河北大宇農牧集団の創業者である孫大午氏、自社の倉庫にて= 2019年9月24日(NOEL CELIS/AFP via Getty Images)

中国当局、著名企業家を逮捕 「企業家の良心」の異名も 政府批判が原因か

中国政府は、民間企業への取り締まりを強化している。公安当局の発表によると、昨年11月から拘束されていた、著名な企業家で河北大午農牧集団(以下、大午グループ)の創業者である孫大午氏(スン・ダウー、67)は21日、「騒動挑発罪」や「農地の不法占拠」など8つの容疑で正式に逮捕された。

同社の副監査役、会長、社長など7人の逮捕も同時に発表され、大午グループの経営陣のほぼ全員が逮捕された。中国当局は現在、29の工作チームを大午グループとその子会社に派遣し、会社の支配権を確保している。

大午グループは従業員9000人以上を擁し、20億人民元(約334億円)の固定資産と30億人民元(約500億円)以上の年間生産量を誇っており、中国の民間企業のトップ500にランクされている。

事件の発端:国営農場との軋轢

大午グループの弁護団は今月初め、中国版ツイッターの微博でこの事件の経緯を説明した。それによると、大午グループの所在地である郎五庄村政府は数年前、740ムー(約49ヘクタール)の土地を徐水国営農場に提供し耕作することに同意したが、国営農場がこれを機に村の2000ムー(約133ヘクタール)以上の土地を占有した。両者は何年も争いを続けており、今も解決に至っていない。その後、村は問題の土地を大午グループに貸した。

昨年8月、国営農場が紛争地にある大午グループの建物を強制的に取り壊したため、一部のグループ従業員と住民が農場長の車を止め、説明を求めた。地元の警察が介入し、多数の従業員が負傷した。同日午後、一部の従業員が自発的に公安局の前で警察の暴力に抗議したことが、孫氏をはじめとするグループ経営陣の逮捕に直結することになった。現在、当局が指摘している罪状のほとんどは、この紛争に関連したものである。

昨年11月11日、孫氏と大午グループの幹部ら30人が当局に連行された。孫夫妻とその息子夫婦を含む25人が今も拘束されたままになっている。

大午グループの法務責任者である楊斌(ヤン・ビン)氏は、微博の投稿で「弊社はいわゆる『黒悪勢力(暴力団・悪人勢力)』に関与しておらず、外国の敵対勢力も存在しない。もちろん、これらは逮捕状に指摘された疑いに過ぎない。捜査当局は、この事件の調査を急いでいるようだ」と述べた。

逮捕された本当の理由

孫大午氏は、権力に寄りかからず、市民や従業員のために事業を営んできたことで広く知られており、「企業家の良心」と呼ばれている。

2003年、孫氏は自社サイトに「小康社会(ややゆとりのある社会)の建設とその困難」「李慎之氏への哀悼」「2人の民間実業家が語る中国の現状と歴史」の3つの記事を掲載したことで、当局から警告を受けた。警察当局は、これらの記事が「国家機関のイメージを著しく損ねた」とし、同社に6カ月間の業務停止と1.5万元(約25万円)の罰金を科した。

孫氏は昨年10月の投稿で中国社会の闇を描いた。「社会の闇とは何だったのか。晴れた日なのに真実が見えない。賑やかな時なのに異なる声が聞こえない。権力と影響力を持つ者は暴れまわる。正義を求める者は一歩も動けない。昼間は生きた幽霊如き、夜は死んだ人間如く」

2015年、孫氏は人権派弁護士を公に支援する記事を書き、当局の不満を買った。

23日付の米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、孫氏をはじめとする大午グループの幹部が逮捕されたのは、表向きは国営農場との土地争いが原因とされているが、事件に詳しい関係者は、孫氏が当局を批判していたことが本当の理由だとみているという。

ネット上では、「人に罪を着せようとすればその口実は幾らでもある」「(反対派の弾圧によく使われている)『国政をあげつらう罪』と『国家政権転覆罪』が最もふさわしい罪だろう」などの書き込みが寄せられている。

1985年に設立した大午グループは、1000羽の鶏と50頭の豚を飼育する農畜産物の会社としてスタートした。この40年の間に、グループは徐々に生産、教育、医療、レジャー、観光などの産業を中心に大きく発展を遂げ、代表的な大手企業へと成長した。

(翻訳編集・王君宜)

関連記事
湖南省株洲市の湘江で、ウイルスサンプル収集用試験管が大量に発見され、住民たちは感染リスクに怯えています。当局は「未使用で損傷はなく、ウイルスは検出されなかった」と発表しましたが、専門家や市民の間で疑問の声が広がっています。試験管の正体や流出の経緯について調査が進む中、不安は収まりません。病院も研究所を信用できないのは間違いない。中国ではコロナが収束していないというのは、こういうことなのか?
米司法省は最近、IR事業をめぐり日本の政府関係者に賄賂を渡すよう指示して、中国企業のCEOを海外腐敗行為防止法違反の容疑で起訴した。
ニセモノ摘発も命がけ、道徳低下した中国社会。中国福建省の展示会で、偽商品の摘発を目的とするインフルエンサーが暴行を受ける事件が発生しました。「福建鉄鉄」のカメラマンが問題商品を通報したことがきっかけで、出品者らから集団暴行を受けたとされています。この事件は、中国SNSやメディアで大きな注目を集めており、現在、市場管理局と公安当局が調査を進めています。偽商品撲滅の活動が招いた事件の経緯とその背景に迫ります。
19日、中国江蘇省連雲港市にある国有企業「中国化学工程第十四建设有限公司」の正門前で、ある女性が滞納された給料の支払いを求めて会社管理者の足に抱きつき泣き叫ぶ姿が撮影されました。この動画はSNSを通じて拡散され、多くの人々に衝撃を与えています。女性の訴えに耳を貸さない企業の対応と、中国社会で頻発する同様の問題に、ネット上では悲しみと怒りの声が相次いでいます。「惨め過ぎる」労働者の姿。官製メディアが宣伝する「盛世(繁栄)」中国のリアル。経営者が人間なのか? 人間であれば、会社をつぶす決意をして、会社財産を売って、給料を支払うはずだが。
湖北省武漢市で、配達食注文に対するクレームが原因で、配達員がナイフを持って客の家に押し入ろうとする衝撃的な事件が発生した。監視カメラには、ドアを内側から押さえる家主と、外でナイフを振り上げながら脅す配達員の姿が記録されている。この事件をめぐり、SNSでは中国社会のストレスや労働環境への懸念が噴出。「極限状態にある人々の行動は予測不能」といった声も広がっている。 至るところに「火薬庫」の中国、言動を慎まないと、いつどこで殺されるかわからない。