焦点:出稼ぎタイ人は「小さな幽霊」、韓国で数百人が死亡

[バンコク/ソウル 22日 トムソンロイター財団] – 韓国でタイからの出稼ぎ労働者が何百人も死亡していたことが、トムソンロイター財団の取材で判明した。その多くは不法滞在だった。これを受けて、国連は事態の解明のための調査を呼び掛けている。

ソウルのタイ大使館に情報公開請求して入手したデータによると、2015年以降、少なくとも522人のタイ人が韓国で死亡していたが、このうち84%が、タイ語で「小さな幽霊」と呼ばれる不法な出稼ぎ労働者だった。死因は10人に4人が不明とされるが、残りが健康関連、事故、自殺だった。

新型コロナウイルス禍の労働環境への影響を巡り懸念が強まる中で、今年の出稼ぎ労働者の死亡数が12月半ばで既に122人と、過去のどの年よりも多くなっていることもデータで分かった。

また、タイ外務省への情報公開請求では、15年から18年にかけて韓国で死亡したタイ人は283人で、どこの外国における死亡者数よりも多かった。19年から20年までのデータは得られなかった。

国連の国際労働機関(ILO)の出稼ぎ労働の専門家、ニリム・バルアー氏は「気掛かり(なデータ)だ。注意と調査が必要だ」と指摘。「不法な出稼ぎ労働者は保護が最も手薄で、健康と安全の点で懸念がある」と述べた。

韓国にいるタイ人出稼ぎ労働者や、その後に帰国した人々、人権団体、タイ当局者らへの取材によると、韓国にいる何万人もの不法出稼ぎ労働者は過労状態にあり、医療にアクセスできない上、本国送還を恐れて搾取を通報しない傾向がある。

活動家らによると、両国政府とも出稼ぎ労働者の死亡についての統計を公表していない。このためコロナ禍で多くの外国人労働者がリスクにさらされたままになっているにもかかわらず、彼らの労働状況にほとんど注意が払われていない。待遇改善のための調査も実施されていない。

国連移住機関(IOM)は、トムソンロイター財団が明らかにしたデータについて「懸念すべきもの」であり、状況を注視しているとした。

韓国の雇用労働省や法務省、外務省などの関係省庁は、データについてコメントを拒んだ。バンコクの韓国大使館はコメント要請に反応していない。

タイ外務省のデータによると、国外で働いているタイ人は合法、不法含めて少なくとも46万人。行き先のトップは韓国で約18万5000人にのぼる。韓国では母国で働くよりもはるかに高い所得が得られる。

タイと韓国は、1981年から一定期間のビザ免除協定を結んでいる。労働専門家によると、多くのタイ人が職を求めて韓国に入ったのは2018年の平昌冬季五輪を控えた時期で、そのまま工場や農場の不法就労者として残った。

<きつい汚れ仕事>

ソウルのタイ大使館によると、韓国で働くタイ人18万5000人の約1割は、「雇用許可制度(EPS)」と呼ばれる専門の制度を通じて合法的に働いている。

残りが小さい幽霊、すなわち不法出稼ぎ労働者で、タイでブローカーに高額の手数料を払って外国での職を斡旋(あっせん)してもらった人々だ。手数料には渡航費用や滞在費用が含まれることもある。

こうした出稼ぎ労働者は、90日間と定められたビザ免除の滞在期間を過ぎると、不法滞在となる。しかし、出稼ぎ労働者によると、韓国での稼ぎは普通、最低でも月120万ウォン(1100ドル)で、タイの最低賃金の3倍以上とされる。

タイ外務省によると、在外大使館には全ての在外同胞人に対し、その法的立場にかかわらず気を配る義務がある。ただ、不法移民にアクセスするのは難しいとも説明した。

ソウルのタイ大使館は、現地の病院や警察からの報告に基づき、勤務中の死亡であれ在宅時の死亡であれ、出稼ぎ労働者の死亡データを集計している。大使館によると、遺体はすべて検死されるが、個別の結果は非公表という。

同大使館の当局者は「タイからの不法出稼ぎ労働者は就寝中に不慮の死を遂げることが多い。おそらく過労や、健康に問題を抱えているのに適切な医療処置を受けなかったことなどが原因だ」と説明。「こうした労働者はきつい汚れ仕事を引き受けているが、韓国の医療制度にはアクセスできない」と話した。

<わたしたちは小さな幽霊>

トムソンロイター財団は、韓国で働くタイ人不法労働者や、元不法労働者7人に話を聞いた。彼らが話したのは、最低賃金に満たない給与や、不衛生だったり危険だったりする労働環境での休みなしの勤務の実態だった。

32歳の女性ニドさん(仮名)は、チョンジュ(清州)市の簡易ホテルで清掃の仕事をしていたが、今年7月に熱を出して床に伏せった。

勤務シフトは1日15時間、休日は月にわずか1日と、韓国の労働法に違反する労働環境だった。熱で消耗し、ほぼ4カ月働くことができなかったという。

「あのときは、このまま寝入ったら二度と目が覚めないのではと不安に思った」と語る。今はマッサージ師として働くが、韓国で職に就くため、2016年にブローカーに10万バーツ(3330ドル)を払って以来、10番目の仕事だ。

ニドさんは病気で倒れた後、ソウルのタイ大使館に帰国支援を求めた。今は待機者リストに載っているというが、大使館のデータによると、同リストで韓国で待機しているのは現在1万人。

「結論はあらかじめ出ているみたい。わたしたちは小さい幽霊で、(タイ政府にとっても)違法にここに来るのを選んだのだから、我慢しろということよ」とニドさんは話す。

不法出稼ぎ労働者に無料で医療を提供する慈善団体もあるが、現在はコロナ禍でそのサービスにも支障が出ている。

<法の枠外>

タイ労働省によると、雇用許可制度を通じて韓国で働くタイ人労働者とその家族は、病気や死亡に際しては当局から金銭支援を受ける資格がある。しかし、同省当局者は、問題は大半の出稼ぎ労働者が不法滞在で、法の保護の外にあることだと話す。 

タイ政府は近年、啓蒙ビデオ作成や、たちの悪い人材採用ウェブサイトの取り締まりなど、海外での不法就労を防ぐ措置をいくつか導入した。

しかし、労働者の人権保護に取り組む活動家らは、それでは問題は解決しないと指摘する。タイ政府が、海外で国民が合法な状態で働きやすくする制度を整えるべきだとも訴える。

元出稼ぎ労働者のタイ人男性(51)はかつて、ブローカーの斡旋で入国したところ、最終的に大邱市の養豚場に送られた。休みは1日もなかった。3カ月働いても給与が支払われなかった時、男性は逃亡を決めた。

抜け出す前、寝ていた部屋の壁にタイ語で警告メッセージを残した。「タイの仲間達へ。ここに働きにやられたら、給料はもらえないと心得よ」──。

(Nanchanok Wongsamuth記者 Grace Moon記者)

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