米国へのハシゴ 中米コスタリカに染み込む中国パワー

【大紀元日本7月7日】「プラヴィダ!(Pura Vida)」は、中米コスタリカでよく使われる挨拶の言葉。直訳すれば「純粋な人生」で、その意味は「いい感じ」「元気だ」になる。単純な挨拶から感謝の意まで、何でも表すことができる便利な言葉だ。

コスタリカで最近、その「プラヴィダ(いい感じ)」を得ているのは、中国人だという。

今年7月から施行される対中国自由貿易協定で、関税が撤廃され、モノの流れの障害がなくなり、コスタリカには中国製品が大量に流れている。

コスタリカは、2007年に60年間の友好を培った台湾との国交を断絶し、いまや世界経済力第2となった中国の力の流れを取り入れることを選んだ。中国大使がコスタリカに派遣されると、両国の通商はより広く大きく開かれることになった。

伝統的に、対米友好関係と平和善隣、人権尊重を重んじるコスタリカは、米国の盟友とされていたが、ラテンアメリカで中国を最初に受け入れる国となったことは、米国をはじめ世界に衝撃を与えた。人権問題に関して中国に触れないということが明白になったとき、地元紙「ラ・ナチオン」は、「人権に大きな愛を持つ国にとっての、『小国』への出発だ」と非難した。

両国の貿易交渉は、2009年1月から公式に始まった。今年5月のコスタリカ政府議会の賛成を得て、ローラ・チンチジャ大統領は自由貿易協定に署名した。

台湾との国交を断った「記念」として、中国はコスタリカに大きなプレゼントを送った。それは3億ドルの建設費を中国側が負担した、3万5000席を備えた大型スポーツ競技スタジアムだ。この3億ドルの詳細は当初、コスタリカ政府は機密としていたが、憲法裁判所が情報開示を要求したため、明らかにされた。

他に200台の新車パトカー、中小企業向けの4000万ドルの融資枠、石油製鉄所を中国の最新技術でもって高性能にする、などのプレゼントを贈った。

「中国という、現在、世界で最も経済成長の早い13億人の市場に、わが国のビールやコーヒー、ハイテク・コンピューターの部品まで売り込めるようになった」と、チンチジャ政権は、中国との自由貿易協定に経済面において大変期待している。同国外務省担当によると、昨年の対中国の貿易利益は12億7000万で、中国は米国に次ぐ第2位の貿易国になった。

チンチジャ政権は自由貿易協定について、国のブランド力を中国人投資家にPRする良い機会だと考えており、また中国人投資家は「アメリカの裏庭」である中米を取り込むことで米国市場へこれまでより容易にアクセスできるようになる、とほくそ笑んでいる。

中国とのFTA交渉担当のフェルナンド・オカンポ氏は、コスタリカでの中国の活動について、「中国企業は拠点をわが国にすることによって米国への物流・輸送時間を短縮することができ、かつ米国の輸出入取引規制を避けることができる」と述べた。

コスタリカに染み込む中国の影響力 地元商工会「信用できない相手」

これらの両国の緊密な結びつきが、どれほどの投資家を招くか、については、一部の専門家からは疑問の声が上がっている。

中国はラテンアメリカへの接近により、ソフトパワーをインクのごとく染み込ませていくだろう、と分析している。ウィキリークスにより公開された2008年2月の米国の外交公電によると、「中国側はコスタリカを他の中米諸国へ手を伸ばすための第一歩と考えている。中国は貿易増加、産業発達、経済支援など具体的な計画を売りこんでいく」とある。

ブラジルやペルー、コロンビアと違い、コスタリカは考えられているほど天然資源は多くない」と野村證券ニューヨーク支店ラテンアメリカ担当者は指摘する。またコスタリカの商工会議所は、「信用できる相手」ではない中国との門を大きく開くことは、コスタリカにとって有益ではない、とFTA交渉に当初から不満を持っていた。

商工会議所の懸念には、中国企業側の労働者に対する保険や健康管理、地元の生産者側と価格競争を起こすことになりうる過度な量産がある。

中国とのFTAに賛同するものは、「中国はすでに重要な商業パートナーであり、FTAには明確で適切なガイドラインがある」と、地元の反対意見に答える。また、商品の価格が下がるため、消費者にとってはメリットになる、とも対応している。

中国の影響力がラテンアメリカに染み込んでいくことに、米国ワシントンが無言のままでいるのは間違っている、と専門家は指摘する。

本部をワシントンに置く独系コンサル企業ガーテン・ロスコフのジョーチ副社長は、米ワシントンの目と鼻の先にあるコスタリカとのFTAは、中国の腕力誇示の兆候である、との見方を示している。

「対メキシコ、対キューバ、さらにブラジルに至る、中米にとどまらない広範囲で、中国の大きな影響力は各国の諸問題に絡んで重みを増していくだろう」と同氏は述べた。

専門家の懸念にかかわらず、両国の企業は新しい貿易協定のメリットにあずかろうと動き出している。

先日、同国首都のサンホセで開かれた商業フォーラムで、参加した中国と現地企業はまるで熱愛関係にあるかのように、相当な速度で商談を取りまとめていたという。中国太陽エネルギーメーカーの現地営業担当アンドレア・タンは、「他のラテンアメリカ諸国には、まだ中国と関税があるが、今回結ばれたコスタリカとのFTAが、他国へアクセスする『橋』になる」と答え、フォーラム中は多数の企業と積極的に交渉していた。

コスタリカの街に飛び交う「プラヴィダ!」の返事に、「謝謝(シェシェ)」が増えていくかもしれない。

(翻訳編集・佐渡道世)
関連記事
在キューバ中国大使館は26日、キューバと巨大経済圏構想「一帯一路」構想の建設プロジェクトを推進する協力計画に署名したと発表した。キューバは、反政府デモを弾圧するキューバ軍や特殊部隊の「テロ対策」訓練を中国の準軍事組織から
今年12月10日の「人権デー」では、国際社会が「平等」に焦点を当てて社会を考察する。この日はまた、世界各国の軍隊や治安機関が人権保護における自身の役割を見直す良い機会ともなる。
キューバ当局は15日、反体制派が同日計画していたデモを阻止した。主要都市に警官を配備して参加者を拘束したほか、デモ主催者の家を取り囲み外出を妨害した。スペイン国営通信EFEやロイター通信などが報じた。
コロナ禍を迎える世界は、権威主義体制にとって権力を強める絶好の機会となっている。 多くの国では自由度が押し下げられている。マーティさんによれば、ラテンアメリカではこの権威主義体制を維持するため、それぞれが「協力しあってい
ラテンアメリカで自由を推進する活動を続けるマーティさんは、権威主義の腐敗と不正に直面してきた。彼女によれば、「自由」という言葉は共産主義の対義語だという。