お気に入りのダークチョコレートバーには、隠れた健康リスクが潜んでいます。7月31日に科学誌「Frontiers in Nutrition」で発表された新しい研究によると、一部の人気ダークチョコレート製品に、懸念されるレベルの重金属、特に鉛やカドミウムが含まれていることが明らかになりました。
ジョージ・ワシントン大学医学部とConsumerLab.comの研究者によって行われたこの研究では、2014~2022年にかけてアメリカで販売された72種類のダークチョコレートおよびココア製品を分析しました。この調査結果は、長年チョコレート業界で見過ごされていた健康問題に光を当てたものとなっています。
なぜチョコレートの重金属について調べるのか?
ダークチョコレートは、その高い抗酸化物質の含有量から健康効果が期待されてきましたが、最近では重金属汚染が報告されるケースが増えています。コンシューマー・レポートやAs You Sowなどの消費者向けメディアや第三者機関は、以前からこの問題を指摘してきました。
コンシューマー・レポートの2022年の報告では、ハーシー、セオ、トレーダー・ジョーズ、ゴディバ、Hu、イコールエクスチェンジなどの人気ブランドの製品から重金属を検出したとしています。また、As You Sowの報告でも、2014~2017年にテストしたチョコレート製品で高いレベルの重金属を確認しています。これらの報告は、特に子供や妊婦など、健康に対する影響が懸念される人々にとって、ダークチョコレートの安全性に対する不安を引き起こしています。
ジョージ・ワシントン大学の統合医学部長であり、研究の共同リーダーであるリー・フレーム氏は、この研究は、重金属汚染のリスクを明らかにすることを目的としたと言います。
「チョコレートは土壌から重金属を吸収しやすい植物であり、重金属が多く含まれる地域で栽培していることが分かっています。この懸念は現実的であるようです。またチョコレートをサプリメントのように摂取している人もいます。例えば、体に良いからといって毎日チョコレートを食べています。私たちは、チョコレートを健康目的で摂取している人が、実際に重金属にさらされることで、その健康効果が得られているのかどうかを確認したかったのです」と、フレーム氏はエポック・タイムズ紙のインタビューで述べています。
研究デザイン
研究者たちは、ギラデリ、Hu、Lily’s、365ホールフーズ・マーケット、ネスレ、ナウフーズ、Baker’s、グッド&ギャザーなどの人気ココア製品を分析しました。これらの製品はすべてアメリカまたは欧州で生産されましたが、販売はアメリカのみで行われています。
製品は購入した年ごとに2014年、2016年、2019年、2022年の4つのグループに分け、各年の製品に対してテストを行いました。すべての製品から鉛、カドミウム、ヒ素の含有量が検出されています。汚染レベルの評価には、以下の2つの主要な基準が用いられました。
- 米国食品医薬品局(FDA)は、以下の許容摂取量(IRLs)を設定しています。
- 鉛 7歳未満の子供は1日2.2マイクログラム(mcg)
- 鉛 生殖年齢の女性は1日8.8マイクログラム(mcg)
FDAは鉛についてIRLs値を設定していますが、食品中のカドミウムとヒ素については公式なIRLs値を設定していません。
- カリフォルニア州プロポジション65(Prop 65)は、以下の最大許容量(MADLs)を設定しています。
- 鉛 1日0.5マイクログラム(mcg)
- カドミウム 1日4.1マイクログラム(mcg)
- ヒ素 1日10マイクログラム(mcg)
研究結果
新しい研究結果によると、ダークチョコレートの重金属汚染について、複雑な状況が明らかになりました。
- 鉛 テストされた製品の43%がカリフォルニア州の「プロポジション65(Prop 65)」の基準を超えましたが、97.2%の製品は米国食品医薬品局(FDA)の暫定許容摂取量基準を下回っていました。
- カドミウム 35%の製品がProp 65の基準を超えました。
- ヒ素 Prop 65の基準を超えた製品はありませんでした。
すべての検査対象製品において、鉛(0.615マイクログラム/1食)とカドミウム(4.358マイクログラム/1食)の平均濃度はProp 65の基準を超えていました。しかし、鉛(1日あたり0.375マイクログラム)とカドミウム(1日あたり3.03マイクログラム)の濃度の中央値はProp 65の基準を下回っており、一部の製品に高濃度汚染が全体の結果に影響を与えていることがわかりました。検査した製品の97.2%は、鉛についてFDAの基準を下回っていました。
取引認証(フェアトレードや非遺伝子組み換えなど)は重金属レベルで大きな影響を与えませんでしたが、オーガニック製品はカドミウムと鉛の濃度が有意に高く、Prop 65のカドミウム基準を280%、鉛基準を14%超えていました。
フレーム氏は「オーガニック製品は重金属が含まれる肥料や農薬を使用しないため、重金属含有量が少ないだろうと考えましたが、結果は逆でした」と述べました。
オーガニック製品の重金属レベルが高い理由は明らかではありませんが、フレーム氏は、肥料や農薬がこれまで考えられていたほど多くの重金属を食品に加えていないのではないかと疑問を呈しています。
「また、オーガニック製品を栽培する人たちが、より慎重に取り扱っている可能性もあります。厳しい処理方法によって抽出される重金属と比べて、穏やかな処理方法が残留重金属の増加に寄与しているかもしれませんが、これは単なる仮説です」とフレーム氏は付け加えました。
健康への懸念 鉛とカドミウム
2021年の「Toxics」誌の記事によると、血液中の鉛は低レベルでも毒性を引き起こし、安全なレベルは知られていません。論文によると、中枢神経系は鉛に対して特に脆弱であり、子供や大人において、認知機能の低下、微細運動制御障害、注意力の問題を引き起こす可能性があるとしています。
2022年の「システマティック・レビュー」誌のレビューによれば、鉛に曝露された子供のIQテストスコアは低く、鉛曝露が「子供の精神的パフォーマンスに不可逆的な影響を与える可能性がある」としています。
また、鉛ほど知られていないカドミウムも重大な健康リスクをもたらします。カドミウム曝露は「心血管リスク因子」であり、動脈硬化の進行を促進します。また、カドミウムは血圧を上昇させ、腎臓の損傷リスクを高める可能性もあります。
フレーム氏とその研究チームは、ココアの健康利益が重金属曝露のリスクを上回るかどうかに疑問を持っています。「これらの利益が本当に平均的な人にとって有益かどうかは難しいです」と彼女は述べました。
ダークチョコレートは、心血管の健康改善や認知機能の向上、慢性炎症の軽減といった潜在的な健康効果を期待していますが、これらの効果は限定的であるとフレーム氏は指摘しました。2021年の「Nutrients」誌のレビューによれば、ココア製品は中性脂肪を改善するものの、健康な人が摂取した場合、血圧、血糖値、認知機能、皮膚の状態、身体測定値、生活の質には影響がなかったと結論づけています。
フレーム氏は「食事の背景が重要です。ポリフェノールやフラボノイドが非常に少ない食事をしている人がチョコレートを主なポリフェノール源としている場合、フラボノイドの観点からは非常に有益です。しかし、すでにポリフェノールを豊富に摂取している人にとって、チョコレートの寄与はわずかであり、健康上の利益を得ることなく、重金属のリスクにさらされる可能性があります」と述べています。
さらに、フレーム氏によれば、これまでの研究ではダークチョコレートの健康効果を宣伝する際に、重金属曝露のリスクが十分に説明されていないと指摘しています。彼女は、より良いアプローチは、個人がフラボノイドのレベルを満たしているかどうかを確認し、次にチョコレートでそれらのレベルを上げるようにと提案しています。
なお、ギラデリ、Hu、Lily’s、365ホールフーズ・マーケット、ネスレ、ナウフーズ、Baker’s、グッド&ギャザーに問い合わせましたが、本記事の公開までに返信は得られませんでした。
(つづく)
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