焦点:トルコのシリア軍事作戦、通貨リラが行方を左右

Karin Strohecker Tom Arnold

[ロンドン 18日 ロイター] – トルコはシリア北部の軍事作戦を5日間停止することで米国と合意したが、トルコが今後の作戦を継続できるかどうかは、戦場と離れた外為市場の動き次第かもしれない。

トルコの通貨リラは、西側諸国、特に米国との地政学関係に翻弄され続けている。昨年は米国による制裁の影響で30%も下落し、輸入と外国からの投資に依存するトルコ経済は景気後退に陥った。

リラは現在、シリア北部情勢を巡り再び売り圧力を受けており、当局のリラ買い介入によってトルコの乏しい外貨準備は脅かされている。西側諸国が制裁を強化すれば通貨防衛のための外貨準備が足りなくなり、ただでさえ弱っている経済は悪化し、エルドアン大統領は軍事作戦に反発する国際社会の圧力に抵抗しづらくなる可能性がある。

中銀のデータによると、トルコの外貨準備は360億ドル程度で、リラの防衛を続けるにはぎりぎりの水準だ。

ケンブリッジ・グローバル・ペイメンツ(トロント)のカール・スチャモッタ氏は「中銀外貨準備の減少、多額の外貨借り換えニーズ、その他の経済的脆弱性により、トルコのシリアでの軍事作戦の余地は限られる」と言う。

国有銀行はここ数週間、リラを買い支えていると伝えられる。ある推計では、14日の週には1日20億ドルが費やされたが、トルコ軍がシリア北部に侵攻した9日からの数日間でリラは1.5%下落した。その後はやや持ち直している。

コメルツバンク(ロンドン)のターサ・ゴース氏は「トルコの外貨準備は取るに足らない」とし、リラの下落が始まれば中銀のリソースは不足すると予想。はるかに外貨準備の多いロシアや中国でさえ、一度売り圧力が強まると急速に外貨準備が減少したと指摘した。

トルコ中銀のコメントは得られなかった。

トルコと米国は軍事作戦の停止で合意したが、リラ建て資産が息をつけるのは一時だけかもしれない。米国によるトルコへの一部制裁は継続しており、多くの欧州諸国もトルコへの武器売却を制限する措置を取っている。また米議会は制裁の本格化を求めているため、多くの投資家は市場の喜びもつかの間ではないかと警戒している。

トルコの外貨準備を巡っては、スワップが大きな位置を占めているとの報道が今春、市場を動揺させた。一部の投資家やエコノミストは、中銀が外貨準備にスワップをどのように算入しているのか謎だと首をひねる。

中銀の最新データでは、トルコの外貨準備は差し引き370億ドル弱だ。しかしオックスフォード・エコノミクスとハーバーが、金準備や商業銀行の所要外貨準備による水増し分を勘案し、実際に使える外貨準備を計算したところ、8月末の額は290億ドルにとどまった。

S&Pグローバル・レーティングスは16日、トルコの外貨準備は「限られている」とし、「ストレスシナリオでは、公的部門と民間部門が外貨流動性を奪い合う事態になる可能性さえある」との見方を示した。

エコノミストによると、トルコ政府は前回の通貨危機時と同じく、直接的な対応に注力している。例えばイスタンブールの証券取引所は一部銀行株の空売りを一時的に禁止し、トレーダーによると、一部銀行は外銀に対するリラの供給を制限。国有銀行はリラ買い・ドル売りを行っている。

しかし、投資家はその効果に懐疑的だ。TSロンバードのジョン・ハリソン氏は、リラを特定の水準に維持するだけの外貨準備はなく、維持しようと思えば外貨準備は数日で尽きることを当局は分かっていると指摘する。

トルコはほぼすべてのエネルギーと天然ガス、多くの機械、鉄鋼、車両を輸入に頼っている。このため、危機が起きたり、資金の海外調達に制裁を科された時、外貨準備は輸入をどの程度カバーできるかの目安にもなる。

国際通貨基金(IMF)の試算によると、トルコの外貨準備は約5カ月分の輸入を賄える水準で、IMFが最低限安全と見なす3カ月分を上回っている。しかし、約15カ月分を準備しているロシア、中国、ブラジルなどには遠く及ばない。

対外債務にも注目が集まる。向こう1年間で返済期限を迎える対外債務は約1800億ドルで、うち750億ドルは借り換えリスクがとりわけ高いものだ。

アナリストによると、リラの下落圧力が高まると、企業は対外債務の借り換え能力が損なわれる。ピクテ・アセット・マネジメントのニコライ・マーコフ氏は、企業のドル調達が制裁対象となれば景色が一変すると指摘。「そうなればトルコ企業は流動性不足に陥り、中銀の介入を必要とするだろう」と話す。

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