日本――「日の出ずる国」とも称されるこの東方の島国には、古来より独自で体系的な発酵食品文化が築かれてきました。味噌、醤油、納豆、清酒から、酵素飲料や発酵果物・野菜に至るまで、日本人の一日三食には、ほとんど必ず発酵食品が含まれています。
これは単なる味の好みや文化的な伝統だけではなく、日本の地理的位置や五行のエネルギー、民族的な体質、そして自然の法則に深くかかわる「養生の知恵」として根づいているのです。
一、東方は「木」に属す――地理が生んだ食文化の傾向
中国の五行思想において、東は「木」に属し、「肝」を司り、気血を上昇させたり、発散させたりする性質を持ちます。日本はアジアの東端に位置し、「東方の中の東方」と言える場所です。太陽が最も早く昇る地であり、時差においてもアジア大陸よりおよそ1時間早く、「日出ずる国」として知られてきました。国旗の赤い丸も太陽を象徴しており、その地理的・文化的背景を示しています。
「木」の気は上昇し、物事を推し進め、疏通し、成長させる性質を持ちます。人体では肝が「木」に属し、感情や気の流れを調整する働きがあります。しかし、「木」の気が過剰または乱れると、「脾胃」に属す「土」の気に影響を与え、「木剋土(木が土を制す)」という病理関係が生じやすくなります。すなわち、肝気が逆流すれば脾土を傷つけ、消化機能が低下し、体内に湿気が生じ、腸の不調を引き起こします。
このため、日本では先進国の中でも特に腸の健康に対する意識が高く、国民の多くが幼い頃から「温かく消化のよい食事」を基本とし、生ものや脂っこいものを過剰に摂る習慣はあまり見られません。
二、発酵食品の「土」の性質――木を養い、五行を調和する
五行の視点では、「脾胃」は「土」に属し、「後天の本(生命維持の要)」とされ、栄養の吸収・運搬の中心を担います。発酵食品が日本の食文化の中心にある理由は、その「木剋土」のバランスを整える、「土で木を養う」作用にあるのです。
発酵のプロセスとは本質的に「予消化」であり、微生物によって食物があらかじめ分解・変化され、酵素、善玉菌、アミノ酸などの吸収されやすい栄養素が生み出されます。これにより、脾胃に過度な負担をかけずとも、効率よく栄養を吸収することができ、「土」の気を助けて「木」との調和を保つことが可能になります。
味噌汁:乳酸菌やタンパク質分解酵素が豊富で、腸内環境を整え、脾胃を温め補う日常の「薬膳」です。古くから日本では「白薬に勝る」と称されるほどの評価を受けています。
納豆:納豆キナーゼには抗炎症・抗血栓作用があり、粘りの中にある「湿」の性質が逆に湿を取り去る作用を持ち、脾胃や腸の働きを助けます。
醤油・酢:胃液の分泌を促し、消化の働きを活発にし、体液を生じさせ消化吸収を助けます。
発酵果物・野菜:果物の寒性や消化しにくい成分を、温和で活性のある酵素に変え、腸にやさしく、胃を傷めずに整えます。
現代科学においても、プロバイオティクス(善玉菌)や酵素が腸内細菌のバランスを整え、免疫力を高め、解毒を助け、代謝を促進する働きがあることが証明されています。これは、五行で「土が万物を生み、五臓を調和する」とされる働きと非常によく一致しています。
自然界における「土」は最も目に見えて理解しやすい存在です。土の中では菌が育ち、その菌が分解・変化を助け、何かが土に入れば自然に微生物が生まれ、有機物を発酵させて栄養へと変え、草木を育てます。これはちょうど、脾胃や腸内に存在する善玉菌が食べ物を栄養や血液へと変えるのを助け、人体を養っている仕組みと同じです。ここに表れているのは、まさに「土」のエネルギーの特徴なのです。
脾胃の状態が良ければ、気と血も充実します。脾胃は「気血生化の源」であり、発酵食品を通じて脾胃=「土」の力を補えば、消化が良くなり、気血も充実し、体質も整い、健康の根本がしっかりと守られます。
三、果物の寒性を転化する:脾を傷めるものから、脾を助けるものへ
日本では古くから「果物は生で食べ過ぎてはいけない」という認識が広く根づいています。その理由の一つは、ほとんどの果物が寒涼性で、水分・糖分が多く、繊維質も豊富であるためです。これらは湿気が溜まりやすく、脾の陽気が不足しがちな体質の人にとっては、寒湿が脾に停滞して消化機能を損ないやすいのです。
特に東アジア地域では、湿気が強く、体内の陽気が不足しやすい傾向があります。さらに「木」の気が盛んで肝火が動きやすいため、以下のような不調を引き起こしやすくなります:
・脾胃の虚弱、腹部の膨満感や下痢
・肝気の滞り、女性の月経不順
・湿熱の滞留、ニキビや湿疹の繰り返し
しかし、果物を発酵させて酵素飲料や果実酢に転化することで、寒性は和らぎ、活性酵素が増え、糖分も一部代謝されます。これにより脾胃への負担が軽減されるだけでなく、むしろその運化(消化吸収)機能を高め、果物に含まれる天然酵素や抗酸化成分の作用をより効果的に引き出すことができるのです。
このように、発酵という工程は、まさに果物を「中土(脾胃)の気」によって転化させる技術であり、五行の「土」と調和した食の養生法といえるでしょう。
四、自然が生み出した食文化――それは天地の運行に沿った営み
多くの人は、日本人が発酵食品を好むのは単なる味の好みに過ぎないと思いがちです。しかし五行の視点から見ると、これはむしろ「自然の法則」に対する日本人の共通の反応だと言えます。
中医学の考えでは、人体は宇宙における五行の運行法則に基づいた「小宇宙」であり、五臓のシステムもまた小さな五行の循環メカニズムを備えています。この小宇宙は、自然界の大宇宙と呼応し、自動的にバランスをとろうとします。
たとえば、「木」の気が強すぎると「脾(土)」を傷めやすくなるため、人々の食の選択は自然と「土を補い、木を抑える」方向へと向かいます。つまり、消化吸収しやすく、温和で調和のとれた、冷たすぎず、熱すぎない発酵食品が選ばれるようになるのです。これはまさに、身体の五行メカニズムが自然に行う選択であり、本能的な自己防衛の結果とも言えるでしょう。
こうした選択は、何千年ものあいだ自然と共に生きる中で培われた知恵であり、人間が天地のリズムと共鳴して築き上げた文化の結晶です。だからこそ、伝統的な食習慣は軽視されるのではなく、きちんと理解され、受け継がれていくべきものなのです。五行の「相生(相互に生かし合う)」「相剋(相互に制御し合う)」の関係を正しく理解することで、発酵食品が単なる健康ブームではなく、「天に順い、人に応じる」調和と養生の知恵であることが見えてきます。
結びに――微生物から五行へ:古今をつなぐ食の知恵
発酵とは、表面的には微生物の生化学的な働きですが、その本質は「天地の気」を調和させる行為とも言えます。日本の食文化が発酵を最大限に活用してきたことは、まさに「自然に学ぶ」姿勢そのものです。小さな微生物の営みの中に、大きな自然の摂理が息づいており、それを毎日の食事の中で生かしてきたのです。
現代人が伝統文化の視点から発酵食品の価値を見直せば、その健康効果をより深く活用できるだけでなく、食という営みの中に秘められた宇宙の知恵をも感じ取ることができるでしょう。伝統的な食のあり方は、命の本質に最も近い「修行」の文化なのです。
(翻訳 華山律)
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