無視されがちな子宮頸がんの根本原因

HPVの背後にいる子宮頸がんの真犯人とは(中)

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2020年に発表された中国の研究では、549人の女性患者を対象とした後方的研究(過去の症例を集めて仮説を検証する研究)の結果、性的パートナーが多いほどHPV関連がんの発症リスクが高いことが判明しました。複数の性的パートナーがいるグループは過去6ヶ月間に複数の男性パートナーがいた患者で構成され、複数の性的パートナーがいない群は同一の男性パートナーがいる患者や過去6ヵ月間に性行為がなかった患者、同一の男性パートナーと時々性交渉を持った患者で構成されました。

複数性的パートナー群は、16型または18型およびその他の高リスク型のHPVへの感染を含むHPV陽性と有意に関連していました。彼らはまた、より重度の前がん病変、特にCIN-IIとCIN-IIIにおいて有意に高い割合を示しました。CINとは子宮頸部上皮内新形成のことで、子宮頸部の外側の裏地(上皮内組織)の表面に異常な細胞増殖(新形成)が見られることです。子宮頸部異形成としても知られています。

生物学的には、複数の性的パートナーを持つことは、膣内の微生物組成の異常の一因となり、HPVの持続感染に影響します。また、HIVのような他の性感染病原体の侵入を招く可能性もあります。HIVは免疫力を傷つけ、がんのリスクを高めることが知られています。

初妊娠年齢が重要

若くして性交渉を持つ傾向があり、複数の性的パートナーがいる場合、早い年齢で妊娠するリスクが高まります。

21歳以前に最初の妊娠を経験した女性は、21歳以降に最初の妊娠を経験した女性に比べ、子宮頸がんのリスクが2〜3倍上昇することが大規模研究で示されています。

最初の性交渉と最初の妊娠のどちらも21歳以降であった女性と比較して、最初の性交渉と最初の妊娠の年齢が16歳以下であった女性の浸潤性子宮頸がんのリスクは2.4倍でした。

グループ間で有意差はありませんでしたが、潜伏期間が短い(初性交渉から初妊娠までの期間が2年未満)女性は、期間が長い女性に比べて子宮頸がんリスクがやや高い可能性が示唆されました。

子宮頸部の移行帯はホルモン、特にエストロゲンとプロゲステロンに敏感です。

妊娠中はホルモンの変動により、HPVが存在すると子宮頸部の細胞に異常な変化が起こるリスクが高まります。このような変化は、その後の妊娠よりもむしろ初回の妊娠で起こりやすくなります。

したがって、女性が初めて性行為に及んだ年齢と初めての妊娠の年齢の両方が密接に絡み合っており、合わせて子宮頸がんの有意に高いリスク推定値を示しています。

経口避妊薬の併用はがんリスクを高める

予定外の妊娠を避けるために、多くの女性が経口避妊薬を使用しています。2023年7月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は初の非処方経口避妊薬であるプロゲスチンのみの経口避妊薬「オピル」を承認しました。エストロゲンを含まず、2024年初めには市販される予定ですが、リスクと副作用があります。

混合型の経口避妊薬(エストロゲンとプロゲストゲンの両方を含む)は、ヒトに対して発がん性があります。子宮頸がんのリスク上昇は、この評価の一因とされました。

子宮頸がんと経口避妊薬の使用との関連性を調査するため、子宮頸がんの女性16,573人と子宮頸がんのない女性35,509人を含む24の疫学研究の発表データに基づく系統的共同再解析が国際がん研究機関(IARC)によって実施されました。このレビューは2007年にランセット誌に掲載されました。

研究者らは、子宮頸がんの相対リスクは、経口避妊薬を現在使用している人で、使用期間が長いほど有意に増加し、使用が一段落すると減少することを発見しました。

子宮頸がんの相対リスクは、混合型の経口避妊薬の使用期間が長いほど有意に増加する。(Illustration by The Epoch Times)

例えば、20〜30歳頃から10年間経口避妊薬を使用した場合、50歳までに発生する浸潤性子宮頸がんの累積発生率は、後進国では13%、先進国では18%増加すると推定されています。

また、子宮頸がんには、がん家族歴、喫煙、免疫力の低下など、他のがんと共通する危険因子がいくつかあります。

ガーダシル9はハイリスク株を全ては予防しない

HPVワクチンはHPV感染を予防する方法の1つですが、予期せぬ重大な結果をもたらす可能性があります。200以上の遺伝子型に分類されるHPVですが、賢い株であれば生き残る方法を見つけるでしょう。

テキサス大学が2015年に実施した研究によると、HPVの22株(16、18、26、31、33、35、39、45、51、52、53、56、58、59、66、67、68、69、70、73、82、IS39)が子宮頸がんの高リスクと関連しているものの、HPV4価ワクチンはそのうちの2株しかカバーしておらず、ガーダシル9は7株しかカバーしていません。

ガーダシル9には9種類のHPV株(6、11、16、18、31、33、45、52、58)が含まれています。このうち6型と11型は、尖圭コンジローマの全体の90%を引き起こしますが子宮頸癌の原因とはならず、7種類のHPV株(16、18、31、33、45、52、58)は高リスクHPV株とされています。しかし、子宮頸がんのリスクが高い「ワクチン非対応株」も存在し、35型、39型、51型、56型、59型、66型、68型が該当しますが、これだけに限りません。

HPVワクチンを接種した女性の子宮頸部で、ワクチンがカバーしていないウイルス株がより流行し、より支配的な役割を担うようになる可能性があります。これはつまり、HPVワクチンが膣内微生物叢の変化を引き起こす可能性があるということです。ウイルスはワクチンで誘導される免疫を回避します。

この2015年のテキサス大学の研究によると、HPV4価ワクチンを接種した若年成人女性は、ワクチン未接種の女性よりも、HPV39、45、52、53、56、59、66、67、68、70、73、82を含む、高リスクなのにワクチンが対応していないのHPV株の有病率が高く、なかでも45型と73型は厳密な分析で統計的に有意な増加を示しました。

HPVワクチンは、子宮頸がんに関連するすべてのHPV株をカバーするわけではなく、子宮頸部におけるHPV株の変化を誘発する。(Illustration by The Epoch Times)

結果的に、前者のグループにはワクチン非対応株と関連する他のHPV関連がんのリスクが残りました。

ほとんどの先進国でHPVワクチン接種プログラムが開始されてから10年以上経過した2021年にスペインで行われた調査では、6型と11型が有意に減少し、16型も減少しましたが、高リスク株である31型、45型、52型は有意に増加しました。非ワクチン株の51型では増加傾向が見られました。

さらに、ネイチャー・リサーチのScientific Reports誌に掲載された2021年の研究では、子宮頸がんの黒人女性の約3分の1から7つのワクチン非対応株(35、39、51、53、56、59、68)が検出され、そのほとんどが予後不良で生存率が低いことが示されました。

エポックタイムズのシニアメディカルコラムニスト。中国の北京大学で感染症を専攻し、医学博士と感染症学の博士号を取得。2010年から2017年まで、スイスの製薬大手ノバルティスファーマで上級医科学専門家および医薬品安全性監視のトップを務めた。その間4度の企業賞を受賞している。ウイルス学、免疫学、腫瘍学、神経学、眼科学での前臨床研究の経験を持ち、感染症や内科での臨床経験を持つ。