箒(ほうき)のお話

私の大叔父さんは本をいっぱい読んでおり、話がとてもじょうずだった。大叔父さんの話はとてもおもしろく、天文、地理、歴史、人生体験など、すべてが話の題材となった。

 私の祖父が早くに亡くなったからだろうか、大叔父さんは父にとても厳しかった。幼いころ、大叔父さんが家に来るたびに、父に厳しく教え諭していたのを、今でも覚えている。そのとき父は、いつも大叔父さんのそばに礼儀正しく立ち、大叔父さんの説教をかしこまって聴いていた。私もそばで、分かったような分からないような顔で、うなづいたものであった。すると大叔父さんは、私のほうを向き、にこっとして、「後で私がお話をしてあげよう」と言った。

 こんなふうにして、私は大叔父さんの話を聞きながら大きくなった。私がまだ中学生だったある日、大叔父さんは、私を近くに呼び寄せると、まじめな顔で私に、「お前ももう大きくなったから、特別な話をしてあげよう」と言った。私は、わくわくしながらも何か恐ろしいような気持ちで、大叔父さんの話に耳を傾けた。

 ある大きな会社が社員を募集した。応募してきた人は優秀な人材ばかりで、みんな自信満々だった。見た目も格好良くないし、学歴も高くない山さんは、たくさんの応募者の中で全く目立たなかった。彼は、どうせ望みがないんだから、リラックスして面接を受ければいいや、と思った。

 面接の時間がきて、山さんがそっとドアを開けると、面接官がいっせいに山さんのほうを注目した。彼は何歩か前に進んだところで、何かを蹴ってしまった。あれ?どうして箒(ほうき)が床にあるんだろう。山さんは、しゃがんで箒を拾うと、そっと部屋の隅っこに置き、それからゆっくり面接官のほうへ進んで行った。

 「あなたはどうして応募してきたのですか?」山さんは真面目に答えた。別に受かるなんて全く考えていなかったけれど。

 山さんは、全ての才能が自然に現れ、採用されることになった。

 私は山さんに拍手喝采を贈った。大叔父さんは、「山さんはどうしてこんなに幸運だったのかな?」と聞いた。「善には善の報いがあるからです」、「その通り。山さんは心が優しく、どんなに厳粛で緊張した雰囲気の中でも、先ずは他の人のことを思いやり、後の人が箒につまづいて転ばないようにと考えることができたわけだ。この無私の心があれば、これからもきっと、先ずは会社のことを一番に考えてくれるだろう。社長はそう考えたわけだ」。

 この話は短いけれど、美しい楽章のように、いつまでも私の心に鳴り響き、深い啓発を与えてくれた。それ以来、私もその話をいろいろな人に聞かせてあげ、山さんはどうしてこんなに幸運なんだろう、とみんなに問いかけている。

(豊山)

 

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