日本時間30日に行われた、米中の女性司会者による生中継の討論会は、互いの主張を丁寧な言葉で放つのみで、形式的な格好で終えた。この討論について、中国官製メディアは、中国司会者・劉欣氏の主張のみを伝え、劉氏が番組中に述べた、自身が共産党員ではないことや、中国側の技術窃盗を認める発言を削除した。
Foxビジネスネットワークの司会者トリッシュ・レーガン(Trish Regan)氏と、中国国営中央テレビの海外英語放送CGTNの女性司会者・劉欣氏は30日、Foxの放送枠で劉氏が招待される形で、米中貿易について15分間の討論を行った。米国では生放送で視聴できたが、中国ではCGTNによる編集後の放送となる。
中国官製メディアは国内で「双方の対話の概要」とするものを発表したが、大部分は劉氏の主張を伝える内容で、レーガン氏の発言は一回だけ取り上げられた。
討論では、レーガン氏は、米司法省や世界貿易機関(WTO)、連邦捜査局などによる中国企業の窃盗被害に関する起訴の事例を掲げ、知的財産や技術の窃盗による米国の被害は数百億ドルに上るとした。この上で、どのように米国企業が中国で仕事を行えるのかどうかを、劉氏に問いかけた。
劉氏は、中国において、米国企業が現地企業と「協力する」ことは当然だとした。また、技術窃盗は一部の企業や個人で、広く一般的に見られる行為であると、中国企業による技術の窃盗を認めた。しかし、CGTNなど中国官製メディアはこのことを報道しなかった。
またレーガン氏が、信頼に基づく明確なルールのなかで貿易は行われるべきだと問いかけると、「ルールは国家間同士で異なり、貿易は複雑になっている」と述べた。
米国シンクタンク、ハイポイント研究所研究員の秦偉平氏は5月30日、台湾メディアの記者に対し、劉氏は追及を避けて、論点をそらしたと述べた。「中国は知的財産権保護について、かなり認識が薄く、場合によっては無法状態だ。中国に投資している外資企業の多く、また中国本土の新興企業でさえ、それらの知的所有権は保護されておらず、利益損失は非常に大きい」とした。
ニューヨーク州立大学ニューパルツ校経済学副教授の徐賽蘭氏は5月30日、ラジオ・フリー・アジアの取材に対して、中国は知的財産権の面で、法治が欠如していると指摘。中国政府が必要以上に企業の技術移転に介入していることは、米国側の懸念を招いていると述べた。
海外企業のすべては、中国でビジネスを行う場合、中国現地の合資会社と共同しなければならない。「もしある外国企業が、中国の合弁企業に技術を譲渡しなければ、中国政府はその外国企業を圧迫し、不用意な税徴収や中国の経済活動で不利な決定をする場合がある」と徐氏は述べた。
また、トリッシュ氏が、中国は国家が経済を統制する「国家資本主義」だと述べると、劉氏はこれを否定して「中国は中国の特色ある社会主義」であり、国営企業は後退し、民間企業の躍進による中国の成長を強調した。劉氏によると、8割の中国人は民間企業に勤めており、イノベーション技術については6割が民間企業により作られているとした。
前出の秦偉平氏によると、中国の民営企業は就職率や税収に多く貢献しているが、享受できる政策は「非国民待遇」だと述べた。泰氏によると、中国では、土地利用や税制、補助金、医療福祉など、多くの面で国有企業が優遇され、政策の独占的地位にあるとした。「国有企業が受けているような優遇は、民間企業ではほとんど受けられない」
米著名シンクタンク、ハドソン研究所在籍の中国研究者マイケル・ピルズベリー氏は5月29日、この米中司会者の討論について、「劉欣さんは落ち着いていた」 と評した。しかし、終始中国共産党のマウスピースとして働き、補助金などの問題について回答を避けていたと批判した。ピルズベリー氏は、両氏が第二の討論会を開くことを進め、補助金や税制など具体的な内容について議論することを提案した。
番組終了間際、劉氏はトリッシュ氏を北京訪問に誘った。トリッシュ氏は番組内で快諾した。
数時間後、CGTNは、劉氏に対してトリッシュ氏との討論番組の感想を聞く番組が設けられた。劉氏は、トリッシュ氏を「公平で友好的な人物」と述べ、個人間のメールでは心のこもった内容のものを受け取っていると語った。
(編集・佐渡道世)
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