焦点:日本の安全保障、米朝会談で一段と不透明に
[東京 13日 ロイター] – 東アジアの安定化に扉を開くと期待された米朝の歴史的な首脳会談は、逆に日本の安全保障環境を不透明にした。トランプ米大統領は北朝鮮の非核化に向けた道筋を示さず、日本が懸念する中・短距離ミサイルの扱いにも触れずじまい。一方で、米韓合同軍事演習の中止と、将来的な在韓米軍の撤退に言及した。日本政府の中からも、米国に頼る今の政策を疑問視する声が出ている。
<見えてきた「米国最優先」>
米朝会談に臨む米国に対し、日本は首脳会談、外相会談、防衛相会談などあらゆる機会を通じ、日本を射程に収めるミサイルの廃棄を議題に取り上げるよう何度も念を押してきた。さらに抑止力を低下させる在韓米軍の撤退や縮小を議題にしないよう確約を求めてきた。
しかし、ふたを開けてみれば、ICBM(大陸間弾道弾)を含め、北朝鮮の弾道ミサイルの廃棄については、共同文書に盛り込まれなかった。金正恩・朝鮮労働党委員長との会談を終えたトランプ氏の口からも言及がなかった。
「非核化については、少なくとも共同文書に明記された」と、日本の政府関係者は言う。「弾道ミサイル、特にわれわれが懸念する中・短距離ミサイルはどうなったのだろうか」と日本の政府関係者は不安を隠さない。
日本の安全保障政策に携わる関係者をさらに心配させたのが、会見でトランプ氏が放った米韓合同軍事演習の中止発言。合同演習は両軍の連携を確認するのに重要で、定期的に実施しないと「さびつく」(自衛隊関係者)。大規模な演習なら準備に半年以上かかるため、再開したくてもすぐにはできない。
北朝鮮はことあるごとに米韓演習に反発してきたことから、金委員長が嫌がっているのは経済制裁よりも軍事演習との見方もある。「中止になれば、金委員長は枕を高くして眠れる。抑止力が低下する」と、別の政府関係者は言う。
トランプ氏は今すぐではないとしながらも、在韓米軍の撤退も示唆した。米国の影響下にある韓国という緩衝地帯がなくなり、中国やロシアと直接向き合うことになるとして、日本が警戒する地政学上の変化だ。
「もし私が日本人、特に朝鮮半島政策や防衛政策に携わる人間なら、いよいよこの地域から米軍がいなくなることが心配になる」と、スタンフォード大学のダニエル・シュナイダー客員教授は言う。「北東アジアにおける『米国最優先』の外交政策がどんなものか、貿易問題を含め、魅力的なものではないことが分かってきた」と、シュナイダー氏は語る。
<「日本はやり方を変える必要」>
国民が核兵器に強いアレルギーを持つ日本では、独自の核武装を求める声は聞こえない。しかし、国際的なリスクコンサルティング会社テネオ・インテリジェンスは13日のリポートで、日本と韓国が自前で核抑止力を保有する可能性を指摘した。
日本の政府関係者や専門家は、北朝鮮の非核化もミサイル廃棄も「すべてこれから」と口をそろえ、米朝が今後開く実務者協議に期待をかける。小野寺五典防衛相は13日朝、記者団に対し「ポンペオ米国務長官と北朝鮮高官の間で、具体的な作業が進められると承知している。その作業を見守っていく」と語った。
日本の政府関係者は「米国まかせの今の状態で良いのか。日本はやり方を変える必要があるかもしれない」と話す。
(久保信博、リンダ・シーグ 編集:田巻一彦)