焦点:安全よりスピードか、中国ネット出前ブームで事故急増

Christian Shepherd

[北京 28日 ロイター] – あざやかな青いジャケットを着たフードデリバリー配達員の運転するスクーターが、雨で滑りやすくなった路面を、混雑した交差点に突っ込み、曲がろうとしていた車に衝突。ドライバーは路面に投げ出された──。

これは中国の警察当局が、配達員のスピードの出し過ぎを注意するため、サイトに掲載したビデオの一場面だ。

中国では食事の出前サービスがブームとなっている。推定約300万人に上る配達員の多くが、静かな電気スクーターか三輪バイクを運転しており、彼らによる交通事故が急増している。

警察当局が注意喚起に乗り出すなか、配達ドライバー自身からも、安全よりもスピード重視のプレッシャーにさらされているとの不満が聞こえてくる。

「ラッシュアワーは、いつも事故が起きる。友人は車にはねられ、2カ月働けなかった」と、北京で配達員をしているZhangさんは言う。

中国のオンライン出前市場は、電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディングスやネットサービス大手騰訊控股(テンセント・ホールディングス)<0700.HK>が支援するサービスが主導している。国営の中国インターネット情報センターの報告書によれば、今年前半には利用者が41・6%増加し、3億人に達した。

上海では、出前配達員が絡む死傷事故が、今年前半だけで76件発生し、警察当局は8月、大手デリバリー各社に対して交通安全基準の改善を求めた。

上海警察当局によると、デリバリーサービス最大手「美団外売」と「Ele.me(餓了麼)」のドライバーが引き起こした事故が、全体の事故件数の4分の1を占めた。

このニュースは全国的な反響を呼び、警察やメディアは一斉に業界を非難するようになった。

南京市の警察は20日、配達員が絡む事故が今年前半だけで3000件以上に達したことを受け、フードデリバリー各社と面会。事故の9割以上は、配達員側に落ち度があったと、国営メディアは報じている。

国営メディア「法制網」は当局に対し、「大衆を動員して」スマートフォンなどのカメラを使い、違反者を通報させ、会社を処罰するよう促した。配達員は、目立つ色の制服を着ているため判別が可能だ。

配達員が蛍光イエローの制服を着ている「美団外売」の広報担当者は、ドライバー向けに安全運転訓練を行っており、7月は300回以上の訓練を実施したと語った。翌月には、事故の発生件数が13・6%減少したという。

「Ele.me」の広報担当者は、配達員には「安全第一、スピード第二」と指導しており、配達員による交通規則違反を記録するシステムを導入、事故を通報した通行人に謝礼を渡す方針を決めたと語った。

<スピード第一>

 

中国の配達員が、米国などで配達員が直面する強盗や銃撃の被害に遭遇することはまれだが、都市部の交通量の多い道路を利用するため、負傷することは多い。

事故の責任は通常ドライバーが負うが、労働運動家や多くのドライバーは、スピードが必須のインセンティブに問題があると訴える。

香港を拠点に中国全土の労働問題を扱う非政府組織「中国労工通訊」によると、苦境を訴える配達員は増えており、賃金改善や事故の際の補償を求める抗議活動やストライキが起きている。

配達が遅れたり、利用者からの評価が悪いとドライバーが罰金を取られるだけでなく、会社側が事故の保険や補償を提供していないことさえある、と配達員は指摘。一方、会社側は、ドライバーは公的または第3者の損害賠償保険に加入していると説明する。

ロイターが取材した複数の配達員は、10─12時間のシフト1回につき、最大40件の配達を任されていると語る。配達1件の所要時間は30分以下に設定されており、時間内に配達し、利用者から高評価を得ると、1件につき5元(約84円)が給料に加算される。

配達員は通常、オンライン出前サービスのプラットフォーム運営会社に直接雇われるのではなく、フリーランスだったり、別会社に雇用されているため、運営会社と直接コンタクトを持つことはない。

江蘇省宜興では8月、美団外売の配達員数十人が、賃金と負傷した場合の補償について抗議するストライキを行った。傷だらけの足を見せ、遅配の罰金が給料からどれほどたくさん差し引かれているかを示す手書きのメモを掲げて抗議した。

美団外売による昨年の報告書によれば、配達員の大半が農村から出稼ぎにきた26歳以下の若者で、収入のほとんどを家族に仕送りしている。

「フードデリバリー各社は、もっと人間的な経営をすべきだ」と、共和党機関紙の人民日報は最近の論評で批判した。「スピードだけを追求する営業モデルを改め、安定を追求すべきだ。食事の配達のために、配達員の生命を危険にさらしてはならない」

Ele.meの広報担当者は、「配達スピードと交通安全のバランスを取ることは、実際非常に難しい」と認めたうえで、配達ルートを最適化し、ドライバーの動きを把握するため、AI(人工知能)を導入する方向だと話した。

他の荷物配達業に比べて、食品の出前サービス会社は、ドライバーにかかる時間のプレッシャーがより大きく、配達ルートも一定ではないため、これまで多くの批判を浴びてきた。

だが、より広範なデリバリー業界も問題を抱えている。

北京の荷物配達のドライバーで、河北省出身のNiu Hongqiangさん(23)は、彼が受けた安全訓練は「役に立たない」と話す。「何かトラブルが起きるときは、大きなトラブルになる」

(Christian Shepherd記者 翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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