code404 / Pixabay
code404 / Pixabay
発願して再び現世に戻る

『 宇治拾遺物語』:写経のため、地獄に落ちた能書家 中

 

関連記事:『 宇治拾遺物語』:写経のため、地獄に落ちた能書家 

藤原敏行は、平安時代前期の歌人,書家です。書は空海に並ぶと言われるほどの書道の大家でもあり、立派な人だと思いきや、『宇治拾遺物語』では、食い気と色気にほだされて地獄に落ちた様子が描かれています。

発願して再び現世に戻る

この前、行き会った二百人の軍隊は目を怒らし、敏行を恨めしく見つめていました。敏行は怖くて震えながら

「本当に助かる方法はないでしょうか」と、再び獄卒に聞きました。獄卒は「四巻経を書き奉る旨、今すぐ発願せよ」とひそかに言うので、敏行は、今まさに門をくぐるというところで、「自分の罪科は四巻経を書き供養して贖う」と願をかけました。

(公有領域)

敏行が地獄の役所に着くと、裁判人が「あれが敏行か」と問い、「そうです」と獄卒が答えました。裁判人は敏行に聞きました。「あなたは何か為したことはあるのか」。敏行は「特にございませんが、人の依頼を受けて仏経を200部書き写したことがあります」と答えました。

「本来あなたにはまた命が残っているが、あなたが書いた仏経が汚らわしく、清くないまま書かれた旨の訴えがあり、こうしてあなたを絡め取ってきたものである。訴え出た者へあなたの身柄を下げ渡し、彼らの思いのままにさせようと思うのだ」と裁判官は言いました。

敏行は大いに驚き「私は四巻経を書き奉ると発願しており、願いをまだやり遂げていないので、今、罪を贖うことはできないのでございます」と申し出ました。

(公有領域)

裁判人は驚き、「そんなことがあったのか、過去帳を引いて、調べよ」と言いました。裁判人が敏行の過去帳を引いて調べて見れば、そこには敏行が生前に犯した罪が一つも漏れずに書かれていました。確かに罪つくりな事ばかり掲載されていて、功徳になることは一つもありません。ですが、門に入る前にかけた四巻経の発願が過去帳の最後に記されていました。

「なるほど。ではあなたに帰って発願を遂げる機会を与えよう。間違いなくその発願を遂げて来なさい」と裁判人が裁定を下すと、二百人の軍隊はさっと姿を消しました。

「生き返った後、必ず発願を遂げなければいけない」と裁判人は再び言いました。

続く

関連記事:『 宇治拾遺物語』:写経のため、地獄に落ちた能書家 下

参考資料:

『 宇治拾遺物語』

(翻訳編集・唐玉)

関連記事
「フクロウとキリギリス」の物語で学ぶ、甘い言葉やお世辞が真の賞賛とは言えないという教訓。イソップ寓話の魅力とともに、道徳的な価値を感じてみましょう。
清明の季節は「肝」の働きが高まり不調も出やすくなります。今が旬の菜の花は、肝の熱を冷まし気の巡りを整える優れた食材。簡単に取り入れられる養生レシピとともに、春の五行養生をご紹介します。
年齢とともに増える抜け毛や白髪。実は日々の食事で改善の余地があります。髪に必要な7つの栄養素と、中医学が教える髪と内臓の深い関係について解説します。
長年うつ病に苦しんだ女性が、薬ではなく「精神修養」によって回復。絶望の中で見つけた“希望”が、人生を根底から変えた──その実例と、科学的裏付けとは。
中医学では、緑内障の原因を「怒りや憂うつ」「代謝機能の低下」「夜更かしによる精の消耗」など全身の気血の乱れとして捉え、漢方や鍼、体操で改善を図ります。