国営系メディア、ネット書き込みを一斉に批判 言論による政権揺さぶりに警戒か

【大紀元日本2月9日】中国国営の新華社通信は2月5日、「ネット書き込み者による世論の誘導を警戒せよ」と題する記事を掲載し、「『人肉捜索』などでネット暴力が横行し、正義の名の下で世論を誤って誘導している」と批判。ネットでの発言を一層強化する動きを見せた。背後に国内外の一連の民衆運動により高まる政府批判を抑える狙いがあると見られている。

新華社の記事は、2010年12月末にトラックの下敷きとなって遺体で発見された浙江省の元村幹部・銭雲会さんの事件を引き合いに出し、「ネット水軍」と呼ばれるネット書き込み者の害を論じたもの。

新華社のほか、人民日報も先日、「ネット水軍」は世論を食い物にしていると批判し、「有効な措置を講じるべきだ」と呼びかけた。光明日報は「政府は主導権を握り、ネットという陣地をしっかり守るべきだ」と強い口調で論じた。

中国ではネットユーザーの数は世界最多の4.57億人に達し、33.9%の普及率を誇っている。ネット上の書き込みは世論を動かすことさえあり得る。一般のネット利用者のほか、「ネット水軍」と呼ばれる書き込み者も存在する。つまり、ネットPR会社に雇われ、掲示板で特定のニュースや商品に対する意見を書き込む、いわばネット社会の「サクラ」のようなもの。

しかし、専門家は政府メディアが「ネット水軍」を「妖魔化」し、マイナス面を故意に拡大した恐れがあると指摘している。中国人民大学新聞学院の匡文波教授は、「名誉毀損など利益が損なわれた場合は、既存の法律で解決すればよい。世論の扇動の違法性は法律では測りかねない」としている。

「ネット水軍」をターゲットとする今回の政府系メディアの批判は、背後に言論封鎖の狙いがうかがえる。前出の新華社記事で取り上げられた銭雲会さんの事件を引き金に高まる政府への批判や、中東での民主運動の波がインターネットを通して中国にも波及するという当局の恐れが背景にあると考えられる。

トラックの下敷きとなって死亡した銭雲会さんは、土地の強制収用を不服として、長年村民を率いて政府に陳情を繰り返し、3回投獄された経歴を持つ。銭さんの死を、政府は調査の結果「交通事故」と発表したが、インターネットでは、目撃者の証言として「4、5人に押さえられて、トラックの下に押し込まれた」との書き込みが広まっている。ほかにも「現場にトラックのブレーキ痕がなかった」ことや「遺体とトラックが垂直になっている」などの不審な点も書き込まれ、大きな波紋を呼んだ。ネット上の反響を受け、政府は仕方なく調査に乗り出した。

その後、公安当局は銭さんの録画機能を持つ時計を入手したと言い、その映像を公開し「やはり交通事故」と断定。トラックの運転手に三年半の懲役を言い渡し、幕引きをはかろうとした。しかし、事故直後に政府系メディア・環球時報の英語版に掲載された写真から、銭さんが腕に時計を着けていなかったことや、銭さんが録画機能付の時計を所有していることを家族が知らないなどのことから、証拠映像の信憑性を疑問視する書き込みが相次いだ。

書き込みはすぐに削除されたが、国内外の各メディアは「政府の信用危機」と事件を大きく取り上げた。事件の真相は今も闇の中だが、これまで民意を無視し、テレビ、新聞、ラジオで言論を統制してきた政府が、インターネットの民意に苦戦を強いられたに違いない。

銭さんの事件とほぼ並行してチュニジアを始め中東で相次いで起こっている民主運動にも、中国当局は神経を尖らせている。チュニジア事件当初、「一人の焼身自殺事件で革命を起こせるのに、腐敗の政府幹部が生きたままの人間をトラックの下敷きとして殺害した事件が起きた中国では、なぜ革命が起きないのだろう」「民が死を恐れなければ、死をもって民を脅すことも無用」などの書き込みもネット上で見受けられた。こういった発言を恐れているのだろうか。エジプト革命に対して、当局は報道規制のほか、関連報道の掲示板も閉鎖している。

インターネットの力をたびたび見せ付けられた政府は「ネット水軍」取締りの名の下で行われる言論封鎖を強化している。しかし、実際は、人心離れを一層加速させているだけに過ぎない。

(翻訳編集・高遠)
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