乙女への挽歌『子守学校』(2)

【大紀元日本2月23日】今の子どもたちは、どんな子守唄を聴いて育っているのでしょうか?そもそもお母さんは、子守唄を唄って上げているのでしょうか?ひょっとしたら、子守唄のテープを聞かせて済ませているのかもしれません。

海外に赴いたとき素朴さが残る山の村に入ると、年長の子どもたちが集団で幼い子を誰彼となく銘々に抱きかかえて、子守している姿に自然と出会います。男の子も女の子も、前に後ろにちっちゃな子を負ぶっています。手の空いている子らも、みんなで一緒に子どもたちが集い遊んでいました。一人遊びにかまける子を発見するのは、むつかしいことです。

日本でもかつては鎮守の森が、子どもらの成長や村人たちの安寧を守ってくれていました。子どもを守るという意味が、子守の言葉には込められています。お守り札に加護を願う、人の心の文化の営みです。現代ではさしずめ介護の世界で使われる、「見守り」に通じるものといえるでしょう。幼い子どもを見守る心を背負った哀歓が、地域を越えて繰り返し唄われました。「守り子」の子守唄と呼ばれるジャンルがそれです。

子守りは辛いもの、朝から晩まで日がな一日を送ります。雇い主のお母さんに叱られ、子にゃ泣かれて、にっちもさっちもいきません。お父さんは怖い目で横にらみするばかり。子守がお暇になるお「正月」が、早く来ればよいのになあ。そうすれば風呂敷包みに下駄下げて「お父さんさよならまた来ます。お母さんさよならまた来ます」。おさらばできるのにと唄います。

ねんね、おねんね、してくれた寝た子がかわいい。起きて泣く子は、わしゃきらいじゃ。この子よう泣く、泣く子は山のきつねにくれてやるぞ!うらめしく脅しつけて、子守の憂さを晴らしてあやす心情は、守り子たちにありふれたものでした。何とかやり過ごして夜のお空の道を、とぼとぼ歩いて帰ります。ふと見上げるお月様にさえ、親知らず!・・・と聴こえぬ声を上げて唄いました。

一に、一番辛いことは、子守の役目をやらされること。二に、憎まれっ子を背負えといわれること。三に、叫ばれて守り子がいじめていると思われること。四に、しかられ、五に、ごつんと頭をはられ、六に、ろくなもの食べれずに、七に、しめし(おしめ)なども洗わされ、八に、はたかれ、九に、苦しくて涙をこぼし、十に、とうとう殿(だんな)さんにしかられて、子守をやめろといわれる始末。お払い箱になったらどうしようと、矛盾な気持ちが子守娘の胸の内の底から、絶えず沸騰していたことでしょう。

守り子の出自には、漂白する民の娘たちもあったようです。金持ちの家や村へ奉公に出されます。雨風が吹いても、急にしのぐ宿はありません。仕方なく他人の軒端(のきば)に立ち寄れば、子が泣いてやかましいからあっちゃいけと、そうそうに追い立てられるばかり。守り子唄にはこうした守り子たちのやり場のない日常が、溢れるばかりにたんと唄われてもいました。

私たちはこんな唄のいくつを、記憶に留めて来たといえるでしょうか?忘却の水を飲み干したまま、時代は前に進んでゆくばかりです。それでも守り子唄の固有の調べは、間欠泉のように時代の先端に蘇ったことがあります。「竹田の子守唄」のことです。

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