インスリン抵抗性の危険性 31種類の病気との関係とは

アメリカの18~44歳の大人のうち、40%以上がインスリン抵抗性を抱えていると、アメリカの「健康と栄養調査(NHANES)」が報告しています。しかし、多くの人は自分がその状態であることに気づいておらず、それが引き起こす健康リスクを見過ごしてしまっています。

2024年に開かれた「欧州糖尿病学会年次総会」で発表された研究によると、インスリン抵抗性は痛風、坐骨神経痛、パーキンソン病など、全部で31種類の病気と関係があることがわかりました。特に女性の場合、インスリン抵抗性が早死にのリスクを高めることも示しています。

台湾の台北栄民総医院で感染症の専門医を務めた経験を持つ鄭元瑜(ジェン・ユアンユー)医師は、現在台湾の尚文診療所で内科医として活躍しています。彼は、NTDTVの健康情報番組「健康1+1」に出演し、インスリン抵抗性の原因や検査方法、そして日常生活で取り組める効果的な予防法について解説しました。

インスリン抵抗性とは?

「インスリン感受性」という概念は、1936年に科学者たちによって初めて提唱されたものだと鄭元瑜(ジェン・ユアンユー)医師は説明しています。体のすべての細胞はブドウ糖を主なエネルギー源として利用しており、インスリンはそのブドウ糖を細胞内に取り込むための“鍵”として働いています。しかし、細胞がインスリンに対して反応しにくくなると、この仕組みがうまく働かなくなり、「インスリン抵抗性」と呼ばれる状態になります。

インスリン抵抗性の初期段階では、血糖値は通常の範囲内にとどまることが多く、これは、体が血糖値を調整するためにインスリンを多く分泌することで補っているからです。しかし、インスリンを作る膵臓のβ細胞が働きすぎて疲弊すると、徐々にその機能を失っていきます。このような状態が続くと、最終的に必要な量のインスリンを作れなくなり、2型糖尿病が発症する可能性があります。

インスリン抵抗性の主なリスク要因としては、カロリーの摂りすぎや運動不足が挙げられます。また、太りすぎや肥満も重要な要因であり、これらが原因で体内に慢性的な炎症が起こることも、インスリン抵抗性の発症に関与しています。

 

インスリン抵抗性に関連する病気

これまでの研究によると、インスリン抵抗性が高い人は、時間の経過とともにさまざまな病気を発症するリスクが高まることがわかっています。その中には、心血管疾患、肥満、非アルコール性脂肪肝、アルツハイマー病、特定の種類のがん、慢性腎疾患、多嚢胞性卵巣症候群などが含まれます。

インスリン抵抗性と関連する疾患 (大紀元)

鄭元瑜(ジェン・ユアンユー)医師によれば、インスリンは血糖値の調整だけでなく、脂肪代謝にも重要な役割を果たしています。インスリン抵抗性の初期段階では、インスリンの分泌が増えるため、体内の脂肪が「移動」し始めます。これにより、脂肪が体の脂肪細胞から肝臓へと蓄積されるようになり、脂肪肝のリスクが高まります。その後、肝臓は蓄積された脂肪を「超低密度リポタンパク質(VLDL)」という物質に変換し、大量に血中に放出します。これが血管の健康に悪影響を及ぼします。

さらに、「アメリカ腎臓学会誌(Journal of the American Society of Nephrology)」に掲載された長期研究では、糖尿病や慢性腎疾患の既往がない1万人以上を対象に9年間追跡調査を行った結果、インスリン抵抗性が重要な要素となる代謝症候群を持つ人は、そうでない人に比べて慢性腎疾患を発症するリスクが43%高いことが明らかになりました。

 

アルツハイマー病 脳の糖尿病

インスリン抵抗性は代謝の健康に留まらず、脳のブドウ糖代謝にも影響を与えることがあり、アルツハイマー病との強い関連があると鄭元瑜(ジェン・ユアンユー)医師は指摘しています。2023年8月に「Diabetes Care」に掲載された研究では、糖尿病の重症度による脳の老化の違いを図で示しています。

糖尿病の程度によって異なる脳の老化の違い(大紀元)

この研究では、イギリスバイオバンクのデータを基に、さまざまな年齢層の脳画像を比較しました。その結果、軽度のインスリン抵抗性、つまり前糖尿病の段階にある患者でも、脳の老化がコントロール群よりも約半年分進んでいることがわかりました。さらに、糖尿病がより進行している患者では脳の老化が加速し、特にヘモグロビンA1C値が8%以上の患者では、実年齢に比べて脳年齢が約4.2歳も上回ることを確認しました。

また、2008年に「Journal of Diabetes Science and Technology」に発表された研究では、アルツハイマー病を「3型糖尿病」として捉える考え方が提唱され、代謝異常と認知機能の低下のつながりを改めて強調しています。

 

インスリン抵抗性の症状

インスリン抵抗性は非常に一般的な状態ですが、多くの人が自分に影響を及ぼしていることに気づいていないと、鄭元瑜(ジェン・ユアンユー)医師は指摘しています。インスリン抵抗性を示す可能性がある症状には、次のようなものがあります。

  • 喉の渇きが続く
  • 頻繁に尿意を感じる
  • 激しい空腹感や空腹に耐えられない感覚
  • 食後に甘いものを強く欲する(甘いものを食べても満足せず、その後も食べ続けてしまう傾向がある)
  • 食後の疲労感や眠気
  • 肌に現れる黒くベルベットのような質感の斑点(黒色表皮腫)

これらの症状はインスリン抵抗性の参考になるものの、特定の疾患に特有のものではないため、早期に発見するのは難しいとしています。また、鄭医師によれば、血糖値が大きく上昇する段階に至る頃には、すでに健康が悪化している可能性があります。そのため、インスリン抵抗性を早期に見つけることが、状態を改善する鍵となります。

 

インスリン抵抗性を評価する簡単な方法

インスリン感受性を測定する「超インスリン血糖平衡クランプ法」という生理学的検査は、インスリン感受性を評価する「ゴールドスタンダード」とされます。しかし、この方法は非常に時間がかかり、費用も高額です。そのため、臨床では空腹時インスリン値と空腹時血糖値を用いる「インスリン抵抗性のためのホメオスタシスモデル評価(HOMA-IR)」がより一般的に使われています。この検査は採血1回で済むものの、通常の血液検査よりも費用が高いため、広く普及するには限界があると鄭元瑜(ジェン・ユアンユー)医師は説明しています。

そこで、より簡便な方法として提案されたのが「トリグリセリド-グルコース指数(TyG指数)」です。この方法では、空腹時の血中トリグリセリド値と血糖値を用い、特定の数式に当てはめるだけでインスリン抵抗性を評価できます。TyG指数は次の式で計算されます。

TyG指数 = Ln [(空腹時トリグリセリド値(mg/dL) × 空腹時血糖値(mg/dL)) / 2]

理想値は4.55未満(厳格基準)または4.78未満(緩やかな基準)

また、この式に基づくと、空腹時の血糖値とトリグリセリド値の積が1万4200を超えないことが目安となります。より厳しい基準では、この値は9千未満に抑えます。

鄭医師によると、TyG指数はインスリン抵抗性を約80%の精度で評価できます。つまり、血糖値とトリグリセリド値の積が1万4200を超えている場合、インスリン抵抗性を持つ可能性が80%と推定します。逆に、この値が1万4200未満であれば、インスリン抵抗性を持たない可能性が80%と考えられます。

「この方法は、インスリン抵抗性の初期スクリーニングに効果的で、簡単に実施できるツールです。一般の方の意識向上にも役立つでしょう」と鄭医師は述べています。

 

運動でインスリン抵抗性を改善する方法

インスリン抵抗性は早期に発見できれば、生活習慣の改善によって元に戻せる場合が多いとしています。そのためには、バランスの良い食事を心がけること、喫煙や飲酒を控えること、定期的に運動をすること、そして十分な睡眠を取ることが重要です。

研究によると、インスリン抵抗性を持つ人は、インスリン感受性が正常な人に比べて身体活動量が少ない傾向があります。また、身体活動量が少ないと炎症マーカーの値が高くなり、これがインスリン抵抗性のリスクを高める要因となることが分かっています。

鄭元瑜(ジェン・ユアンユー)医師によれば、運動はインスリン抵抗性の予防と改善の両方にとって非常に効果的です。運動をすることで筋肉細胞がブドウ糖を取り込む量が増加し、その結果、血糖値を下げる効果が期待できると言います。
 

(翻訳編集 華山律)

香港を拠点とするエポックタイムズの記者で、主に統合医療を専門に扱っている。
英文大紀元が提供する医療・健康情報番組「健康1+1」の司会者を務める。海外で高い評価を受ける中国の医療・健康情報プラットフォームであるこの番組では、コロナウイルスの最新情報、予防と治療、科学研究と政策、がんや慢性疾患、心身の健康、免疫力、健康保険など、幅広いテーマを取り上げている。