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迷走神経を活性化してうつを和らげる方法

30代半ばのある女性が、統合医療の専門家であるプリヤル・モディ医師のもとを訪れました。彼女は人生の大きな転換期を迎えており、親を亡くした悲しみや長年の恋愛関係の終わり、さらには仕事のストレスに直面していました。自分の人生を見つめ直すために休職を決意したものの、孤独感や抑うつ感が強まり、自己批判や過去の出来事を繰り返し考えてしまう状態に陥っていました。

「彼女はすでに抗うつ薬を処方されていましたが、副作用に悩まされていました」とモディ医師は語ります。

そこで、週に一度の呼吸法セッションを始めることにしました。呼吸法は迷走神経を刺激するとされており、同時に、彼女が無意識に繰り返していた思考のパターンに気づくことにも重点を置きました。10回目のセッションを迎える頃には、彼女の症状は大幅に改善されていました。

不安やうつなどの精神的な不調の多くは、自律神経のバランスが乱れることに起因しています。その中でも迷走神経は、心の安定を取り戻す上で重要な役割を果たしているのです。

迷走神経の刺激が気分を整える理由

迷走神経は、脳と体をつなぐ主要な経路であり、気分や感情のコントロール、ストレスへの耐性に深く関わっています。

迷走神経を刺激すると、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が抑えられ、リラックスを促す神経伝達物質の放出が増加します。オーストラリアの自然療法医であり、「Revital Health」のオーナーでもあるジョディ・デュバル医師によると、迷走神経の働き(迷走神経のトーン)が高まることで、炎症の軽減にもつながるといいます。実際に、うつや不安障害の人は体内の炎症レベルが高いことが多く、この働きが症状の改善に寄与すると考えられています。

モディ医師によれば「闘争・逃走(ファイト・オア・フライト)」モードは、命の危険がある状況では不可欠な反応ですが、慢性的なストレス状態や日常の些細な出来事によってこの反応が頻繁に引き起こされると、気分や精神状態に悪影響を及ぼすといいます。

「この状態が続くと、認知機能が低下し、感情のコントロールが難しくなり、精神的な消耗、不安、うつの原因となります。さらに、社会的なサインの受け取り方さえ歪んでしまうことがあります」と彼女は説明しています。

迷走神経刺激(VNS)の効果に関する最初の研究の一部は、部分発作を持つ患者を対象としたものでした。もともとは発作のコントロールを目的に行われていましたが、思わぬ副次的な効果として、患者の精神状態が改善することが観察されたのです。

VNS療法を3か月受けた人々は、体内のセロトニン活動を示す指標である5-ヒドロキシインドール酢酸のレベルが上昇していました。これは、VNSが脳内のセロトニンの働きを強める可能性を示唆しています。

さらに、患者の生活の質にも改善が見られました。具体的には、感情の安定や社会的な適応力の向上、そして全体的な幸福感の増加が報告されています。これは、迷走神経が気分を調整する脳の領域と深く関わっているためと考えられています。

こうした研究結果を受け、VNSはその後、アメリカ食品医薬品局(FDA)によってうつ病治療法として承認されました。VNSの抗うつ効果は、治療を続ける中で徐々に現れ、長期的な改善が期待できるとされています。

 

呼吸と感覚への刺激で神経を整える

ゆっくりとコントロールされた呼吸は、迷走神経を刺激する強力な自然療法のひとつです。

「この習慣を取り入れることで、即座に落ち着く効果が得られるだけでなく、長期的な精神的な回復力も高めることができます」とデュバル医師は述べています。

また、モディ医師はこう語ります。「呼吸の仕方を変えることで、脳内に新しい神経回路を作り、神経の可塑性を高めることができます。これにより、自分の健康を主体的に管理し、人生の困難を乗り越える力が身につくのです」

神経のバランスを整える方法としては、感覚への刺激も効果的です。例えば、顔を水で洗う、温かいシャワーを浴びる、冷たい飲み物を飲む、重みのあるブランケットにくるまる、裸足で草の上に立つ、あるいは誰かとしっかり抱きしめ合ったり、背中を優しくかいたりすることも役立ちます。

教育心理学者のリダライゼ・グロブラー氏は、実際の臨床現場での例を紹介しています。

彼女が担当した7歳の少女は、極度の不安に苦しみ、頻繁にパニック発作を起こし、激しいかんしゃくを伴うことがありました。最初、両親は単に「扱いにくい子」と考えていましたが、実際には神経のバランスが崩れやすく、ストレスに圧倒されやすい状態だったことが明らかになりました。最初のステップは、彼女の神経を落ち着かせることでした。

「いくつかの方法を試しましたが、最も効果的だったのは意外にもシンプルなことでした。それは、背中を軽くかいてあげることだったのです」とグロブラー氏は語ります。

この背中をかくという行為は、彼女を瞬時に落ち着かせ、感情を安定させるのに役立ちました。

「神経のバランスが崩れた状態を、頭でどうにかしようとしないでください。それは体の問題なのです」とグロブラー氏は指摘します。

ただし、神経が乱れる原因そのものに向き合うことも大切です。感覚刺激を使って問題から気をそらすのではなく、迷走神経の働きを整えることで、心身のバランスを取り戻し、冷静に考えられる状態にすることが重要なのです。

「バランスが整った状態なら、問題に振り回されるのではなく、落ち着いて向き合うことができるのです」とグロブラー氏は説明しています。

 

心のバランスを取り戻し、新たなつながりを築く

迷走神経を整える呼吸法を続けた結果、モディ医師の患者の変化は目を見張るものがありました。彼女は落ち着きと自信を取り戻し、姿勢も開放的になりました。抗うつ薬による震えや発話のしづらさといった副作用も消え、サプリメントの活用も効果を発揮しました。

さらに、母親との関係では適切な距離感を築けるようになり、新しい恋愛を始め、趣味や社会活動にも積極的に参加するようになりました。慎重なサポートのもとで少しずつ薬を減らし、依存傾向にも向き合うことができたのです。

「今では彼女は充実した日々を送っています。学んだ呼吸法を活用しながら、自分の感情をコントロールし、心と体のつながりを大切にしています」「彼女は幸せで、自分自身をよく理解し、必要なことをきちんと選び取れるようになりました」とモディ医師は語ります。
 

(翻訳編集 華山律)

ゼナ・ルー・ルーは、健康ジャーナリストで、健康調査ジャーナリズムの修士号を持ち、機能栄養に特化した認定健康およびウェルネスコーチです。スポーツ栄養学、マインドフルイーティング、内的家族システム、および応用ポリヴェーガル理論のトレーニングを受けています。彼女はプライベートプラクティスで働き、英国に拠点を置く健康学校の栄養教育者としても活動しています。