報道の自由を守れ!中国語“草の根”放送局『新唐人TV』をめぐる大陸間の攻防
【大紀元日本5月8日】4月初旬、中国における一連の反日運動により、中国政府の“報道”に対する姿勢が注目を集めていたその頃、中国大陸へ唯一“中国政府の検閲を受けずに”中国語のテレビ番組を放送するNew Tang Dynasty TV Station(本部:ニューヨーク、以降中国名「新唐人」)の、命の灯火が消えかけていた。昨年末、同放送をアジアの電波に載せる通信衛星の使用契約“更新”を、放送衛星の所有者である衛星通信世界大手のEutelsat社(本部:フランス;ユーテルサット社、以降「ユ社」)が、拒否したからだ。
ユ社は契約更新拒否の理由を純粋に「ビジネスの採算性」としたが、中国内における言論統制の維持を図る中国政府の圧力が背後にあったとみた「新唐人」は、フランスのパリ高等裁判所におき、不当な契約更新拒否を不服として、ユ社を提訴した。報道の自由・知る権利の抑圧を憂慮する『Reporters Without Borders』(本部:パリ、「国境なきジャーナリスト」団)や欧州議会議員多数がユ社に対する批判活動を展開、また米国においても多くの議員らがブッシュ大統領に「新唐人」延命を求める嘆願書を提出、ユ社の大顧客である米政府もユ社に対して働きかけるなど、4月15日の放送打ち切りを目前に、大陸間で火花が散った。
「新唐人」は2002年2月、米ニューヨークにおき、中国政府の中国内における言論統制に風穴を開けたい有志の中国系アメリカ人らにより、独立系・非営利のテレビ局として産声を上げた。その後、欧州、アジアや豪州へと営業領域を広げ、新鮮で偏りの無いニュースの提供は、定評を受けてきた。2003年には中国におけるSARSの広がりを粘り強く報道、2004年は米・両大統領候補ディベイト放映、また2005年は趙紫陽・中国元首相死去の報道の他、中国新年には欧州政治指導者57名の祝辞を中国市民に直接伝えるなど、報道機関として“まっとう”な活動を行ってきた。現在、世界主要国15カ国以上に約50ヶ所の拠点を持ち、主に北京語・広東語で、ニュースその他番組の放送を行っている。世界に散らばる華人や、1000万は下らないと推定される、中国の衛星放送受信アンテナを持つ家庭が対象だ。
中国大陸におけるマスメディアの活動は、中国政府の厳重な管理・統制下にある。中国政府がしばしば恣意的にニュースを操作し、国民の統制を図っている事実は、日本でも広く認識されてきた。2003年夏、中国人留学生による福岡一家殺人事件が日本中を騒がせている期間、中国では報道が行われなかった。小泉首相の靖国神社参拝や中国政府の対応、サッカー・アジア杯日中戦の中国人ファンによる暴力行為なども、報道の時期や方法は、常に中国政府がコントロールした。昨今の一連の反日デモに関連し、4月12日に“デモの報道が中国国内で一切されていない”との指摘を行った朝日新聞は、翌日の「事実を伝えてほしい」と題する社説におき、「情報ギャップの積み重ねが日中間の相互理解を阻む大きな原因になっている」と、言論統制を敷く中国政府に疑問を呈している。
共産党独裁体制死守のために、中国政府が言論統制に躍起になる傍らで、中国語のニュース番組を中国大陸に発信する「新唐人」が、中国政府から敵視されるのは当然だ。だが中国政府が「新唐人」を嫌悪するもう一つの理由は、中国政府が邪教と認定し、厳しく取締っている気孔集団「法輪功」を、「新唐人」が援助していると看做しているからである。1999年以降の中国政府の法輪功に対する監禁や拷問など暴力を用いた弾圧は、世界では現代を代表する深刻な人権問題として扱われており、アムネスティー・インターナショナルなど人権団体のみならず、国連人権委員会、米政府、英政府なども独自調査に基づき、中国政府を厳しく批判してきた。
2003年12月18日に、中国・駐豪総領事館(シドニー)が新聞を通じて行った「新唐人」に関する談話では、“法輪功は日本のオウム真理教と同じ、完璧な邪教”と定義づけを行った上、「新唐人」のスタッフの多くが法輪功修練者のボランティアであることから、“邪教・法輪功の宣伝道具である「新唐人」の取材や行事に、一切協力・参加すべきでない”と、現地中国人に呼びかけている。実際、多くの“法輪功”修練者が「新唐人」で勤務しているが、実際の報道を見る限り、法輪功の影は極めて薄い。報道の独立性を経営原則とする該社に、財政的な独立性を訊いてみた。該社のスポークスマンを務めるC・ハン女史によると、全収入のうち25%弱が広告などの収入、それ以外が個人の寄付であるが、米国の法律に抵触する可能性がある為、寄付者が法輪功信者であるか否かは確認できないという。
『国境なきジャーナリスト』団によると、「新唐人」が放送を開始した2002年2月以降、「新唐人」潰しを目的に中国政府が政治的圧力をかけた通信衛星会社は、New Skies Satellites社(蘭)、Mabuhay社(フィリピン)、PamAmSat社(米)、Taipei International Company社(台湾)、Atlanta ADTH社(米)で、実際に2003年7月から2004年5月まで、「新唐人」のアジアにおける放送は中断を余儀なくされた。手段としては、政治圧力を加えて「新唐人」との縁切りを迫るか、縁切りの褒美として中国の国営放送であるCCTV社(China Central Television)からの注文・取引を与える戦略に大別される。ユ社・ベレタ会長宛てに要望書を出した欧州議会議員・有力政治家らの表現によると、中国政府の「新唐人」潰しの政治圧力は「広く知られた事実」だ。
紆余曲折を経て、2004年5月1日より、ユ社の通信衛星を使用し「新唐人」の中国語放送が再開された。「新唐人」の経営幹部のY.ジャオ博士によると、契約がまとまった4月、ユ社のベレタ会長は誇らしげにこう述べた:『ユ社が拘束される所の欧州の放送協定には、相互主義と公平性という“ヨーロッパの精神”が根ざしており、どれだけ中国政府やその他公権力の圧力や経済的なインセンティブがあろうとも、「新唐人」の中国語放送をキャンセルしたりはしない』。同じく4月、ユ社と「新唐人」の契約仲介をした通信サービス会社LSE社(London Satellite Exchange、本部:ロンドン)は記者発表の場で、誇らしげに「新唐人」を持ち上げた。曰く『「新唐人」の使命は、世界中に住む中国人に正確な情報および開かれた情報交換の場を提供することである。「新唐人」は、視聴者の生活向上、国外に住む中国人の社会への融和を後押しする事、および報道の自由および民主主義という普遍的な価値の普及を目指している。』
さてその後、中国政府は“札束でユ社の頬を叩いた”ようだ。IFJ(国際ジャーナリスト連盟、本部:ブリュッセル)の本年3月10日付記事によると、中国政府はユ社に対し、「新唐人」の放送を続けていることにより、該社は「オリンピックの放映権をリスクに晒している」と明確に意思表示を行った。北京オリンピックを放映したければ、「新唐人」から手を引け、というわけだ。ユ社は2004年12月6日、中国政府系の「中国衛星通信集団公司」とイタリア・中国間の通信事業に関して“歴史的な提携”を発表、2週間後の2004年12月20日、仲介人のLSE社と共に「新唐人」に対し、2005年3月21日付けの、ユ社の放送衛星使用の契約打ち切りを通告した。
これを不服とした「新唐人」は、「契約上は一年の自動延長が可能」と『契約更新』を求め、ユ社を提訴。それに対し、3月22日付けの判決でパリ高等裁判所は、放送打ち切りは契約違反には当たらないとの判断を下し、「新唐人」の訴えを退けた。だがその間、「新唐人」は自らの存在意義を賭け懸命のロビー運動を展開、2005年3月10日には「新唐人」の放送打ち切りを憂慮する欧州議会議員・有力政治家ら65名が、ユ社ベレタ会長宛に要望書を提出した。『貴社のW-5衛星を通じた「新唐人」の放送に対する貴社の姿勢に深い憂慮を感じることを表明したい』との一文で始まる同書面は、『中国で唯一政府の検閲を受けずに自由に中国市民に中国語で放送されている「新唐人」を放送し続ける事は、相互主義、平等主義、グローバル・レベルでの情報・知識の自由往来に対する、貴社の責務を具現化することに等しい』と、「新唐人」放送継続を強く要請した。
4月12日、米議会スミス、ラントス両議員など人権派議員が中心となり、ブッシュ大統領宛に要望書を提出した。93名の議員が署名したその文書は『「新唐人」テレビは世界における「民主主義と自由」の推進に貢献している』とした上で、『仮に「新唐人」テレビの中国における放送が無くなった場合、世界で最もひどい「報道の自由およびその他の人権」の蹂躙者が、一般市民に報道されるべき情報に対する検閲能力を回復することになり、世界レベルで透明性、公開性、自由を推進する役割を担う米国にとり、中国における「新唐人」テレビの放送の打ち切りは「受け入れる事ができない」』と強い調子で述べている。
軍配は、「新唐人」側に上がった。世界の世論が「新唐人」側に就いたことを認めたユ社は、アジアにおける放送継続を話し合うために「新唐人」と交渉のテーブルに着くことを決め、2005年4月15日、その旨の発表が「新唐人」側より為された。交渉期間中は、放送も継続されるという暫定措置が取られたが、記者会見の席上“予断をゆるさない”とした「新唐人」幹部の懸念も、4月13日付けの米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事を読めば頷ける。
同紙は、米政府や中国政府、ましてや“ヨーロッパの精神”などは物ともしない、ユ社の商魂の逞しさを明らかにした。該社の取材によると、中国政府と「新唐人」が西側世論を巻き込んで死闘を演じ、自らもパリの被告席に座っていた2005年2月末から3月未明にかけて、ユ社・米国法人が米国防総省に接近し『米政府とのビジネスが拡大できるのであれば、「新唐人」放送継続は可能』と持ちかけて来たという。そうでなければ、中国政府になびくという訳だ。記事は、「新唐人」とはそもそもユ社にとり、中国政府と系列の通信衛星会社をおびき寄せ、中国市場に参入するための餌であった可能性を示唆している。
一方、争いの主役・中国共産党と「新唐人」の死闘は、当分は続きそうだ。「新唐人」は、取材上で協力関係がある「大紀元時報」(本部:ニューヨーク)が2005年1月に発表した『中国共産党に対する9つの批評』をテレビ上で取り上げ、全面支援を開始した。同紙は『9つの批評』の中で、中国共産党がその支配を通じて累積8000万人の市民を“不自然な死”に追いやり、中国人としての精神心や文化を奪ったと総括、大掛かりな反共産党キャンペーンを開始した。内容的には、毛沢東時代の経済運営失敗による大飢饉の創出、文化大革命時の暴力による多くの人々の死、江沢民が陣頭指揮を行った「法輪功」に対する暴力的弾圧など、共産党が犯してきた過ちを赤裸々に告発し、共産党員に脱党を促がすものとなっている。世界主要都市に設置された「脱党センター」やインターネット上から、党員は共産党を脱党し、現体制に反対の声を上げることができる。同紙によると、キャンペーンを通じ、4月23日時点で105万人強の中国共産党員が、中国大陸を含む世界各地で脱党した。
7000万人近い党員を抱える中国共産党にとり、105万人の脱党は決定的打撃ではない。だが、中国の衛星アンテナ購入層は、平均以上の収入を得る家庭、即ち実質上の“世論形成層”と見られる。多くの社会問題を抱え、都市部に比べ監視の目が緩い“地方”の視聴者が多い可能性もある。「新唐人」は一連の反日デモや両国外相の会談の模様なども、タイムリーに報道している。また「4月11日、千人以上から成る退役軍人の集団が上訪(通常は地方の農民などが、腐敗や窮状の直訴のために北京へ代表団を送る行為)」などという、通常は報道されない事件を映し出している。「新唐人」が開けた小さな風穴から、中国の世論形成者となるべき人たちに、国内外の“ナマ”の情報が提供されれば、その影響は極めて大きいと言える。
今回の一連の反日運動のなかでとりわけ目立ったのは、情けないまでの“弱気”な中国政府の姿勢だ。許可の無いデモは違法であると警告を出したにもかかわらず、実際にはデモの実行をゆるし、また投石などの暴力行為も止めず、翻って外国には「市民が自発的に行った行為」「責任は日本政府の誤った歴史観にある」と自らの責任を回避した。自ら“法の番人”である事の能力がない事を認めた上に、都合の良い言い訳が聞き入れられるよう外国の寛容に縋りつく中国政府の姿を、映像を通して“真に愛国的な中国国民”が見た場合、果たしてこれを許容するであろうか。
中国は現在内憂外患だ。“内”には蔓延する腐敗や所得格差の問題の他、主要銀行の不良債権や株式市場の低迷、“外”には膝元の悪童“北朝鮮”の他、反国家分裂法成立を機に態度硬化に転じた台湾、欧米との関係など、良い話は多くない。今回の反日デモで準備体操を終わらせ、且つ政府の自信の無さを知った中国の愛国青年たちが、6月4日に天安門で趙紫陽の弔いでも始めたら、1989年の再来、もしくは体制の崩壊などにも発展する可能性もある。かつてベルリンの壁は、実際にそれが崩壊するまで、誰も崩壊するとは思わなかった。今は西側メディアに“草の根放送局”などと言われている「新唐人」も、“歴史創作の功労者”の評価を受ける日も、案外近いかも知れない。