【党文化の解体】第3章(29)

5.多種の文芸形式を利用し、党文化を注入する

 2)演劇、歌舞、大衆演芸など多種な文芸形式を利用し、党文化を注入する

 (6)中共の文芸作品に浸透する強烈な激情と闘争性

 孔子はかつて、「鄭の声は淫らである」と言ったが、その意味は、鄭という国の音楽は人間の感情とその趣で一杯なだけでなく、一種の誇張した虚偽の芸術であり、人間の道徳に悪影響を及ぼしているということである。

 中国の古人は、社会道徳の風潮や人心に作用を及ぼすものとして芸術を重視し、理性をもって情欲を節制し、調和のとれた人生を補助するよう芸術を用いた。

 中共による理論的宣伝や文芸作品には、強烈な激情と戦闘性が浸透している。様板劇の原則は、「三突出」であり、描かれる人物は、「高(崇高で)・大(偉大な)・全(完璧な)」でなければならない。革命歌曲の風格は「高(音が高く)、快(リズムが早く)、響(音量が大きく)」でなければならない。これでも足りなければ、歌詞に「豪胆に」「激高して」「意欲に満ち溢れ」などの気迫を示す言葉を増し加えるのである。

 度数の高い酒を常用する人が茶の奥深い味わいを解せないように、あるいは常にロック・ミュージックを聴く人が琴曲の優雅さを観賞できないように、中共の芸術に慣れた人は、却って芸術に対する正常な味わいができなくなっており、中共芸術に浸透している強烈な激情と戦闘性が人類芸術の普遍的な状態であると思っているが、実はそれこそが人間の魔性の体現であると知らないのである。

 他の例では、色彩の運用があげられる。赤は血の色である。伝統的な芸術や生活の中では、赤色は単なる装飾用であり、大々的には使用されない色である。なぜなら、他の色が目立たなくなるからだ。

 しかし、中共の舞台芸術においては、赤の服装、赤の背景、赤旗、赤提灯、赤の道具、舞台全体が真っ赤になる。実際、中共は人間の魔性を誘導して発奮させ、この種の魔性的状態に向かわせようとしている。このような非理性的な状態は、中共が存在できる社会の心理的な条件である。

 中共は現在「継続革命」という理論を言わなくなったが、中共の本質は闘争の中からエネルギーを吸い上げ、革命を固定化した状態にし、大衆運動を日常茶飯事にし、無茶を日常生活とし、一旦危機に遭遇すると、まず初めに敵を作り上げることを着想し、再び人民を煽動しこの仮想の敵と戦わせるのである。

 もし中国人が偏らず理性的に何をすべきで何をすべきでないかを決めることができれば、盲目的に中共に追随する人はいなくなり、中共は自分の相撲がとれなくなる。こうして見ると、頭に血を昇らせたり、激情を高めたりするのは、党文芸の重要な機能の一つである。

 以上、簡単ではあるが、中共が多種多様な文芸形式を利用して党文化を注入した問題に言及し分析した。読者自らが中共芸術を反芻してみれば、自らその大量の例を挙げることができるだろう。

 結語

 上述のように、中共による党文化の注入には、強制性、制度性、系統性、偽善性などの特徴が具わっている。ここでは、中共の注入手段における三つの主要な特徴を再度分析してみよう。

 第一に党文化は、中共が総体上で掌握している自己調整システムである。そのため、中共の注入手段も自己を調整するという特徴を具えている。中共が政権を握り、きわめて少ない初期的条件を設定しさえすれば、党文化の宣伝品は順を追って自動的に生まれてくるのだ。

 毛沢東は1964年に、次のようなことを言った。「芝居の役者、詩人、文学者、劇作家たちをみんな都市から追出せ、おしなべて追出せ……。下放(※)しなければ、良いものは出来上がらないから、服従しないものには食わせるな。地方の農村へ行かせてから食わせるようにしろ」

 中共の文芸理論書は所謂「万巻の書」で、出版量と著作件数がきわめて多いが、「言うことをきかない奴には飯を食わせるな」という、毛のこの一言ほど透徹しているものはない。

 中共は生産し生活するための一切の資材を掌握し、中国人民の生殺与奪の権利を掌握しているため、すべての人が頭を垂れてその命令に従わなければならない。

 知識人と芸術家たちは、例外なく文聯(文化芸術団体連合会)、作家協会、演劇家協会、民間芸術家協会、美術家協会、音楽家協会などに組み込まれ、組織の管理下にあって、頭を下げざるを得ない。

 したがって、「党」は自ら党文化を作る必要がなく、ただ「誰々を支持する、誰々に反対する」と言うだけで、党文化の宣伝品が次々と作られる。

 同様に、国内外の情勢が変化するたび、中共はその政策を調整せざるを得なくなるのだが、宣伝部門に対していくつか簡単な指令を下すだけで、宣伝部門は「創造的に」長官の意図を実現させることができる。

 大学のメディア学院、新聞学院、芸術学院などと言ったところでは、いっそう大量に「社会主義新聞学」「マルクス主義の世論学」「中国の特色ある文芸学」等々を作り上げ、中共宣伝部のために支持と弁護を行っている。

 第二に、中共の党文化注入は暴力に頼り、利益を餌にして誘導する。服従した人に対しては、中共はすぐに少しばかりの恩恵で籠絡もしたりするが、比較的独立した思考や「党」との一致を頑なに固辞する人に対しては、中共の政策は「残酷闘争、無情攻撃」である。

 中共の統制下では、人々は常に「無産階級の鉄拳」という巨大な脅威を感受している。そのため、中共の宣伝にぴったり一致しない情報を聞いて信じたら、巨大な心理的圧力に耐えなければならない。

 逆に真相を一旦知った人は、必ずや何かをやって現状を変えようとするが、しかし往々にして、それほど大きな勇気もないため、このような心理的状況は人々にとって非常に苦痛なものである。

 中共が恩恵と脅威の両方を施すような状況下では、人々は自己を保全し心理的なバランスをとるため、真相の前で尻込みせざるを得なくなり、主動的に中共の虚偽の罠の中で自らを閉鎖してしまう。

 従って、多くの場合は、人々は中共の嘘偽りを見破ることができないのではなく、真相を知る機会がないというのでもなく、真相を受け止める勇気がないのである。

 むしろ中共の嘘偽りを信じ、中共の欺瞞で自己の良心を偽り、少しばかりの憐憫の安全と良心の虚偽的な平穏とに取り換えているのである。

 第三に、党文化は一種の寄生文化である。そのため、中共の注入手段は民族文化の表面形式を具えている。党文化が如何に民族文化に寄生し、欺瞞性を増し、宣伝効果を増強してきたかは、すでに前文で議論してきた通りである。

 寄生文化の別の効果は、中共の罪悪が暴露されるにつれ、中共が都合良くこれら罪悪の責任を全部伝統文化の上に置けたことである。たとえば、所謂「封建的な害毒」を一掃することを文化大革命の使命とした。

 これはまるで張三が李四を殺し、その後に李四の服に着替えて悪事をし、その結果人々は悪事をしたのが李四であると錯誤し、李四の墓を掘り返してその屍を打ち、却って本当の悪人はゆうゆうと法の網を逃れているようなものだ。

 残念なことに、中共の党文化注入という巨大行事は十分に成功したと認めざるを得ない。なぜならば、第一に、中共の洗脳は暴力的な手段を盾としていることだ。党の所謂思想的改造は、単なる思想的な改造であるばかりでなく、多くの場合は人の肉体をも改造する(批判し闘争する、労働改造、刑罰、即殺害)。

 第二に、中共はすべての社会的資源を独占しており、中共の統制下で人に抜きんでようと思ったり成功しようと思えば、中共に対して頭を下げてその命を聴かなくてはならない。そのため、中国のあらゆる業種における優秀な人材の大多数は中共の網によって捕えられ、その統治のために服務させられている。

 第三に、中共は数十年にわたり、一個の閉鎖的な環境を作り上げ(現在は半ば閉鎖的)、人々は完全な外部情報を獲得することが不可能になった。

 第四に、中共の思想政治工作は活字上にとどまらず、すべての人を「革命的な大溶鉱炉」へ押し込み、頻繁な政治的運動をもって彼らの骨肉に刻みつけその印象を残した。

 第五に、中共はマルクス・レーニン・毛沢東という一連のシステムで現実社会を作り上げ、それをもって逆方向からその理論の正しさを際立たせた。

 たとえば闘争の観念はまさにここ数十年の絶え間ない残酷な闘争によって作り上げられ、闘争が中国庶民の生活の現実となり、そうして闘争の哲学もまた正しいものであるかのようになってしまった。

 人を人としてたらしめているのは、人の道徳水準であり、行動規範であり、思想感情である。共産党は国家全体のあらゆる資源を奪い、あらゆる計を用いて人の先天的な純真善良な気持ちを死に至らしめ、変異した邪悪な思想的感情を注入した。

 もし個人的な思想を一つの瓶に喩えると、その瓶の性質はその内容によって決まる。蜂蜜を入れれば蜂蜜の瓶であり、毒薬を入れれば毒薬の瓶となる。

 「郷里は離れ難い」とよく言われるが、人が長期にわたって一つの環境の中で生活すると、その生活環境に対して一種の思い慕う気持ちが生まれるものである。

 同じように、長期に渡り党文化にどっぷりと浸かった人々は、この種の文化を一種の精神的な拠り所としたり、感情的な拠り所としたりするようになる。

 この種の文化の虚偽性や邪悪な要素を指摘して、それを取り除こうとすると、何か落ち込んで自失となる人がいるものだが、党文化は中共が受益して生存するための人文環境である。

(※)下放…文化大革命中、都市部の知識人を強制的に地方の農村に行かせ、肉体労働を通して思想的な改造を行った中共の思想政策。

 (第3章完)

 

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