酸性とアルカリ性のバランスが崩れたときに起こる病気

研究者たちは、食事による高い酸性負荷がさまざまな病気、さらにはがんリスク増加と関連していることを指摘しています。それでもなお、酸塩基のホメオスタシス(酸性とアルカリ性のバランス)については、長年にわたり医師、栄養士、健康に関心のある人々の間で議論されています。

ドイツや他のヨーロッパ諸国では、このテーマに関する文献が豊富です。アメリカではあまり知られていないものの、近年の多くの研究は、病気と健康においてpHバランスがいかに重要かを示しています。

 

なぜ、「なんだか調子が悪い」のか?

もしかしたら、あなたは健康に気を使い、食事、運動、そして人間関係にも気を配り、全体的にバランスの取れた生活を送っていると自負しているかもしれません。しかし時々、理由もなく調子が悪いと感じることはありませんか?

例えば、原因不明の痛みや、関節のこわばり、普段はない頭痛で目覚めたり、特定の食べ物を食べた後に胸やけを感じたり、特に運動していないのに筋肉が痛んだり、免疫力が低下していると感じることはありませんか?

これらの症状は、pHバランスの乱れが原因かもしれません。

 

ホメオスタシス――体の基本的な要件

人間の代謝には3つの主要な役割があります。

細胞の働きを正常に保つためのエネルギーを取り込む

食物を基本的な構成要素に変換する

体からすべての老廃物を排出する

これらの代謝機能が適切に行われるためには、酸塩基のホメオスタシス(酸性とアルカリ性のバランス)が必要です。つまり、細胞外液(細胞の外側にあるすべての体液)のpHレベルが7.35から7.45の範囲内で保たれることが重要です。このpHバランスは、健康全体において非常に重要です。

酸塩基のホメオスタシスが乱れると、2型糖尿病インスリン抵抗性骨粗しょう症、さらには慢性的な代謝性アシドーシス(体内の酸性度が異常に高まる状態)を含む酸性ストレスに関連する多様な問題を引き起こす可能性があります。

 

健康に欠かせないpHバランス

私たちが日々摂取する食べ物は、酸(プロトンや水素イオン)を生成・消費します。しかし、どのような食べ物を選ぶかによって、酸の生成量(食事による酸性負荷)が決まり、それが体内のpHバランスに影響を与えます。

人間の代謝は、このバランスを保つようにプログラムされていますが、以下のような多くの体内システムがホメオスタシス(恒常性維持)を回復するために過剰に働かなければならなくなります。

消化器系

呼吸器系

排泄系

筋肉/骨格系

出典:S.A. Lanham-New, M. Alghamdi, J. Jalal, Encyclopedia of Human Nutrition(第3版), 2013年, ISBN 978-0-12-384885-7, https://www.sciencedirect.com/topics/agricultural-and-biological-sciences/acid-base-homeostasis Elsevierの許可により掲載

 

これらのシステムは、過剰な食事性酸負荷を受けると、全てが悪影響を受ける可能性があります。

 

酸バランスの乱れによる疾患

酸塩基バランスの乱れは、さまざまな健康問題を引き起こします。2024年に『Pflügers Archiv European Journal of Physiology』で発表されたレビュー(pdf)では、西洋人の高い食事性酸負荷が、加工食品や動物性たんぱく質の摂取量の多さに関連していると報告されています。

研究者たちは、食事性酸負荷を下げるために食生活を見直し、「慢性的な軽度の代謝性アシドーシス」を予防することを推奨しています。これは、罹患率や死亡率の増加に関連しています。

たとえ栄養を見直さなくても、体は自己防衛のためにホメオスタシスを維持しようと常に働いています。そのため、毒素は通常、心臓や脳、肺に蓄積されることはなく、脂肪組織や結合組織が最も容易な排出場所となります。

 

結合組織へのダメージ–余分な酸の排出場所

結合組織にはさまざまな役割がありますが、その1つは栄養と老廃物の運搬です。血液やリンパ液、さらには軟骨や骨も、専門的な結合組織とみなされます。

他の臓器を守るために、結合組織は高い食事性酸負荷に対する最初の防御として機能し、体内の毒素を減らすために絶えず働いています。

血液とリンパ液は、毒素を運び出そうとしますが、それが失敗すると、組織が酸を蓄積します。骨組織は重要なバッファー(緩衝剤)として働き、筋肉組織はグルタミンを提供し、それが分解されて酸負荷を調整します。その結果、筋骨格系がダメージを受けることがあります。

食事性酸負荷が高い状態が続くと、肺や腎臓など他のシステムにも負担がかかります。

 

臓器へのダメージ

『Risk Management and Healthcare Policy』誌に発表された大規模な横断研究では、1999年から2018年にかけての全米健康栄養調査から1万8855人の参加者を対象に、食事性酸負荷と非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)との関連が明らかにされました。

さらに、食事性酸負荷が高いと、慢性的な代謝性アシドーシスにつながり、それが「心血管疾患(CVD)、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、骨に関連する障害、がんなど、さまざまな疾患の発症に密接に関与していることが記録されています」と研究は述べています。

また、2022年に『Nutrients』誌に発表された系統的レビューでは、慢性腎臓病と腎機能の低下が、食事性酸負荷の高さと直接的に関連していることが確認されました。1078件の調査記事の中で、関連性がないとする研究は1件のみでした。この研究は、体内の酸が多すぎると腎機能が低下することを裏付けています。

同じ学術誌に2019年に発表された記事では、初めて食事性酸負荷の高さと、過体重および肥満の子供における喘息との関連が示されました。

この研究では、体内のpHレベルと、伝統的に治療が難しい肥満型喘息の表現型との関連が確認されました。研究者たちは、「食事性酸負荷を調整し、ホメオスタシスを維持するためには、アルカリ性をもたらす野菜や果物を豊富に含んだ食事が重要である」と強調しています。

 

がん

2021年に『Cancer Treatment and Research Communications』誌で発表された症例対照研究では、酸塩基バランスと男性の肺がん発症の関連が観察されました。843人の肺がん患者に対して、食事内容に関する質問を含む多岐にわたるアンケートが実施されました。その結果、食事性酸負荷の高さが、炎症の増加と肺がんリスクの上昇に直接関連していることが確認されました。

また、2022年に『European Journal of Cancer Prevention』誌で発表された系統的レビューでは、酸性食品を多く摂取する食生活を好む人々は、がんのリスクが高まることが示されました。

さらに、2022年に『Frontiers in Nutrition』誌で発表された観察研究のメタアナリシスでは、がんリスクの増加が確認され、食事性酸負荷とさまざまな種類のがんとの関連は、男女ともに、また「高リスクおよび低リスクの年齢層」にも広がっていることが明らかになりました。

 

心臓代謝疾患

高血圧や動脈硬化、2型糖尿病などの心臓代謝疾患も、体内の高い酸性度が引き起こす健康への悪影響のリストに含まれています。

 

糖尿病と高血圧

2022年に『Current Aging Science』誌に発表された研究では、代謝性アシドーシスとインスリン抵抗性、高血圧、その他の心臓代謝疾患の発症との関連が調査されました。

この研究には114人の高齢者が参加し、科学者たちは彼らの「潜在的腎酸負荷(PRAL)」と「内因性酸生成量」を3日間にわたって分析しました。これには、24時間の食事記録の詳細な分析も含まれています。

研究の結果、食事の選択が心臓代謝疾患に大きな影響を与えることが確認されました。すでに高血圧や糖尿病を患っている参加者は、酸生成の可能性が大幅に高く、これがこれらの病気のリスク要因となっていることが示されました。

また、2023年に『European Review for Medical and Pharmacological Sciences』誌に発表された研究では、食事性酸負荷(DAL)と2型糖尿病リスクとの関連が調査されました。この症例対照研究では、「食事性酸負荷を制限することで、2型糖尿病リスクを低減できる可能性がある」と述べられています。

2019年に『Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases』誌に発表された系統的レビューおよびメタアナリシスでは、14件の研究(30万6183人の参加者)を調査しました。その結果、高血圧と食事性酸負荷との間に有意な正の関連があることが確認されました。

また、『Hypertension』誌に発表されたアメリカの前向き研究では、8万7293人の女性を14年間追跡調査しました。その結果、高い食事性酸負荷が高血圧リスクの増加につながることが確認されました。動物性たんぱく質とカリウムが、食事に依存する酸負荷の最大の要因であるとされています。

さらに、ドイツ日本、ベトナムの国際的な研究でも、高血圧の発症率が上昇していることが示されています。

 

インスリン抵抗性

2022年に『Clinical Nutrition』誌に発表されたラテンアメリカの人口ベースの研究では、インスリン抵抗性と食事性酸負荷との関連が確認されました。25~64歳の545人のサンプルを調査したところ、食事性酸負荷の高さが一貫してインスリン抵抗性の上昇と関連していることが明らかになりました。

また、2020年に『Nutrition Journal』に発表された韓国のゲノム疫学研究でも、同様の関連が確認されました。この研究の目的の1つは、これまで十分に調査されていなかったアジア人集団におけるこの関連を調査することでした。

 

肥満

アメリカ心臓協会によると、不健康なライフスタイルに根ざした心臓代謝疾患は、過去数十年にわたって悪化しており、現在では主要な罹患原因の1つとなっています。

これらの疾患は、インスリン抵抗性だけでなく肥満を伴うことが多いですが、肥満自体も代謝性アシドーシスの原因となることがあるようです。2022年に『Kidney 360』誌に発表された研究では、最近のアメリカ人成人を対象にした調査でこの関連が確認されました。

さらに、2019年に『PLOS ONE』に発表された更新版の系統的レビューおよびメタアナリシスでは、「食事性酸負荷が高い食生活は、血清トリグリセリド濃度の上昇や肥満の有病率の増加と関連している」と結論付けられました。研究者たちは、酸負荷の低い食事への変更が「肥満や代謝疾患に対する有効な予防戦略となる可能性がある」と考えています。

 

メンタルヘルス

2018年に『Nutrients』誌に発表されたドイツの研究では、初めて食事性酸負荷と、子供の多動性や対人関係の問題といった精神・感情的な問題との関連が調査されました。

研究者たちは、潜在的腎酸負荷(PRAL)を測定し、10年後と15年後に強みと困難さに関するアンケートを実施しました。10年目のデータでは、酸性の高い食事を摂取している子供たちが、より多くの感情的な問題を抱え、過活動が増加していることが確認されました。「これらの結果は、PRALと子供時代のメンタルヘルスとの間に潜在的な関連がある初めての証拠を示しています」と述べられています。

 

酸性負荷に関連する健康状態や病気

2018年にメキシコの『Nefrologia』誌に発表された記事では、高い酸性負荷、不均衡なpHホメオスタシス、および慢性疾患との関連が詳細に確認されています。研究者たちは、栄養介入や食事性酸負荷の削減が健康改善に寄与する可能性があると結論付けています。

また、前述の2024年の『Pflügers Archiv』レビューでは、食事性酸負荷とその広範な影響について詳しく説明されています。さらに、トピックの広範な関連性を視覚化するための貴重なグラフィックも提供されています。

高い食事性酸負荷(DAL)の影響の要約。Pflugers Arch. 2024; 476(4): 427–443. CC by 4.0

 

このレビューによると、食事性酸負荷を正確に測定することは難しいとされています。便や尿のサンプル、そして食事内容を同時に評価する複雑な手法が必要です。しかし、尿のpHやアンモニウムの評価も、食事性酸負荷(DAL)を測定するための別の方法として使われています。

また、食事性酸負荷に加えて、RemerとManzという科学者たちは約30年前にPRALインデックスを開発しました。PRALスコア((タンパク質、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩などの栄養素のイオンが消化管から吸収される比率)は、各食品の潜在的な腎酸負荷を示し、酸性度に応じて決定されます。

 

(翻訳編集 華山律)