ASEAN、主権と領土保全の共同宣言 南シナ海における中国の行動を念頭に
ベトナムを議長国としてASEAN国防相会議(ADMM)を開催した東南アジア諸国連合加盟諸国は2020年12月、団結して各国の主権と航行の自由を保護する姿勢を示した。南シナ海における中国公船の力を背景にした行動に、ノーを突きつけた。
2020年にベトナムが議長国を務めたASEAN加盟諸国の国防相等は、ASEAN諸国だけでなく、同時に開催された拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)に参加する中国などの「域外国」に対して「主権と領土保全を尊重する」ことを求める共同宣言を採択した。南シナ海における「紛争を平和的に解決」するためには、1982年の国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約/UNCLOS)を含む国際法を基礎とする必要があることにも言及している。
2016年、ハーグに所在する常設仲裁裁判所は国連海洋法条約を基礎として、中国が地図上に引いた南シナ海の「九段線」に基づき主張する領有権には法的根拠がないとの判決を下している。中国政府はこの領有権主張により、ASEAN加盟諸国の領土への侵入を正当化しようとしている。
アジア海洋透明性イニシアチブ(AMTI)の報告書によると、2016年から2019年にかけて中国海警局の船舶が89回にわたりマレーシア領海を侵害しているだけでなく、インドネシア領の大ナトゥナ島沖で約50隻の船舶が関与した2020年1月の領海侵害事件を含め、中国船舶は頻繁にインドネシア排他的経済水域(EEZ)内で違法漁業を操業し、2019年6月と2020年4月には中国海警局の船舶による衝突でフィリピン漁船とベトナム漁船が沈没する事件が発生している。また、ベトナムが自国の排他的経済水域で実施していた石油・ガス掘削事業に対する中国船舶の継続的な圧力工作により、ベトナムは外国の石油会社に約1000億円(約10億米ドル)の補償金を支払う必要があった。
ASEAN加盟国の首脳陣は「海上衝突回避」と「海上での交流」を管理するために「南シナ海における効果的かつ実質的な行動規範」の確立を提起している。
国防相会議では、「平和、安保、安定、安全、南シナ海における航行の自由と上空通過の自由を維持・促進」および「状況の複雑化や紛争の激化を招き、平和と安定性に影響を与える可能性のある行為や行動を自制して回避すること」への重要性が強調された。
宣言内容には、加盟諸国間の協力とつながりを強化することで、陸海空の全領域における「安保を導く環境」を促進することの必要性も含まれている。
シンガポールに所在する南洋理工大学(NTU)S・ラジャラトナム国際学大学院(RSIS)の客員研究員であるフレデリック・クリエム(Frederick Kliem)博士はFORUMに対して、「議長国としてベトナムは、南シナ海に対する加盟諸国の一般的な総意を導くことに成功した」とし、「現在、加盟諸国はこれ(中国の好戦的な行動)を全ASEAN加盟国に対する直接的な安全上の脅威として認識するようになった」と説明している。
(Indo-Pacific Defense Forum)