(Photo credit should read ANDREAS GEBERT/DPA/AFP via Getty Images)

チベットの光 (65) 空中飛行

師父は手紙の中で、いかに障碍を転じて益とするか、いかに好ましくない状況を転じて好ましいものとするか、そして功徳を増す口訣を書いていた。師父は手紙の中で、現在は品質の良い食べ物を口にするべきだとミラレパに再三注意していた。

 ミラレパはこれまで修行に不断の努力を重ね、身体的な要素を脈内に集結させてきたが、食料の品質があまりにも落ちていたため、脈内に集結されたこれらのものを溶かすことができなかったのだ。

 ミラレパは読み終わったのち、ジェサイが持ってきた食物と酒をとり、師父の手紙が示している通りに修行を続けた。このようにして、彼はまず身体の小さな脈の結びを通じさせ、これに続いてへその間を通る大脈の結びを通じさせた。ここに到って、彼は打座の最中に非凡な境地に到達し、無念、無物、透明、清浄な感覚を受け、それは一種言語では表しがたいものであった。彼は、堅固で広大、深遠にして奥深い功徳を証明した。

 修煉は、特異功能や神通を顕すだけでなく、内心が不可思議な境界に到達する。ミラレパにも幾年の修行によって、それがだんだんとあらわれてきたのであった。しかし、その間に経験した苦しみ、飢えと寒さ、嘲笑などの苦しみは小事で、最も苦しいのは孤独な寂寞であり、余人には理解できないものであった。これらのものは、ミラレパが定に入って凡俗の境地を超えるに従い、彼を苦しめるものではなくなり、意にはかることもなく、それらのものが存在しないかのように感じるようになった。それは、真の大自在であった。

 このようにして、ミラレパは師父の手紙が示すとおりに弛まぬ修行を重ね、身体の各所の脈の結びが通るようになった。そのとき、彼の功力はますます強く高くなり、エネルギーもますます強くなり、その周天(※1)の運行もますます強くなった。それからしばらくして、彼は各種の神通を顕すようになった。彼は真っ昼間から、マルバ師父のように各種の形に変化し、打座の時には宙に浮くようになった。夜ともなると、彼は夢の中で空中を浮遊し、世界の頂に行こうと思えば、そこに飛んで行った。山川を粉砕しようと思えば、山川を粉砕し、形象は千変万化して、火の中でも水の中でも自由に出たり入ったりすることができた。彼は佛国に行って説法を聴こうと思えば、聴くことができ、また衆生のために法を説いた。

 これらは精進苦行の成果ではあったが、仏になるというその最終目標にはまだ達していなかった。それからまた彼が不断の努力を重ねた結果、昼間に空中を飛行できるようになった。もう夢の中で元神が体を離れて宙を飛ぶ必要もなくなった。こうして、彼は高山の山頂に行って、そこから下界を俯瞰して見た。この修行の境地は前代未聞にして、言語で形容しがたく、凡夫には想像しがたいものであった。

 彼が飛行してフマパイの洞窟に帰る道すがら、山麓の村で父子が畑を耕していた。父親は鍬を振るい、子供は牛を追って畑を耕していた。突然、影がさしたので、子供は何か大きな鳥でも来たのかと思い、空を望み大きく目を見開いて叫んだ。

 「お父ちゃん!見てごらん、お空に人が飛んでいるよ!」彼はぼうっと見上げると、しばし畑を耕すことを忘れ、目をぱちぱちとさせながら、空中のミラレパを見つめた。

 (※1)周天…身体の中を巡る気の流れ。大道法門の言葉で、道家では任脈督脈を通す小周天、チベット密教では中脈を通すことを最初の目的とする。

(続く)

(翻訳編集・武蔵)

関連記事
ベジタリアン生活で悪化した健康が、肉食で改善された女性の実体験。食物繊維の偏見や腸内フローラの影響を考察し、食生活の見直しを提案します。
ベジタリアン生活で悪化した健康が、肉食で改善された女性の実体験。食物繊維の偏見や腸内フローラの影響を考察し、食生活の見直しを提案します。
一般的な二日酔いとは異なり、この古くから知られるワインにまつわる頭痛の原因は、長い間、科学者やワイン愛好家たちにとって謎のままでした。 しかし、最近の研究で、その原因が意外なところにあることが明らかになりました。それは「ケルセチン」と呼ばれる抗酸化物質です。研究者たちは、この豊富な植物色素がアルコールと結びつくことで、敏感な人に痛みを引き起こす一連の反応が始まると考えています。
豆乳や牛乳でカルシウム補給をしている方も多いかと思いますが、実は豆花(ドウホワ)がより効果的です。豆花には、石膏を使用した伝統的なものがおすすめで、カルシウムが豊富に含まれています。同じ豆乳を原料にしていても、凝固剤の違いでカルシウムの含有量が大きく異なるため、伝統製法を選ぶことがポイントです。カルシウム摂取には、石膏を使用した豆花や豆腐が最適です。
秋の夜空に現れる特別な満月「ハーベストムーン」。2024年9月17日、その大きく輝く月が、スーパームーンとしてさらに壮大に。古き良き伝統と現代の天文学が交錯する、見逃せない夜の物語をお届けします。