり、骨粗しょう症が起きてしまうのです。

骨粗しょう症は「静かな病気」とも呼ばれます。それは、多くの場合、骨折するまで気づかれないからです。実際、骨折は骨粗しょう症が引き起こす最も一般的な問題であり、50歳以上の女性の3人に1人、男性の5人に1人が影響を受けると言われています。

呉先生は、骨折を大きく2つのタイプに分けられると説明しています。1つは「背骨の骨折(脊椎骨折)」で、特に第11~12胸椎や第1~2腰椎によく見られます。もう1つは「背骨以外の骨折(非脊椎骨折)」で、手首の骨や股関節に多いです。この中でも特に深刻なのが、股関節の骨折です。

股関節骨折の深刻さ

股関節骨折とは、大腿骨(太ももの骨)の股関節に近い部分が折れることを指します。この骨折のリスクは年齢とともに高まり、特に高齢者に多く見られます。また、このケガは死亡率が高いことでも知られています。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、アメリカでは毎年約30万人の高齢者が転倒による股関節骨折で入院しています。2019年のデータでは、アメリカで股関節骨折に関連する死亡の83%が転倒によるものでした。

データによると、股関節骨折を負った人の20~24%が、1年以内に亡くなっています。また、死亡リスクの上昇は骨折後5年近く続くこともあります。

股関節骨折後の死亡率が高いのには、いくつかの理由があると呉國賓氏は説明します。まず、骨折後は体の動きが制限されるため、運動量が減り、代謝が低下します。その結果、体力や免疫力が急速に低下してしまいます。

さらに、骨折による強い痛みのため、鎮痛剤を多用するケースが多いのですが、これが胃腸、腎臓、心臓などに悪影響を及ぼし、体全体がさらに弱ってしまうことがあります。

また、多くの患者は長期間ベッドで安静にする必要があるため、褥瘡(床ずれ)や尿路感染症といった合併症が起こりやすくなります。さらに、致命的な肺塞栓症などのリスクも高まるため、注意が必要です。

 

骨粗しょう症を引き起こす要因

呉國賓氏によると、骨粗しょう症を引き起こす要因は、大きく「内的要因」と「外的要因」の2つに分けられます。

内的要因

内的要因とは、性別、年齢、人種などのように自分では変えることができない要因を指します。例えば、骨粗しょう症は白人やアジア系の人々に多く見られる病気です。また、体格が小さい人は栄養の吸収が低い傾向にあるため、骨粗しょう症のリスクが高くなると言われています。このほか、高齢であることや家族に高齢による骨折の履歴がある場合もリスクを高める要因になります。さらに、女性の場合は閉経後のホルモンバランスの変化が骨粗しょう症の発症に大きく影響することが知られています。

特に股関節骨折の約75%が女性に発生しているというデータがあるため、中高年の女性は骨粗しょう症の予防に特に注意を払う必要があります。

外的要因

外的要因は、ある程度コントロールできるものが多く、以下が該当します。

生活習慣 喫煙、過度な飲酒、大量のコーヒーやお茶の摂取、無理なダイエット、極端に味付けが薄い食事、運動不足は骨粗しょう症が悪化する要因となります。

栄養 栄養の偏りも影響します。具体的には、タンパク質の摂取が多すぎる、または少なすぎること、塩分の多い食事、体重の減少、カルシウム不足、ビタミンD不足が挙げられます。

疾患 慢性的な胃腸の不調、肝臓や腎臓の機能障害、糖尿病、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、卵巣や子宮、胃、腸の手術歴なども骨粗しょう症を引き起こす要因です。これらは完全に避けることが難しいとされています。

薬剤 喘息や関節炎などの治療でよく使われる「グルココルチコイド(ステロイド)」は、3か月以上の長期使用で骨粗しょう症を引き起こす可能性があります。この治療を受けた患者の30~50%が骨折を経験するというデータもあります。全てのケースで薬を避けることはできなくても、薬を変えたり中止したりすることは可能です。

 

骨粗しょう症の症状

骨粗しょう症は発見が難しい病気ですが、日常生活の中で注意すべきサインがいくつかあると呉國賓氏は指摘しています。以下が主な警告サインです。

腰痛 腰の痛みが長期間続き、特に長時間座ったり立ったりといった同じ姿勢を保つことで痛みが悪化する場合は注意が必要です。

背骨の変形 背骨が劣化して圧迫されることで、猫背になったり、仰向けに寝るのが難しくなったりします。また、背骨が縮むことで身長が低くなります。

呼吸器系の症状 胸の圧迫感、息切れ、呼吸がしにくいといった症状が現れる場合があります。これは胸椎が圧迫されたり、自律神経の伝達が阻害されたり、肋骨の動きが制限されることが原因と考えられます。

 

骨粗しょう症と中医学

骨粗しょう症は、骨を作る細胞である「骨芽細胞」の働きが減少し、骨を分解する「破骨細胞」の働きが増加することで骨が失われる、代謝性の骨疾患だと呉國賓氏は説明しています。

伝統中国医学では、骨粗しょう症は「気」(エネルギー)と「血」(栄養)の不足が原因で、これによって体内の臓器の機能が低下すると考えられています。また、骨粗しょう症の患者は運動量が少ない傾向にあり、その結果、骨への栄養供給が滞り、骨密度を高めるための刺激が不足してしまうことも指摘しています。

中医学では「腎は骨を司る」とされ、骨の健康は腎臓の機能と深く関わっていると考えられています。また、骨の健康には肝臓や脾臓も関与しています。脾臓は筋肉を司るとされ、脾臓の機能が低下するとエネルギーや栄養が不足し、筋力が弱くなることがあります。さらに、肝臓は腱を司り、肝の「血」が不足すると腱が十分に栄養を受け取れず、弱くなるとしています。

骨粗しょう症の治療において、中医学では脾臓を強化し、栄養とエネルギーを補う効果のある生薬がよく用いられます。例えば、蓮の実(蓮子)、山薬(中国山芋)、ナツメ(紅棗)、白扁豆(白いインゲン豆)などが挙げられます。これらは栄養価が高く、アジア系の食材店で簡単に手に入れることができます。

骨密度を増やすためには、筋肉や腱を強化することが重要です。カルシウムの補給だけでは不十分であり、適切な量のタンパク質を摂取し、定期的な運動を行うことが必要です。

 

骨密度を高めるための運動

骨折は、痛みや障害を引き起こし、自立した生活を失う原因にもなるため、日常生活に大きな影響を与えます。そのため、骨粗しょう症を予防することはとても重要です。そして、運動は骨密度を高める最も効果的な方法のひとつです。呉國賓氏は、以下のような運動を推奨しています。

日常的な身体活動を増やす 日常的に体を動かすことで、骨に縦方向の刺激を与え、骨を強くすることができます。

筋肉を強化する 筋肉を鍛えることで、血流が改善され、骨に必要な栄養素が供給されやすくなります。

バランストレーニングを重視する 特に高齢者では、バランス能力を向上させることで転倒を防ぎ、骨折のリスクを減らすことができます。

呉氏が提案する特別な運動方法

つま先立ちとかかと押し+腰をこする運動 この運動はふくらはぎの筋肉や靭帯を強化し、骨に縦方向の刺激を与えることで骨密度を高めます。

腰の「腎兪(しんゆ)」ツボを刺激する 腰の腎兪というツボを刺激することで、「腎の精」を養い、腎臓の健康を促進します。腎臓は骨の健康にも深く関わっているとされています。

つま先立ちで前進または後退して歩く(1日5~10分) つま先立ちで歩くことで、ふくらはぎの筋肉をさらに強化し、バランス能力を向上させ、骨の健康全体を促進します。

 

骨粗しょう症を予防するための食事法

骨粗しょう症の予防には、食事が重要な役割を果たします。呉國賓氏によれば、骨の健康を改善するためにまず思い浮かぶのは、カルシウムのサプリメントを摂取したり、日光浴でビタミンDの吸収を促進することかもしれません。しかし、これだけでは不十分です。カルシウムやリンに加えて、骨の柔軟性を高めて骨折リスクを下げるために必要なタンパク質も欠かせません。そのため、バランスの取れた食事が骨粗しょう症予防の鍵となります。

推奨される食材 牛乳、豆類、赤身肉は、優れたタンパク質源としておすすめです。また、煮干しや干しエビはカルシウムを豊富に含む食品です。さらに、黒ごまペーストやクルミ、卵は、カルシウムを補給するだけでなく、腎臓の機能を強化する効果も期待できます。加えて、海藻類の昆布や海苔、椎茸も腎臓を強化する食品として知られています。

避けるべき習慣 カルシウムの損失を防ぐためには、喫煙や飲酒を避けることが大切です。また、コーヒーや濃いお茶の過剰摂取、炭酸飲料の摂取も控えるべきです。さらに、塩分やタンパク質を過剰に摂取しないことも重要です。夜更かしを減らし、ストレスを適切に管理することも必要です。これらは体内に慢性的な炎症を引き起こし、骨の健康に悪影響を及ぼす可能性があるためです。

黒ごまとクルミのパウダー 黒ごま(250グラム)とクルミ(250グラム)を細かく挽き、ブラウンシュガー(50グラム)を混ぜます。これを1日2回摂取することで、腎臓を強化しながらカルシウムを補給できます。

骨を強化するスープ 豚の背骨、豆腐、卵、干しエビを使って栄養豊富なスープを作りましょう。仕上げにネギや生姜、ニンニクで味付けすると、カルシウム補給と骨の強化に役立つ一品になります。

呉氏の特別レメディ 豚の尾骨を「健歩丸」という伝統的な漢方薬と一緒に煮込んでスープを作ります。このスープは腰痛を和らげる効果があり、たった3日で効果が感じられる場合もあるそうです。ただし、この漢方薬を利用する際は、信頼できる中医師に相談して、高品質のものを選ぶようにしましょう。

 

この記事で述べられている意見は著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの意見を反映するものではありません。エポックヘルスは、専門的な議論や友好的な討論を歓迎します。

 

(翻訳編集 華山律)

英文大紀元が提供する医療・健康情報番組「健康1+1」の司会者を務める。海外で高い評価を受ける中国の医療・健康情報プラットフォームであるこの番組では、コロナウイルスの最新情報、予防と治療、科学研究と政策、がんや慢性疾患、心身の健康、免疫力、健康保険など、幅広いテーマを取り上げている。
Shan Lam