中国の伝統的な暦では、「大寒(たいかん)」は春の気(木気)が地球全体の気候を主導し始めるタイミングとされています。今年は蛇年(乙巳年)であり、大寒を境に木気が強まるとされています。この考え方は、健康管理や養生の面でどのような意味を持つのでしょうか?
春雷は、春の気(木気)がやってきたことを知らせる自然のサインです。今年の大寒である1月20日、その夜には雷と稲妻が走り、今年最初の「春雷」が鳴り響きました。この雷雨は、自然界が「木気が到来した」と告げる出来事です。雷の音は木気そのものを象徴し、大地を目覚めさせ、生き生きとした生命活動を促し、春の支配が始まることを知らせる役割を果たしています。
人体では「肝」が木気と深く関わっています。自然界の木気が活発になるこの時期、人間の肝もその影響を受けるため、肝の働きを適切に整えることが重要です。もし肝の気が乱れると、心肺機能や感情のバランス、消化器系(脾胃)の働きにも影響が出ることがあります。
特に今年の蛇年は、気候や自然界の木気の特徴を理解し、それを養生に取り入れることが大切です。そのポイントは「肝のバランスを整え、五臓六腑の気の調和を保つこと」です。具体的には以下のような工夫をするとよいでしょう。
- 食事に気を配る 体を温める食材を意識し、消化に優しいものを取り入れましょう。例えば、生姜やネギ、春野菜などが適しています。
- 適度な運動 春の柔らかな陽気を感じながら、散歩や軽いストレッチを日課にしましょう。これにより、気血の流れがスムーズになります。
- ストレスをためない 肝の気は感情のバランスとも深く関係しています。リラックスできる時間を作ったり、深呼吸や瞑想などで心を落ち着ける習慣を持つと良いでしょう。
こうした工夫を日常生活に取り入れることで、体内の気の流れがスムーズになり、心身ともに健康的でエネルギッシュな春を迎えることができます。
冬の終わりと春の始まり
今年は乙巳(きのとみ)年、つまり「蛇年」にあたります。古代中国の医書『黄帝内経』では、蛇年には特有の気候やエネルギー(気)の影響があるとされています。今年の特徴としては、大寒(1月20日頃)から春分(3月20日頃)の約2か月間、地球上に「木気」(春を象徴するエネルギー)に加え、「金気」という冷たく乾燥したエネルギーが強く作用する点が挙げられます。
五行思想(木・火・土・金・水)では、毎年の気候はこれらのエネルギーの影響を受けています。今年は特に「木気」と「金気」が同時に作用するため、人間の体にも特徴的な影響を与えると考えられます。
木気は春のエネルギーで、自然界や人間における「成長」や「発展」を助ける働きがあります。しかし、金気には木気を抑える性質があり、五行思想ではこれを「金克木(きんもくをこくす)」と呼びます。このため、今年の冬の終わりから春の初めにかけて、木気の力が十分に発揮されにくくなり、体にさまざまな影響が出る可能性があります。
特に、木気が対応している「肝(かん)」の働きに影響が出やすく、精神面や身体に不調を感じることがあるかもしれません。例えば、イライラしやすくなったり、気分が沈みがちになることがあります。また、不安感や不眠、慢性的な疲れを感じることもあるでしょう。さらに、目が疲れやすくなったり、視力が落ちたように感じることも考えられます。
一方、金気は「肺」と「大腸」と深く関わりがあり、冷たく乾燥した性質を持っています。そのため、今年は便秘になりやすかったり、喉が乾いて空咳(からぜき)が出ることがあるかもしれません。また、肺や大腸が乾燥し、不快感を覚えることも考えられます。
こういった症状は、通常であれば秋に出やすいものですが、今年は冬の終わりから春の初めにかけても同じような不調が現れる可能性があります。これらは、今年特有の「金気」の影響が強まることによって起こると考えられます。
養生のポイント 肝を整え、肺と腸を潤す
今年の冬の終わりから春の始まりにかけて、健康を保つためには次の3つを意識することが大切です。
まず一つ目は、「肝(かん)の調子を整えること」です。肝の働きがうまくいかないと、イライラしやすくなったり、不眠や目の疲れといった不調が出やすくなります。肝の調子を整えることで気分が安定し、体全体の調子も良くなります。この時期は、特に心のリラックスや休息を心がけましょう。
次に、「肺や腸をしっかり潤すこと」も重要です。この季節は乾燥しやすく、肺や腸が影響を受けやすい時期です。そのため、便秘や乾燥による咳などのトラブルが起こることがあります。たっぷり水分を取ったり、食事に水分を多く含むものを取り入れることで、体の中をしっかり潤すよう心がけましょう。
最後に、「肝と胃腸のバランスをとること」がポイントです。肝と胃腸(特に消化機能)はお互いに影響を与え合っています。肝が不調になると胃腸の調子も崩れやすくなり、逆に胃腸が弱ると肝の働きにも悪影響を及ぼします。適切な食事を心がけ、肝と胃腸のバランスを整えることで、体全体のエネルギー(気)の流れがスムーズになり、健康を保つことができます。
冬の終わりから春の始めにかけては、体調を整えるために特定の食材を取り入れるのがおすすめです。
まず、青魚類では脂ののった「ブリ」が特に良いとされています。ブリは日本の冬を代表する味覚で、栄養価が非常に高く、肝の働きを元気にしながら血を補う効果があります。また、乾燥しがちな体に潤いを与えてくれるので、この季節にはぴったりの食材です。
次に野菜類では、レンコン、ダイコン、ニンジンがおすすめです。これらの野菜は腸を潤し、便秘を防ぐ働きがあります。また、白菜、ネギ、ニラといった野菜は体を温める効果があり、気(エネルギー)の巡りを良くしてくれます。さらに、昆布や海藻類もこの季節に取り入れたい食材です。肺を潤し、乾燥を防ぐ働きが期待できるため、喉や肺の不調が気になる人には特におすすめです。
この時期にぜひ試してほしいのが、旬のブリを使った料理です。煮物や照り焼き、しゃぶしゃぶなど、さまざまな料理にアレンジが可能で、食卓を彩るだけでなく、体を内側からしっかりケアしてくれます。季節の変わり目を健やかに乗り越えるために、これらの食材を上手に取り入れてみてください。
鰤(ブリ)は「天然の肝を養う妙薬」
鰤(ブリ)の魚肉には、深い茶色や赤みがかった部分があり、この色は人体の肝臓の色に似ています。そのため、鰤は肝血を補い、肝臓を守る効果があると考えられています。
現代の研究では、鰤が健康的な脂質を多く含み、特にオメガ3脂肪酸が豊富なことを確認しています。この脂肪酸は血液循環を促し、血管を潤す働きがあり、肝血不足が原因の視力低下や疲労、情緒不安定、乾燥、かゆみなどを予防するのに役立ちます。
日本では大寒の時期に鰤が旬を迎えます。この時期の鰤は特に脂がのり、肉質が柔らかく、体に吸収されやすい状態です。自然が人間に与える季節の恵みといえるでしょう。
鰤は別名「青甘(せいかん)」とも呼ばれ、これはその養生効果を表しています。五行思想では、青は木を象徴し肝に対応するため、鰤には肝を養う力があります。一方、甘は土を象徴し脾胃に対応するため、消化機能を助ける働きもあります。
このように、鰤は肝と脾を調和する食材です。さらに鰤は腎にも作用します。腎は肝を支える「母」のような存在とされているため、鰤を食べることで肝、脾、腎のバランスを整えることができます。これは冬末から春の初めにかけての養生に理想的です。
鰤(ブリ)と大根の養生料理
適した体質 すべての体質におすすめですが、特に脾胃が弱い人や気血不足の人に最適です。
適した人数 2~3人分
材料と効果
- 鰤(ブリ)切り身 300グラム
肝を元気にし、気血を補う効果が期待できます。 - 大根 300グラム
肝の気の巡りを良くし、脾胃を整え、消化を助けます。また、肺を潤して便通を良くし、痰を減らして咳を抑える効果があります。 - 生姜 スライス5枚
魚の臭みを取ると同時に、体を温め、胃腸を整え、気血を巡らせます。また、吐き気を抑える作用もあります。 - 醤油 大さじ2
- みりん 大さじ2
- 砂糖 小さじ1
- 酒 大さじ3
- 水 300ミリリットル
作り方
- 大根は皮をむかずに厚めの輪切りにします(皮を残すと肝を整え肺を潤す効果が高まります)軽く茹でて下ごしらえしておきます。
- 鰤の切り身は熱湯をかけて軽く茹で、臭みを取ります。
- 鍋に水、生姜、醤油、みりん、砂糖、酒を入れて火にかけ、沸騰させます。その後、大根と鰤の切り身を加えます。
- 弱火にして20~30分煮込みます。大根が柔らかくなり、鰤に味がしみ込むまで煮込んでください。
- 味を見て調整し、必要に応じて少し煮詰めて煮汁を減らします。完成したら盛り付けてお召し上がりください。
効果
この料理は脾胃を元気にし、気血の巡りを良くします。肝と脾のバランスを調和させ、寒さから体を守り、免疫力を高める効果も期待できます。また、肺と大腸を潤し、乾燥による咳や便秘といった不快な症状を予防するのにも役立ちます。
鰤(ブリ)の照り焼き
適した体質 気虚(エネルギー不足)や寒がりの体質の方におすすめ
適した人数 2人分
材料
- 鰤(ブリ)切り身:200グラム
- 醤油 大さじ2
- みりん 大さじ2
- 砂糖 小さじ1
- 酒 大さじ1
- 油 少々
作り方
- 鰤の切り身の水気をしっかり拭き取り、表面に少量の塩を振って10分ほど置きます。これにより臭みが取れ、味が締まります。
- フライパンを中火で熱し、少量の油を引きます。鰤の切り身を入れ、両面がこんがりとした黄金色になるまで焼きます。
- 醤油、みりん、砂糖、酒を混ぜたタレをフライパンに加えます。タレを鰤に絡めながら煮詰め、汁がとろりとして魚全体に均一に絡むまで煮ます。
- 鰤を皿に盛り付け、必要に応じて上から少量の煮汁をかけます。お好みで白ごまを振りかけると見た目もきれいに仕上がります。
効果
鰤の照り焼きは、体を温める作用があり、腎を補い、気血を補充する効果があります。特に寒さが残る冬から春にかけての疲労回復に役立ちます。また、エネルギーを増やして体力を強化するのにも適しているため、寒がりの方や疲れやすい方にぴったりの料理です。
鰤(ブリ)の味噌汁
適した体質 脾胃が弱い方、肝の熱が強い方、または体が乾燥しがちな陰虚体質の方におすすめ
適した人数 2~3人分
材料と効果
- 鰤(ブリ)または鰤のアラ(頭など) 200グラム
肝を養い、体を温める効果があります。 - 豆腐 100グラム
肺を潤し、脾を元気にする作用があります。 - 昆布 適量
腎を補い、肝の巡りを良くするほか、熱を冷まし、肺を潤す 効果があります。また、痰を除き、しこりを和らげる働きも期待できます。 - 味噌 大さじ2
消化を助け、体を温める働きがあります。 - 青ネギ 少々
寒さを散らし、肝の気を整え、ストレスを和らげる作用があります。 - 水 500ミリリットル
作り方
- 鰤または鰤のアラを熱湯に通し、表面の臭みや汚れを取り除きます。その後、水気を切っておきます。
- 鍋に水と昆布を入れて加熱し、昆布出汁を取ります。出汁が出たら昆布を取り出してください。
- 昆布出汁に鰤と豆腐を加え、中火で10分ほど煮込みます。
- 少量の出汁を使って味噌を溶き、鍋に加えます。味噌を入れた後は、沸騰させないように弱火で温めます。
- 最後に刻んだ青ネギを散らし、完成です。
効果
この鰤の味噌汁は、肝と腎を養い、体内の気血と陰陽のバランスを整えるのに効果的です。体にこもった熱やイライラした気分を和らげ、乾燥による不調を改善する助けになります。特に、大寒の時期から初春にかけての体調管理にぴったりの一品です。
まとめ
昔から「薬で補うより、食で補うほうが良い」と言われています。鰤を使った料理は、体質や季節に合わせて調整しやすく、大寒から春先にかけての養生に最適です。体を温め、肝と脾を調和させ、乾燥を防ぎながら、心身を健やかに整える効果があります。さらに、日本の伝統的な美味しい料理を楽しむことができるので、ぜひ試してみてください。
(翻訳編集 華山律)
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