「運動」と聞いて、最初に何を思い浮かべますか? 不安や気が重くなる感じ、あるいは何をすればいいのかわからない戸惑いでしょうか? それとも、始める前からすでに出遅れているような気がして、プレッシャーを感じることはありませんか?
こうした気持ちは多くの人が抱くものですが、心配する必要はありません。運動は楽しく続けられるものであり、私たちの健康に幅広く良い影響を与えます。そのため、自分に合った方法を見つけることが大切です。さまざまな運動の種類とそのメリットを知り、外に出て(または家の中で)体を動かすきっかけにしてみましょう。
健康のメリット
定期的な運動は、心臓を強くし、血流を改善し、血圧を下げるのに役立ちます。また、代謝を促進し、インスリンの働きを良くすることで、健康的な体重の維持にも貢献します。さらに、筋力や筋肉量を増やし、骨を丈夫にし、免疫力を高めることで、心臓病、脳卒中、がん、糖尿病といった慢性疾患のリスクを減らします。健康を維持することは、寿命を延ばし、生活の質を高めることにもつながります。
2018年の研究では、生涯にわたる運動が寿命を延ばすだけでなく、肥満、2型糖尿病、脳卒中など40種類の慢性疾患の発症を遅らせる可能性があると報告されています。
キャスリン・アレクサンダー(Kathryn Alexander)氏は、運動機能学の学位と運動生理学の修士号を持つパーソナルトレーナーです。彼女によると、運動の種類ごとに異なるメリットがあり、以下のような効果が期待できます。
- 有酸素運動は寿命を延ばし、生活の質を向上させる
- 高強度インターバルトレーニング(HIIT: High-Intensity Interval Training)は体力を高め、体型を引き締める
- 筋力トレーニングは日常生活の動作を維持し、年齢を重ねても健康的に過ごせるようにする
- 柔軟性トレーニングは体の動きをスムーズにする
- 「遊び」は楽しみながら、社会的なつながりも深められる
「もちろん、これらをすべて組み合わせることができれば理想的です。それぞれに異なるメリットがあるからです」と、アレクサンダー氏は《大紀元時報》のインタビューで語っています。さらに、「健康で特に問題がなければ、この方法はとても効果的です」と付け加えています。
運動のメリットは、体だけにとどまりません。科学者たちは今、運動が脳にも良い影響を与えることを明らかにしつつあります。
ウェンディ・スズキ(Wendy Suzuki)氏は、ニューヨーク大学の神経科学者であり教授です。彼女は長年、運動が脳に与える影響を研究してきました。
TED講演「脳を変える運動のメリット」(The Brain-Changing Benefits of Exercise)の中で、彼女は有酸素運動や単なる体の動きが、学習や記憶に関わる海馬の新しい神経細胞の生成を促すことを指摘しています。また、運動によってセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が増え、集中力や気分が向上するほか、アルツハイマー病などの脳の病気を予防する可能性があるとも述べています。
有酸素運動
「運動」と聞いて、まず何を思い浮かべますか? 多くの人は、心拍数を上げるランニングやエアロビクスといった有酸素運動をイメージするかもしれません。
有酸素運動(または心肺運動)は、心臓や血管の機能を高め、持久力を向上させ、脂肪の燃焼を助ける効果があります。さらに、睡眠の質を改善し、ストレスを軽減し、気分を安定させる働きもあります。
また、有酸素運動は、細胞にエネルギーを供給する「ミトコンドリア」の働きを活性化させます。運動中に血流が増えることで、筋肉に酸素が十分に届けられ、ミトコンドリアがより多くのATP(アデノシン三リン酸)を作れるようになります。ATPは、筋肉の動きや体のあらゆる活動に必要なエネルギー源です。
さらに、有酸素運動には、新しいミトコンドリアを増やしたり、傷ついたミトコンドリアを修復・除去したりする効果もあります。この機能は特に心疾患のある人では低下しがちですが、運動によって改善が期待できます。
また、ミトコンドリアを酸化ストレスから守る働きもあり、体全体の健康維持に役立ちます。
定期的に心拍数を上げることは、心血管の健康維持にも大きなメリットをもたらします。有酸素運動は血液の循環を促し、血圧を下げ、コレステロールや血糖値のコントロールにも効果的です。
さらに、体重管理にも役立ち、運動によって「エンドルフィン」と呼ばれるホルモンが分泌されることで、気分が高まり、痛みが和らぎ、ストレスの軽減につながります。
また、有酸素運動と筋力トレーニングを比較した研究では、健康な成人が60分の有酸素運動を行うと、「FGF21(線維芽細胞増殖因子21)」というホルモンの分泌が3倍に増えることが確認されています。FGF21は、エネルギーの消費を促進し、脂肪を燃やし、インスリンの働きを改善することで、体重管理をサポートします。
専門家のアレクサンダー氏は、有酸素運動は寿命を延ばし、生活の質を向上させ、血管・心臓・肺の機能を強化すると指摘しています。また、有酸素運動は必ずしも激しいものでなくてもよく、ゆったりとしたペースで行う「ゾーン2(Zone 2)トレーニング」も効果的です。このトレーニングを継続することで、血管の柔軟性が高まり、より健康的な体を維持できるとされています。
心拍数トレーニングのゾーン
心拍数トレーニングは、運動の強度に応じて5つのゾーンに分けられます。最も負荷の高いゾーン5は、最大心拍数の90〜100%に達する運動を指します。一方、ゾーン1はウォーミングアップに適しており、最大心拍数の50〜60%の範囲で行います。ゾーン2は、安定したペースで無理なく続けられる運動を指し、心拍数を最大心拍数の60〜70%に保つことが目標です。このゾーンでのトレーニングは、主に脂肪をエネルギーとして消費し、心血管の健康を向上させる効果が期待できます。
アレクサンダー氏は、有酸素運動には長期的な健康メリットがあると指摘しています。
「将来的に心疾患のリスクが低下するだけでなく、最大酸素摂取量(VO2 max)も向上します。VO2 maxは、体が酸素を取り込んで利用する能力を示す指標であり、寿命とも深い関係があるのです」と述べています。
高強度インターバルトレーニング(HIIT)
HIIT(高強度インターバルトレーニング)は、短時間の高強度運動と短い休憩を交互に繰り返すトレーニング方法です。研究によると、HIITは短時間で効率よく運動効果を得られるため、忙しい中でも運動を続けたい人にとって理想的な方法です。
ある介護施設の高齢女性を対象とした研究では、HIIT、中強度インターバルトレーニング(MIIT)、中強度持続トレーニング(MICT)の健康への影響を比較しました。評価の対象となったのは、体脂肪率、安静時の血圧、心拍数、身体機能などです。その結果、HIITはMIITやMICTに比べて、体の引き締め効果や身体機能の向上に優れていることが分かりました。さらに、HIITを行った女性は、他のトレーニングを行ったグループよりも、運動をやめた後の体力低下が少なく、トレーニング効果が長く維持されることも確認されました。
ここで、中強度インターバルトレーニング(MIIT)は、中程度の強度の運動と短い休憩または低強度の運動を交互に行う方法を指します。一方、中強度持続トレーニング(MICT)は、通常20〜60分間、一定の中強度で運動を続ける方法です。
「運動能力を素早く向上させたいときや、スポーツ競技に取り組んでいる場合、高強度トレーニングは非常に役立ちます。また、体を引き締めるためにも非常に効果的です」とアレクサンダー氏は述べています。
HIITが脳にもたらすメリット
学術誌『Aging and Disease(老化と疾患)』に掲載された研究によると、高強度トレーニングは脳にも良い影響を与えることが明らかになりました。
この研究では、低強度・中強度・高強度の異なる運動が、学習や記憶に関わる脳の領域である「海馬」にどのような影響を及ぼすかを調査しました。対象は65〜85歳の健康な高齢者で、研究は6か月間にわたって実施されました。
その結果、HIITはほかの運動方法よりも優れた効果を示し、記憶力や学習能力を大幅に向上させることが確認されました。MRI(磁気共鳴画像)による分析では、HIITが加齢による海馬の萎縮を防ぎ、脳内のネットワークのつながりを強化することも明らかになりました。これらの変化は、ほかのトレーニングを行ったグループでは見られなかったものです。さらに、HIITを行ったグループでは、海馬の機能改善が少なくとも5年間持続することも確認されました。研究チームは、運動を取り入れることで、加齢による学習や記憶力の低下を防ぐことができると結論づけています。
さまざまな種類の運動を行うことは健康にとって重要ですが、時間が限られている場合、HIITは短時間で最大の効果を得られる方法のひとつと言えるでしょう。
筋力トレーニング(ウェイトトレーニング)
HIITと同様に、筋力トレーニング(ウェイトトレーニング)も無酸素運動の一種です。HIITや筋力トレーニングは、ランニングや水泳、サイクリングなどの有酸素運動とは異なります。
この違いの主なポイントは、体がエネルギーをどのように使うかにあります。無酸素運動(筋力トレーニングなど)は高強度の運動であり、短時間の高負荷な動作が特徴です。エネルギーは主に筋肉に蓄えられた糖(グルコース)から供給されるため、長時間続けることはできません。腕立て伏せやスクワットなどの自重トレーニングも、筋力トレーニングの一種です。
一方、有酸素運動(ランニング、水泳、サイクリングなど)は比較的低強度で、長時間続けることができます。これは、主に呼吸によって取り込んだ酸素を利用してエネルギーを作り出すためです。
筋力トレーニングのメリット
筋力トレーニングは、ほぼすべての人に適した運動で、筋肉を強化・維持し、筋力の低下を防ぐ効果があります。筋肉量の自然な減少は30代から始まることが多く、これは「サルコペニア(加齢による筋肉減少)」と呼ばれます。
筋力や筋肉の働きが徐々に衰えていく現象ですが、避けられないものではありません。定期的な筋力トレーニングによって、この進行を遅らせるだけでなく、改善することも可能です。
研究によると、肥満の高齢者にとって、運動や減量は体の衰えを防ぎ、身体機能を向上させる効果があります。さらに、運動と減量を組み合わせることで、より大きな改善が期待でき、高齢になっても自立した生活を維持しやすくなると考えられています。
また、筋力トレーニング後には「運動後過剰酸素消費量(EPOC)」と呼ばれる現象が起こり、運動後も最大72時間にわたりカロリーを消費し続けることが分かっています。この効果は「アフターバーン効果」とも呼ばれ、運動の強度が高いほど長く続きます。つまり、強度の高いトレーニングを行うほど、運動後のエネルギー消費が長時間持続するということです。
アレクサンダー氏は、筋力トレーニングには生活の質を向上させる効果があると述べています。
「筋力がつくと、日常生活のあらゆる動作が楽になります。その結果、より活動的になり、疲れにくくなり、健康的に年を重ねることができるのです。」
柔軟性トレーニング
柔軟性トレーニングは、体を動かすことで柔軟性を高め、バランス感覚や協調性を向上させる運動です。
柔軟性を維持することは、けがの予防や関節の健康維持、痛みやこわばりの防止、可動域の確保においてとても重要です。柔軟性があることで、年齢を重ねてもさまざまな日常動作をスムーズに行うことができます。例えば、靴ひもを結ぶ、階段を上り下りする、入浴、料理、掃除、着替えなどの基本的な動作も、柔軟性があれば無理なく続けられます。
アレクサンダー氏は次のように述べています。
「柔軟性トレーニングや遊びを取り入れることで、けがの予防に役立ちます。例えば、体をひねる、回す、曲げる、反らすといった動作を行うことで、柔軟性が向上します。」
柔軟性を高める運動には、次のようなものがあります。
- 武術
- ピラティス
- ヨガ
- 太極拳・気功
- ダンス
- パルクール
- 水泳
- クライミング(ボルダリングを含む)
- 障害物トレーニング
- 動的ストレッチ
ある研究では、ストレッチを行うことで、中高年の動脈の硬化を防ぎ、安静時の心拍数や拡張期血圧を下げる効果があることが示されました。
また、別の研究では、韓国武術のテコンドーが高齢者のバランス能力や歩行能力を向上させることが確認されています。
さらに、柔軟性トレーニングは「体の位置を正確に把握する感覚(固有感覚)」を高める効果もあります。この感覚はバランスや動作のコントロールに関係し、加齢とともに低下しやすくなります。体を動かす機会が減ることで、神経の反応が鈍くなり、その結果、転倒やけがのリスクが高まることがあります。柔軟性トレーニングを行うことで、こうしたリスクを軽減し、安全に動ける体を維持することができます。
(翻訳編集 華山律)
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