(Jonathan Bachman/Getty Images)
<オピニオン>

「自己検閲」がアメリカで進行中

多くのアメリカ人は大手企業による検閲を心配しているが、それが自己検閲を促していることに気づいているだろうか。

アカウントを1つ凍結したり、ビデオを1本削除したり、あるいは1冊の本を出版禁止にするだけで効果は十分だ。人々は敏感な政治論争を避けるようになり、自由に物を書かなくなり、最終的には禁止されていない議題についても発言を控えるようになる。

つまり、検閲する側は心理的なトリックを使って、最小限の措置で最大限の効果を生み出している。この「自己検閲の法則」は今に始まったことではなく、昔から全体主義体制の中で用いられてきた。

いくつかの例を紹介しよう。

曖昧なルール

世界最大の検閲機関といえば中国共産党である。中国政府は昔から意図的に曖昧な政策を発表し、国民の自己検閲を促してきた。今では法解釈の曖昧な「国家転覆罪」や「虚偽の噂を流した罪」を利用して言論の自由を封じている。

一方、現代のアメリカでも同様の事が起きている。

アマゾンは最近、「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」を含む書籍を禁止すると発表した。何をもって「ヘイトスピーチ」とするのか、明確な説明はない。アマゾンは書籍小売市場の80%以上を占めるため、出版社はアマゾンの意図を推測し、それに従わざるを得ない。

最近の例としては、出版界の大御所サイモン&シュスター社がジョシュ・ホーリー下院議員(共和党・ミズーリ州)の著作を出版停止にしたことが挙げられる。彼が大統領選の結果に疑問を呈したことを理由としている。

また、ユーチューブも選挙不正に関する動画の投稿を全面的に禁止した。これは明確な方針に見えるが、今後ユーチューバーたちは、選挙の公平性を疑問視することさえできなくなったのである。

無作為に標的を選ぶ

自己検閲を促すもう一つの方法は、標的を無作為に選ぶことである。中国共産党は政治運動を繰り返す度に、無作為に迫害対象を選んできた。迫害理由が明確ではない時、人々は中国共産党の「レッドライン」を踏まないように、自らの言動を検閲するのである。

アマゾンは最近、トランスジェンダーに否定的な本を一つ禁止した。同社は、その理由を明確にしない代わりに、「ヘイトスピーチ」に関する書籍ポリシーを密かに更新した。そうすることで、人々は自分で理由を見つけてこの本に対して「ヘイトスピーチ」のレッテルを貼ったのである。

政治的な都合でポリシーを曲げることもある。例えば、フェイスブックは人種、性別、性癖に基づいて人を口撃することを「ヘイトスピーチ」とみなしている。しかし、同社と契約しているコンテンツ・モデレーター(投稿内容の管理人)がリークした情報によると、2018年の一定期間、ストレートの白人男性に対する口撃は、「LGBTQへの関心を高める」限り、許可されていたという。

連座制によって自己検閲を強める

検閲対象者の関係者に責任を負わせることも、自己検閲を促す有効な方法だ。全体主義政権は長い間、反体制派の家族や友人、同僚、上司などを処罰し、国民を抑圧してきた。

連座制は今日のアメリカでも顕著になっている。メディアや大学、その他の機関が別の政治陣営の講演者を喜んで受け入れると、「ヘイト」に「プラットフォームを与えた」として批判される。検閲された人を少しでも擁護すれば、自分が次の標的になる。

また、スミス大学で学生支援コーディネーターを務めていたジョディ・ショー氏の例がある。彼女はキャンパス内の「制度的な人種差別の撤廃運動」に違和感を覚え、同僚たちも彼女の意見に共感していた。しかし、彼女がそれを公に発言した途端、同僚たちと連絡がつかなくなった。「私の関係者と特定されるのが怖くて、メールをくれない人もいます」とショー氏は話す。連座制により、検閲対象者はますます孤立し、その関係者は更に自己検閲を強めるのである。

アメリカの今後は

アメリカでの検閲は特殊である。アメリカに全体主義政権は存在しないが、現在はそれに向かっているように見える。アメリカ政府内外の関係者が、根源的に全体主義イデオロギーに同調しているからだ。

ラーニッド・ハンド判事は、1944年の講演「The Spirit of Liberty」(自由の精神)で次のように述べている。

「自由は人々の心の中にある。それが死んでしまったら、どんな憲法も、どんな法律も、どんな裁判所も、それを助けることはできない」

今、アメリカ人に必要なのは、同胞の心に自由を取り戻すことではないだろうか。

(文・Petr Svab/翻訳編集・郭丹丹)

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