(Getty Images)

ポリティカル・コレクトネスの呪い

ポリティカル・コレクトネス(政治的に正しいことば使い、通称ポリコレ)― それはアイデンティティーを傷つけられたと主張し合う終わりのない闘争である。これを生き物に例えると、スピロヘータ(らせん状の細菌)みたいなもので、生き残るために寄生した宿主の肉体を徐々に侵していく。

ポリコレが最大限に繁殖している国家はスウェーデン。誰もきっぱりと真実を語ることができず、良し悪しの判断もできない。スウェーデン国教会を巻き込んだ昨年末のLGBT(性的少数派)論争がよい具体例である。

ポリコレの呪縛―スウェーデンの場合

2019年11月、スウェーデン・マルモーにある聖パウロ教会(ルター派)の祭壇に、LGBTをイメージする絵画が飾られた。画家は、レズビアンで多くのLGBT作品を手掛けるエリザベス・オールソン(Elisabeth Ohlson)氏である。

エリザベス・オールソン氏の作品「パラダイス」 (Photo by JOHAN NILSSON/TT News Agency/AFP via Getty Images)

エリザベス・オールソン氏の作品「パラダイス」

メディアは、「スウェーデンで唯一の祭壇用LGBT絵画が、マルモーの聖パウロ教会でお披露目」と誇らしげに報じた。この絵はある個人の家に飾られていたものだったが、マルモーの司祭たちが懇願し、持ち主から譲り受けたというのだ。聖パウロ教会も承認し、世論の受けもいいと目論んだようである。

同教会の聖職者ソフィア・ツンブロ(Sofia Tunebro)氏は虹色のストールをまとい、絵画は「多様性の包括」を表現していると絶賛した。民主的なところがルター派の伝統にマッチしているし、人類の性的指向(セクシュアリティ)に肯定的でオープンな表現を見れば、ルター自身も喜ぶだろうと述べた。

「やっと(このような)絵が教会に掲げられたことに、多くの人々が安堵していると思います」とツンブロ氏は語った。「私たちがいくら人間の価値は平等だと説教しても、人々が見て分かる具体的なイメージがなければなりません。誰を愛しても、どのように自分のアイデンティティーを認識しても、私たちは皆神の愛に包まれています」

絵に描かれたエデンの園には、さまざまな人種のゲイとレズビアンのカップルがいる。中心にはヘビに巻きつかれた性同一性障害(トランスジェンダー)の女性が描かれ、LGBTを象徴するようなイメージである。しかし、この女性のイメージが議論を呼ぶことになった。トランスジェンダーがヘビに巻かれているのは、トランスジェンダーに対する差別だという声が上がったのである。

2週間後、絵画は取り外された。教会側は、ゲイのイメージには「全く問題はない」とし、LGBT擁護の立場は変わらないが、「絵画には邪悪のシンボルであるヘビが描かれており、それはトランスジェンダーが邪悪、あるいは悪魔であると解釈される恐れがある」と説明した。

聖パウロ教会の司祭代理はスウェーデンの番組に語った。「教会の指導者たちと慎重に議論を重ねた結果、絵画を取り外す以外に方法はなかった」

これが、まるで細菌のように増殖していくポリコレの性質である。問題は決して終結せず、永遠にこじれていく。

この時点で、聖パウロ教会のトラブルは始まったばかりだった。作品を制作したオールソン氏が、聖パウロ教会に対して激しく抗議した。彼女によると、聖パウロ教会はトランスジェンダーのことを気遣うフリをしながら、極右からの批判をかわそうとしていると言うのだ(スウェーデンにおいて、この絵画に反対する人は全員「極右」の烙印を押される)。

現在、オールソン氏はトランスジェンダーとヘビのイメージを削除した新たなエデンの園の作品に取り組んでいる。教会に修正した絵画を送りつけて、彼らの「寛容度」をテストしたいというのだ。

スウェーデン国教会は、ルター派に属するヨーロッパ最大の宗教組織であり、過去10年間、ゲイカップルの結婚式を挙げてきた。この騒動の中で、絵画に対する反対意見を表明したのは、たった1人。ヨハン・ツーベル(Johan Tyrberg)司教で、「グノーシス派(霊的知識⦅グノーシス⦆を得ることによって物的・肉体的世界から救われるとする)の絵画はスウェーデン国教会に属していない」と述べた。

勇気を振り絞った言葉である。

(翻訳編集・郭丹丹)

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