未来への伝言『家なき幼稚園』(4)

【大紀元日本1月25日】

作詞・野口雨情、作曲・藤井清美

踊り指導・島田豊

《童謡盆踊》

京都東山兎の子なら

お月さま見てはねて来な

オヤピョン オヤピョン オヤピョン

盆の踊は親孝行踊り

オヤピョン オヤピョン オヤピョン

大正15年、橋詰せみ郎は子供博覧会を、京都岡崎で企画開催し成功を収めます。童謡審査員として来場していた野口雨情氏に、「童謡盆踊」の作詞を依頼しました。同年8月16日の盂蘭盆会の夜、練習を重ねた沢山の子ども達が東山大文字の下で、せみ郎発案の童謡盆踊を発表します。やがて童謡盆踊は先ず京都府を中心に、兵庫・大阪・滋賀・奈良・和歌山へと波及し、北海道から九州まで伝播してゆきました。学校のお遊戯にも取り入れられ、日本全国で講習会が開かれる盛況振りだったといいます。

せみ郎は「童謡盆踊」発起の趣意を、次のようにまとめています。「盆踊という大人の季節舞踊を、子供の世界の常時舞踊にしたいという私の宿願が、子供博覧会を機会に京都東山大文字の下で試みられました。盆踊の聯想浄化という事も、又、私の発起の一要素であります。それは仏教童話というべき目蓮尊者の孝行物語が骨子になって盆踊の出来て居ることを、子供たちに知らせる事です」(橋詰せみ郎エッセイ集・関西児童文化史研究会発行)

せみ郎は、ジャーナリスト教育家の先駆者でした。作詞家・野口雨情、作曲家・山田耕筰、詩人・北原白秋、童話作家・巌谷小波、キリスト者・賀川豊彦などと、幅広い交遊録がありました。今思えば大正ロマンを実現しようとした、無邪気な生粋のネットワーカーだったのではないでしょうか?先見性を持った「童謡盆踊」の発想に、子ども文化への提案の斬新さを今も窺い知ることが出来ます。

せみ郎は「子供は大人の父である」という信念を表明しています。そして「大人の父」である子供に純なる孝養を尽くすことによって、子である大人の生活が浄化されることを願いました。大人の中に永遠に住んでいる子供をお手本に、社会を組み立て直すことを熱望した社会改革家であったともいえるでしょう。「児童は、児童自身の容姿からが崇(けだか)い神の芸術品になって居ます。まるまるとした其の輪郭、ニコニコとした其の顔、笑っても、泣いても、怒っても、其の動くところ、声を立てるところ、どこからどうながめても美であります。観者を魅了せずには置かない、高貴な芸術品です」。(同エッセイ集より)

せみ郎にとって「子供が話し、謡い、描き、踊る全てが、神来の芸術だった」のです。せみ郎が創設した「家なき幼稚園」の精神性は、今なお不滅の輝きを持っています。それはどこか架空の庭で成長を遂げ、子ども達と現代の大人の魂を癒すため、装いも新たに再び舞い戻ってくるかも知れません。魂なき時代への伝言を手渡すために・・・(了)

家なき幼稚園・第1回卒園児(室町幼稚園提供)

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