COVID-19ウイルスに感染すると脳に炎症が起こり、ぼんやりした感じや記憶力の低下など、いわゆる「ブレインフォグ」の症状が現れることがあります。中医学の専門家によると、頭の3つのツボをマッサージすることでブレインフォグの改善に役立ち、さらに適度な運動やバランスの取れた食事を組み合わせることで、脳の活力を効果的に高めることができるそうです。
COVID-19の流行後、ブレインフォグの症状はますます注目されるようになりました。台湾の「鼎昌中医診療所」の医師である蕭文豪氏は、健康番組『彼女の健康』の中で、臨床的に「ブレインフォグ」とは、COVID-19に感染した後3カ月以内に現れる認知機能の障害を指すと説明しています。具体的には、記憶力や集中力、論理的思考力の低下などがあり、こうした症状が2カ月以上続いても、他の病気とは診断されないことが多いです。ブレインフォグは通常一時的な症状であり、時間とともに回復することが多いとされています。
中医学と西洋医学の視点から見る
ブレインフォグの原因
ブレインフォグの原因は、ウイルス感染により脳の神経や血管が損傷を受けることと関係していると思われます。『ネイチャー』誌に掲載された研究では、COVID-19ウイルスに感染した後、患者の認知能力が低下し、脳の体積が減少することが明らかになりました。別の研究では、COVID-19の急性感染期の患者だけでなく、感染後にブレインフォグの後遺症が現れた患者も、血液脳関門(血脳屏障)に顕著なダメージを受けていることが示されています。血液脳関門が損傷すると、血液中の有害物質が脳に侵入しやすくなり、中枢神経系の疾患を引き起こす可能性があります。
中医学の視点では、ブレインフォグの原因は「心」と「脳」の両方に関係していると考えられています。蕭文豪氏によると、中医学では「心は精神をつかさどる」とされており、心臓は血液の循環を管理するだけでなく、人の精神状態にも関与しています。一方、脳は「元神の府」、つまり精神の拠り所とされます。心臓が脳に血液を送り込むことで、脳は十分な酸素を確保できます。しかし、感染後の患者は体内の粘膜が慢性的な炎症状態にあることが多く、心肺機能が低下しやすいため、脳への血流や酸素供給が不足しやすくなると考えられています。
ブレインフォグは認知症ではない
蕭文豪氏によると、患者の中には「急に物事を忘れてしまうのですが、これは認知症でしょうか?」と不安を抱く人が多いそうです。そのような場合、蕭氏は「後で思い出すことはありますか?」と尋ねます。もし忘れていたことを後で思い出せるのであれば、それは「物忘れ」に分類されます。物忘れはブレインフォグの症状の一つである可能性があります。一方、認知症は回復しない神経の変化によるもので、単なる物忘れとは異なります。さらに、認知症の患者は自分が病気であるという認識(病識)がないことが多く、通常、自分が認知症だとは思わないという特徴があります。
脳を活性化する3つのツボ
ブレインフォグの症状が現れたときは、以下の3つのツボを押すと効果が期待できます。
神庭(しんてい)穴(DU 24):額の中央で、生え際から指一本分(親指の第一関節の幅)上にあるツボです。親指の関節部分を使って押すと軽い痛みを感じることがあります。このツボを刺激すると、脳がスッキリし、精神を落ち着ける効果があり、頭のもやもや感や疲労の改善に役立ちます。

印堂(いんどう)穴(EX-HN3):眉と眉の間、額の中心にあるツボです。軽く押すことで頭をスッキリさせる効果があり、高血圧、不眠、鼻の疾患にも有効とされています。

頭臨泣(あたまりんきゅう)穴(GB 15):瞳の真上で、生え際から指一本分(親指の第一関節の幅)上にあるツボです。押すと強い痛みを感じますが、その刺激で頭が瞬時に冴えて、はっきりする感覚が得られます。左右両方を同時に押すのも効果的です。
中医学では、ツボは特定の治療効果を持つポイントであり、体のエネルギーが流れる経絡(けいらく)上に位置しています。ツボの周辺には神経終末や血管が多く集まっているため、適切に刺激すると健康を促進する作用があると考えられています。あるレビュー研究によると、動物実験では、鍼灸のツボ刺激が認知機能障害の改善に効果を示し、そのメカニズムとして脳細胞の増殖促進や抗酸化作用の向上が関与している可能性が指摘されています。ただし、臨床試験に関しては、さらなる研究が必要とされています。
ブレインフォグ回復のためのアドバイス
蕭文豪氏は、ブレインフォグの患者に対し、普段の生活で食事や運動に気を配ることで、体と脳の回復を早めることができるとアドバイスしています。
◎水をたくさん飲む
体質的に見ると、感染後にブレインフォグを発症する人は「陰虚(いんきょ)」の傾向があることが多いとされています。中医学では、体内のエネルギーは「陰」と「陽」に分かれ、陽は温かさや乾燥、陰は冷たさや潤いを意味します。「陰虚」とは、体の粘膜や細胞が水分不足の状態を指します。そのため、白湯(さゆ)を充分に飲み、体を内側から潤すことが推奨されます。
◎粘り気のある食品を摂る
山芋、オクラ、キノコ類など、粘り気のある食品には「滋陰潤燥(じいんじゅんそう)」、つまり体を潤し、修復を助ける作用があります。
◎屋外での散歩
感染後は心肺機能が低下しやすいため、空いた時間に散歩したり、新鮮な空気を吸ったりすることで、心肺機能の回復を促すことができます。
◎超スロージョグ
適度な運動は心肺機能を強化し、脳への酸素供給を増やすだけでなく、ドーパミン、セロトニン、エンドルフィンの分泌を促進する効果があります。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究では、認知機能が低下した高齢者が有酸素運動を継続すると、脳の海馬体が大きくなることが確認されています。海馬体は言語記憶や学習など、さまざまな認知機能に関与しています。
蕭文豪氏が推奨する運動は「超スロージョグ」です。これは、その場でリズミカルに小刻みに動く運動方法です。姿勢は、頭を上げ、胸を張り、背筋をまっすぐにします。足の着地は、つま先→足の甲→かかとの順に行います。超スロージョグの特徴は、「息切れしない・筋肉痛にならない・疲れない・不快感がない」ことです。週に最低3回、1回30分以上行い、心拍数を1分間に130回程度まで上げるのが理想的です。
◎ブレインフォグ回復茶
蕭文豪氏は、感染後にブレインフォグの症状が現れた患者に向けて、「醒霧茶(せいむちゃ)」をお勧めしています。このお茶は、クコの実(枸杞)、石菖蒲(せきしょうぶ)、遠志(おんじ)の3種類の生薬で作られています。クコの実は最も多く使用され、「腎陰(じんいん)」を補い、感染後の「陰虚」の改善に役立つとされています。石菖蒲と遠志には、脳を活性化し、意識をはっきりさせる作用があると考えられています。あるレビュー研究では、石菖蒲と遠志を組み合わせることで、アルツハイマー病の治療に役立つ可能性があることが示されています。また、別の研究では、クコの実に含まれる成分が認知機能を改善する可能性があることが確認されています。
ただし、中薬(漢方薬)は個々の体質に合ったものを選ぶ必要があります。クコの実は下痢しやすい人には適さず、石菖蒲と遠志は炎症がある人、妊娠中の人、風邪をひいている人には向きません。服用前に、漢方の専門家に診断を受け、自分の体質に合った生薬を処方してもらうことを推奨します。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。