運動処方がもたらす体と心への効果とは

米国疾病対策センター(CDC)、世界保健機関(WHO)、米国心臓協会(AHA)などの主要な保健機関は、多数の心身の健康状態の治療や予防運動が不可欠であるとして、運動を強く推奨しています。

米国スポーツ医学会(ACSM)は、健康増進に運動が不可欠な手段であるとして、診察のたびに身体活動の重要性を訴えています。一部の医師は、患者の身体活動レベルを評価し、個別に「運動処方」を行うようになってきましたが、ほとんどの医師はまだこの方法を導入していません。 医師がこの方法を導入すべき理由は以下の通りです。

もっと体を動かして、より健康に

CDCが挙げた慢性疾患の主な修正可能な危険因子のいくつか、例えば喫煙、栄養不良、運動不足、過剰な飲酒などの中で、運動不足は最も注目されていないかもしれません。 しかし、そではありません。

運動不足は、2型糖尿病、肥満、心血管疾患、高血圧、不安、うつ病、多数のがんなど、多くの深刻な健康問題の重大なリスク要因です。フィットネスレベルを向上させることで、これらの状態のリスクを効果的に軽減することができ、睡眠の質記憶力、認知能力の向上といった「副次的効果」も期待できます。

「脊椎と疼痛管理の医師として、私は日々、運動が患者にとってどれほど効果的であるかを目の当たりにしています。慢性的な痛みの管理、怪我からの回復、あるいは単に健康維持のためであっても、定期的な運動はしばしば大きな違いをもたらします」と、麻酔学と疼痛医学の2つの専門医資格を持ち、ロサンゼルスに「脊椎・疼痛研究所」を設立したタヘル・サイフラ(Taher Saifullah)医師は本紙に語りました。

Primary Care: Clinics in Office Practice誌に掲載されたレビュー記事は、2013年には、不活動(肥満ではなく)が世界的に4番目に多い死因であったと指摘しています。また、Circulation誌に発表された2016年の研究論文では、個人の心臓血管系と呼吸器系が細胞に酸素を供給する能力である低心肺持久力は、「喫煙、高血圧、高コレステロール、2型糖尿病などの既知のリスク要因よりも、死亡の可能性をより強く予測する可能性がある」と指摘しています。 他の専門家は、運動不足を「21世紀における最大の公衆衛生上の問題」と指摘しています。

 

運動の力、処方される

西洋医学では慢性疾患の治療には薬理学的アプローチが好まれる傾向にありますが、運動を予防手段として、また治療計画の一部として取り入れることは、リスクが低く、費用もかからず、効果的です。

ACSMと米国医師会は2007年に「運動は医療」イニシアティブを開始し、「身体活動の評価と促進を臨床ケアの標準とする」ことを目指しています。ACSMは、患者の来院時には、血圧や体温と同様に身体活動もバイタルサインとして評価すべきであると提言しています。また、医療従事者は「簡単なアドバイスやカウンセリング(または運動処方)」を行い、「患者を適切な身体活動リソース(プログラム、専門家、施設)」に紹介すべきであるとしています。

「運動処方(ExRx)という考え方、つまり、医師が薬を処方するように正式に運動を処方するという考え方は、広まりつつある傾向です。運動がさまざまな症状の予防と治療にいかに効果的であるかを示した確かな研究に根ざしています」とサイフラ氏は言います。

ACSM(およびその他の団体)は、一般開業医が患者に運動を日常的に効果的に取り入れるよう勧めるのに役立つリソースも提供しています。患者の運動レベルとリスク要因の評価、適切な運動処方の選択、経過観察時の再評価計画の策定に関するガイダンスを提供しています。

 

運動処方の障壁

運動の健康効果や運動不足の危険性に対する認識が高まっているにもかかわらず、多くの医師は患者の運動レベルについて尋ねたり、この分野での行動変容を促したりしていません。これにはいくつかの理由があるかもしれません。

例えば、2015年に米国で実施された医学教育カリキュラムのレビューでは、同国で研修を受けた医師の半数以上が運動に関する正式な教育を受けていないことが判明しており、そのため患者に運動について助言する準備ができていないと感じている可能性があります。

「ほとんどの医師が運動処方を書かないのは、時間的な制約、運動科学のトレーニング不足、薬物治療に重点を置いていることが原因です。真の運動処方を書くには、患者の現在の身体状態を評価し、安全で効果的な計画を立て、長期間にわたって進捗状況を監視する必要があります。これらはすべて、薬を処方するよりも多くの時間を要します」とサイフラ氏は言います。

また、いくつかの研究では、医療従事者自身の運動習慣と、患者に運動を勧める意欲との間に相関関係があることが分かっています。 自身がより活発に運動している人ほど、患者に運動を勧める可能性が高いのです。 しかし、米国のプライマリーケア医の40%は、自ら身体活動の推奨を満たしていません。

今すぐ医師の診察を受けましょう – ウォーキング

しかし、オハイオ州の心臓専門医であるデビッド・サビージ(David Sabgir)医師のように、この問題に対して創造的なアプローチを取り、患者と一緒に運動している医師もいます。

臨床現場で患者の行動変容を促すことができないことにいらだたしさを感じていたサビージャ医師は、患者たちを地元の公園での散歩に誘いました。 驚いたことに、多くの患者が参加し、「Walk with a Doc」が結成されました。現在では、世界中に数百の支部があります。

このプログラムでは、医師が健康に関するトピックについて短い講演を行い、その後、参加者のペースに合わせてゆっくりと散歩をします。

 

運動処方箋の入手方法

運動に関する確立された行動を変えるのは難しいことです。それでも、プライマリケアの担当者が患者に身体活動について話し、ExRxを処方することで、良い結果が得られるという証拠があります。「運動が薬の処方と同じレベルで注目されると、患者はより真剣に取り組む傾向があります。運動が、患者が従うべき特定の計画として扱われると、患者は運動を継続する可能性が高くなります」とサイフラ氏は言います。

多くの患者は、医師のサポートを望んでいます。オーストラリアの作家、ステイシー・ハーダー(Stacey Harder)氏は、本紙に「長年減量に苦労してきた者として、私は医師から減量を勧められることがよくありますが、実際的な個別指導がなければ、それは健康目標をサポートするものというよりも、漠然とした提案のように感じられます。…肥満に関連する健康リスク、例えば心臓病や糖尿病に直面している私たちにとって、医師とのパートナーシップが加われば、すべてが変わる可能性があります」と自身の経験を語りました。

保険プランにジムの会員権や運動プログラムの割引があるかどうか、少し調べてみる価値はあります。患者はそれらについて認識していません。また、税制優遇措置のある金融口座である医療貯蓄口座(HSA)や柔軟性貯蓄口座(FSA)は、運動プログラムや器具などの健康関連の費用に利用することができます。患者が、運動プログラム(または製品)が特定の症状の治療または予防計画において必要不可欠であることを示す医師からの医療必要性証明書(LMN)を取得している場合、HSAまたはFSAの資金を使用して支払うことが可能になる場合があります。

患者は、実際に医師に運動処方を依頼できることを知らない場合があります。「患者は、興味があれば運動処方を依頼することができますし、依頼すべきです」とサイフラ氏は言います。「具体的なプランを求めたり、理学療法士や運動生理学者など、運動療法を専門とする誰かを紹介してもらうよう依頼することもできます。患者も医師も、ExRxをオプションとして検討する力を得たと感じるべきです。なぜなら、それは予防と治療の両方のケアにおいて非常に価値のあるものになり得るからです」と彼は指摘しています。
 

(翻訳編集 華山律)