アメリカでは、65歳以上の約4分の1が健康状態があまり良くない、または不良とされています。生物学的な年齢を変えることはできませんが、生活習慣を見直すことで老化の進行を遅らせ、慢性疾患や体力の衰えを防げる可能性があります。
生物学的年齢とは、細胞や体の組織の健康状態を指し、遺伝や環境などさまざまな要因によって決まります。
最近の臨床試験では、オメガ3脂肪酸のサプリメントが老化をわずかに遅らせる可能性があることが分かりました。さらに、ビタミンDの摂取や家庭での運動と組み合わせることで、その効果がより高まることが示されています。
自然健康の分野で知られる、米国認定の家庭医学専門の整骨医ジョセフ・マコーラ博士は、生活習慣が老化を遅らせる可能性があることには同意しつつも、この臨床試験のいくつかの結果には疑問を投げかけています。
「サプリメントだけに頼るのは良い方法とは言えません。本来、体は自然な方法で栄養を摂取すべきです」と、マコーラ博士は『大紀元時報』へ報告しています。
研究結果
「DO-HEALTH試験」といわれている、この臨床研究は、科学誌『Nature Aging(ネイチャー・エイジング)』に発表されました。本研究は過去の段階と現在の段階に分かれており、過去の段階では、3つの介入策が健康的な老化と関連していることが確認されました。そして現在の段階では、これらの生物学的な老化の改善にも関係していることが明らかになりました。
介入策と健康改善の関係
研究の第一著者であり、チューリッヒ大学の臨床研究員兼老年医学専門家であるハイケ・A・ビショフ=フェラーリ博士は、『大紀元時報』へ研究結果について語っています。
本試験の過去の段階には、健康状態が概ね良好な70歳以上の参加者2,100人以上が含まれていました。
「私たちの研究では、オメガ3脂肪酸のサプリメントを摂取することで、転倒のリスクが10%低下し、感染症の発症率が最大13%低下することがわかりました」と彼女は述べています。「さらに、オメガ3脂肪酸・ビタミンD・運動を組み合わせることで、早期衰弱リスクを39%減少させ、進行性がんのリスクを61%低下させることが確認されました。」
早期衰弱(Pre-frailty)とは、身体機能の低下が進む前の初期段階に現れる健康上の悪影響を指します。一方、機能的な衰えとは、日常生活の動作が徐々に困難になっていく状態を指します。
介入により生物学的老化を緩やかに
過去の研究段階で健康への良い影響が確認されたことを受け、現在、次の研究段階に入っており、これらの介入方法が老化を遅らせる効果があるかどうかを詳しく調査しました。そのために、最も信頼性の高い生物学的年齢の分子マーカーである「エピジェネティック・クロック(後成遺伝学的時計)」を用いて観察を行いました。
エピジェネティクス(後成遺伝学)とは、生まれ持った遺伝子が、環境要因によって時間とともに変化する仕組みを指します。
この臨床試験の共同著者であり、エピジェネティック・クロックの発明者でもあるAltos Labsの主任研究員スティーブ・ホルヴァート氏は、『大紀元時報』の取材に対し、その概念について説明しています。
「エピジェネティック・クロックは、分子レベルで老化の過程を描き出します」と彼は述べています。「研究者は、DNAの化学変化に基づいて、人の年齢や死亡リスクを推定することができます。これらの変化はDNAの配列自体を変えるわけではありませんが、遺伝子の発現に影響を与えます。遺伝子発現は、その遺伝子がどのように機能するかを決定する要素であり、これは照明の明るさを調整するスイッチのようなものです。」
DO-HEALTH試験の現在の研究段階では、70歳以上の参加者777人を対象に、3年間の観察が行われました。研究チームは、プラセボ(対照群)グループのほか、以下を含む8種類の治療法をテストしました。
・1日1グラムの海藻由来オメガ3脂肪酸サプリメントを摂取
・1日2,000国際単位(IU)のビタミンDサプリメントを摂取
・週3回、30分間の家庭での筋力トレーニングを実施
ビショフ=フェラーリ博士は次のように述べています。「エピジェネティック・クロックの研究結果から、オメガ3脂肪酸のサプリメントが生物学的年齢の進行を遅らせる可能性があることがわかりました。さらに、オメガ3、ビタミンD、運動を組み合わせることで、その効果がより顕著になることも確認されました。3年間で生物学的年齢の進行が3~4カ月ほど遅れるという結果が得られています。」
彼女は、これらの効果は個人レベルではそれほど大きくないように見えるかもしれませんが、長期的に継続することで、集団の健康に重要な影響を与える可能性があると指摘しています。
オメガ3脂肪酸:サプリメントか、それとも食事か?
2020年に学術誌『Nutrients(ニュートリエンツ)』に発表されたレビュー論文は、DO-HEALTH試験の結果を支持し、オメガ3脂肪酸のサプリメントが健康的な老化と関係していると指摘しています。この論文によると、サプリメントは慢性疾患に関連する炎症を抑える可能性があり、特に加齢による筋肉量や筋力の低下(フレイル)といったリスクの軽減に役立つ可能性があるとされています。ただし、サプリメントの効果についての証拠はまだ不十分であり、さらなる研究が必要だと著者は述べています。
一方、ジョセフ・マコーラ博士は、DO-HEALTH試験で示された「オメガ3脂肪酸サプリメントが老化を遅らせる」という結論の一部に疑問を呈しています。彼は、サプリメントではなく食品からオメガ3脂肪酸を摂取すべきだと主張しています。
「オメガ3脂肪酸の抗老化効果には疑問があります。確かに、DO-HEALTH試験を含むいくつかの研究ではその利点が示唆されていますが、体がこの栄養素を利用できる量には限界があり、特にサプリメントの形で過剰に摂取すると逆効果になる可能性があります。例えば、深刻な不整脈(心房細動など)のリスクを高める可能性があるのです。」
このリスクについては、2022年に学術誌『Circulation(サーキュレーション)』に発表された研究でも指摘されています。この研究では、オメガ3脂肪酸が心筋細胞の膜を薄くし、柔軟性を高めることで細胞の特性を変化させることが明らかになりました。この変化が、心臓の正常な収縮に必要な電気活動に影響を与える可能性があるとされています。
マコーラ博士は、オメガ3脂肪酸の健康効果が最もよく見られるのは、天然の食品(例えば天然の魚等)から摂取した場合であり、サプリメント単体での効果ではないと指摘しています。
「食事から適量のオメガ3脂肪酸を摂取することで、全体的な健康をサポートできます。一方、多量のサプリメントを摂取すると、かえってリスクを伴う可能性があります」と彼は述べています。
オメガ3脂肪酸を多く含む食品
オメガ3脂肪酸に関する研究の多くは、α-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)の3種類の成分を対象としています。
アメリカの食事ガイドライン(The Dietary Guidelines for Americans)では、栄養は食品から摂取することを勧めています。これは、食品には単一の栄養素だけでなく、健康に役立つさまざまな成分が含まれているためです。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)によると、オメガ3脂肪酸の推奨摂取量は 男性1.6g/日、女性1.1g/日 です。以下は、アメリカ農務省(USDA)およびNIHのデータに基づく、オメガ3脂肪酸を多く含む食品の一覧です。
植物由来(ALAを多く含む食品)
・亜麻仁(フラックスシード/全粒) – 大さじ1杯あたり 2.4g
・チアシード – 1オンス(約28g)あたり 5g
・クルミ(イングリッシュウォルナッツ) – 1オンスあたり 2.6g
・ヘンプシード(麻の実) – 大さじ1杯あたり 2.6g
魚介類(ALA・EPA・DHAを含む食品)
・天然サーモン(加熱済み) – 3オンス(約85g)あたり 1.6g
・サーディン(トマトソース漬け缶詰) – 3オンスあたり 1.2g
・大西洋サバ(加熱済み) – 3オンスあたり 1.1g
・ニジマス(天然) – 3オンスあたり 0.8g
・ニシン(加熱済み) – 3オンスあたり 1.7g
栄養士であり、植物性食事の専門家であるヴァンダナ・シェス氏は、食事からオメガ3脂肪酸を適切に摂取するためのアドバイスを提供しています。
彼女は『大紀元時報』の取材に対し、次のように述べています。「植物性食品からオメガ3脂肪酸をしっかり摂取するために、亜麻仁・チアシード・クルミのいずれかを1日1~2回食べること を目標にしましょう。ただし、ALAがEPAやDHAに変換される効率は限られているため、藻類由来のオメガ3オイルを補助的に摂取するのも有効 です。一方、魚を食べる人は、脂ののった魚を週に2回以上食べることで、EPAとDHAの推奨摂取量を満たすことができます。」
ビタミンD:サプリメントか、それとも日光か?
マコーラ博士は次のように述べています。「ビタミンDは免疫の調整、炎症の抑制、そして細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの健康維持にとって非常に重要です。これらは細胞の修復や老化の進行を遅らせるための鍵となります。」さらに、「ビタミンDは運動と組み合わせることで、健康的な老化を促す重要な調整要因となる」とも付け加えています。
2023年に科学誌『International Journal of Molecular Sciences(国際分子科学ジャーナル)』に発表された総論文も、マコーラ博士の見解を支持しています。この論文では、ビタミンDが免疫機能の向上、炎症の抑制、ミトコンドリア機能の維持に重要な役割を果たしていることを示しています。
また、著者らは、ビタミンDが細胞の恒常性(ホメオスタシス)を通じて老化のプロセスに影響を与えることを発見しました。細胞の恒常性とは、細胞が正常に機能するために必要な内部環境(温度、pH値、酸素濃度など)を一定に保つ仕組みのことです。細胞が適切に働くためには、これらの要素が特定の範囲内に収まっている必要があります。論文では、ビタミンDサプリメントの使用が老化に関連する疾患にどのように影響するかについていくつかの研究が行われているものの、標準化された適用方法がまだ確立されていないことが指摘されています。
マコーラ博士は、ビタミンDが老化の過程で重要な役割を果たすことに同意しつつも、サプリメントや食事ではなく、直接日光を浴びることで摂取することを推奨しています。
「ビタミンDは主に食事から摂取するものではありません。確かに一部の食品には含まれていますが、人間の体は主に日光を浴びることでビタミンDを生成します。日光こそが自然界における最高の供給源なのです。ビタミンDの健康効果についての初期研究は、サプリメントではなく、日光を浴びるとどうなるか、を前提に行われていました。肌の保護を考慮しながら、定期的かつ適度に日光を浴びることで、健康的なビタミンDレベルを維持できるだけでなく、細胞の修復や全身の健康にも良い影響をもたらします」と博士は述べています。
アンチエイジングと運動
2021年に科学誌『Aging』に発表された論文によると、運動は老化を防ぎ、寿命を延ばす効果的な方法の一つであることが示されています。研究では、運動が臨床面と細胞レベルの両方で有益であり、老化の進行を抑えるのに役立つことが明らかになっています。臨床面での効果には、認知機能の維持、心血管の健康促進、バランス能力の向上、筋持久力の強化、皮膚の健康維持などが含まれます。これらの機能は、加齢とともに低下しやすくなります。細胞レベルでの効果には、遺伝子の変異を防ぐことや、ミトコンドリア機能を調整することが挙げられます。これらはどちらも老化の指標とされています。
マコーラ博士は、適度な筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせた、計画的な運動習慣を取り入れることを推奨しています。彼によると、このような運動は、細胞内のミトコンドリア合成を促進し、インスリン感受性や心血管機能を改善するのに役立ちます。これらは、若々しい細胞の働きを維持するために不可欠です。
「計画的に運動を行い、週に40~60分程度取り組むことで、アンチエイジング効果が期待できます」と、マコーラ博士は述べています。「この方法は、機能低下の進行を遅らせ、慢性疾患のリスクを軽減するだけでなく、分子レベルでの老化を抑える、より効率的で持続可能なアプローチでもあります。」
サプリメントの副作用と注意点
オメガ3脂肪酸やビタミンDを、食事や日光ではなくサプリメントで摂取する場合、副作用や薬との相互作用に注意が必要です。
オメガ3脂肪酸
米国国立衛生研究所(NIH)の報告によると、オメガ3脂肪酸サプリメントの副作用は一般的に軽度で、胸やけ、下痢、不快な後味、吐き気、口臭、頭痛、胃腸の不調、汗のにおいの変化などが挙げられます。
また、血栓予防のために抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用している人は、オメガ3脂肪酸サプリメントの使用に注意し、定期的に経過を観察することが推奨されます。2024年に米国国立医学図書館(National Library of Medicine)に掲載された研究によると、オメガ3脂肪酸の摂取が血液の凝固機能を低下させ、抗凝固薬の作用を強める可能性があることが指摘されています。
さらに、オメガ3脂肪酸サプリメントは他の薬と相互作用を起こす可能性があるため、摂取を始める前に医師に相談することが望ましいです。
また、魚介類アレルギーのある人は、サプリメントの成分に注意し、使用を慎重に検討する必要があります。
ビタミンD
アメリカ国立衛生研究所(NIH)によると、ビタミンDを過剰に摂取すると毒性を引き起こす可能性があります。9歳以上の人が摂取できる最大許容量は、100マイクログラム(µg)、または4,000国際単位(IU)とされています。
また、通常の摂取量であっても、ビタミンDは以下の薬と相互作用し、悪影響を及ぼす可能性があります。
- オルリスタット(Orlistat):ダイエット薬の一種で、ビタミンDの吸収を妨げます。
- ステロイド(例:プレドニゾン(Prednisone)):炎症を抑える効果がある一方で、ビタミンDの代謝を阻害します。
- チアジド系利尿剤(例:クロルタリドン(Chlorthalidone)):体内のカルシウム濃度を上昇させる作用があり、特に腎機能が低下している人や副甲状腺ホルモンのレベルが高い人に影響を与える可能性があります。
時間の流れは止められず、老化に伴うさまざまな影響を避けることはできません。しかし、老化の進行を遅らせる方法は数多く存在します。
「老化を遅らせる万能な解決策はありません。特定の栄養素、サプリメント、運動のどれか一つだけで寿命を延ばすことはできないのです」とマコーラ博士は述べています。「長寿を実現するには、複数の体内システムが連携して機能する必要があります。そのため、ビタミンDと運動のような重要な介入策は、それぞれ異なる形で作用しながらも、互いに補い合うのです。結論として言えるのは、大自然こそが私たちに健康な体をもたらす最良の源であり、日光、運動、自然な食べ物を通じて健康を維持することが大切だということです。」
(翻訳 華山律)
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