焦点:対米交渉カードのLNG輸入、国内需要減に直面 転売に活路

[東京 29日 ロイター] – 日本政府は、対米貿易黒字の圧縮に向け、米国からのLNG(液化天然ガス)輸入拡大を最有力手段として日米通商協議に臨もうとしている。すでに2020年には米LNG輸出能力の4分の1を買い取る契約も結んだ。だが、日本の人口減少、原発再稼働などの影響で、国内におけるLNG需要は右肩下がりになるとの予測が台頭。このままでは、米国から輸入したLNGが、国内で余剰在庫として積み上がるリスクも出てきた。

こうした中で日本政府は、アジアでのLNG市場拡大に向けた支援策をまとめ、米国産LNG輸入拡大と国内需要の減少を両立させたい意向だ。

<通商交渉の数少ないカード>

今年5月、東京湾に入港した米国からのLNG船。東京ガス<9531.T>が初めて米国と長期契約した輸入ガスが積まれていた。米国ではシェールガス革命が起きてから数年かけて、ようやく輸出用プラントが完成し、昨年初めて天然ガス輸出国となった。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の調べでは、20年までの米国のLNG輸出能力は7115万トンに拡大する。そのうち日本は1700万トン、4分の1を購入する(転売用も含む)契約を結んでいる。

世界最大のLNG輸入企業であるJERA(東京電力<9501.T>と中部電力<9502.T>の合弁会社)によると、米西海岸のLNG輸出基地であるジョーダン・コーブから20年契約・150万トンの引き取りを現在交渉中だ。日本への距離が近いことから、他国への転売需要も念頭に米国との取引を一段と増やす可能性がありそうだ。

米国は、日本などの同盟国を含む各国からの自動車輸出に25%の高関税を適用するかどうか、関係業界からの聴取を初めとする手続きを進めている。これに対し、日本政府は、高関税阻止のカードとして、米国産LNGの輸入増加を米国に訴える方針だ。

西村康稔官房副長官は、ロイターとのインタビューで「民間企業の方針を政府がコントロールできるわけではないが、エネルギー輸入について、中東依存度を減らしていくことも大事な点。米国からのLNG輸入は、これから数年間、大幅に増えることになっている」と述べた。

日本は、電力用・都市ガス用燃料として年間8400万トンのLNGを輸入。輸入先の多くは、豪州やマレーシア、中東となっている。

日本政府は、米国からの輸入を増やすことで、中東への依存度を下げることができ、ホルムズ海峡などで紛争が発生した場合のリスク引き下げに貢献するとみている。

同時に対米黒字の圧縮にもつながるだけでなく、原油相場に左右されず安定した価格でLNGを輸入できるメリットもあるとみている。

<国内需要は先細り 原発政策との矛盾>

 

ところが、大きな障害として、LNG需要の減少傾向が意識され始めた。

1つは、国内における人口減少や省エネに伴うエネルギー需要減少などが要因として浮上している。LNGの輸入数量はここ数年減少傾向にあり、今年上期は前年比2.7%減となっている。

さらに日本政府が進めている原子力発電所の再稼動の結果、LNG需要がさらに減少する可能性が高まっている。

2011年の東日本大震災の発生後、稼動している原発はゼロになったが、18年8月末時点で、再稼動は7基になる見込みだ。政府の計画では、30年時点で30基程度の再稼動が見込まれている。

JOGMECの田村康昌・主任研究員の試算では、原発1基の稼働によりLNGは80─100万トンが不要となる。

30基の稼働を前提にするとLNG需要は6200万トンまで減少、昨年の輸入量の4分の1が不要となる計算だ。

JERAの垣見祐二社長は、16年のロイターとのインタビューで「政府の長期LNG需要見通しをベースに考えれば、2030年までにLNGの輸入長期契約を最大で42%減らす可能性がある」と述べていた。

このまま米国産LNGの輸入拡大を継続した場合、日本国内に過剰なLNG在庫が積み上がりかねない。

そこで政府が注目しているのが、経済産業省が16年に策定した「LNG市場戦略」。米国産LNGの輸出先としてのアジア市場の拡大や、事業者の転売価格の安定確保を支援しようとしている。

17年からは米国との協力体制も構築。政府関係者の1人は、トランプ大統領によるLNG輸出拡大の意向が、こうした動きに影響していると認めている。

今年からは官民で100億ドル規模のファインスの受け入れ候補の企業調査も始まり、アジア各国のLNG関連の官民技術者などを対象にした研修会も実施している。

ただ、アジア市場拡大に伴い日本が米LNGを転売用に購入しても、貿易統計上の輸入には計上されない。「日本の対米貿易黒字の削減につながらないことは承知している」(政府関係者)と打ち明ける。対米輸入拡大への貢献がどの程度、日米通商協議で説得材料となるのか。政府自身が確信を持てず、手探りで交渉のテーブルに臨むことになりそうだ。

 

(中川泉 月森修 編集:田巻一彦  )

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