(Mescon/Creative Commons)
≪医山夜話≫ (2) 

医者―命に関わる職業

唐の皇帝・李世民が全国に医学校を設置し、そこで医学を学ぶ学生は「医者」と呼ばれるようになった。後世になって、いわゆる「医者」の意味は「医学を学ぶ学生」に限らず、「医学を業とする人」という意味も含まれるようになり、今日に至っている。

 中国の古典によると、「医者」は「病気を治して患者を助ける人」であり、医学を業とするすべての人を「医者」と呼び、等級や地位の差などはなかった。

 「漢方薬の聖人」と称される唐の医学者・孫思邈(そんしばく)は、「精」と「誠」を持って患者に接するべきだと論じた。つまり、「立派な医者になるには、精錬された医術と誠実な心が不可欠だ」と考えていたのである。明の医学家・徐春甫(じょしゅんほ)も、「医術に優れない医者は、誤って患者の命を奪うこともある」と言った。「軽い病気で命を落とすこともあれば、重病なのに治愈されることもある。その違いは、すべて医者にある」と述べたように、技術の劣る医者が患者を死なせることもあり、「精・誠」を持つ医者が重病患者の命を救うこともある。

 古代の人は、優れた医術を持つには名利心を取り除くことが大事であり、高い報酬を求め、利益ばかりを追求する医者は、患者の安否を気にかけることはできないと考えていた。

 明の時代、万全(まんぜん)という有名な小児科の医者がいた。ある日、彼と仲が悪かった胡元渓の4歳の息子が咳をして血を吐き、多くの名医を訪ねまわったが治らなかった。元渓は仕方なく万全を訪れると、万全は「患者を治して生かすことを心にし、宿怨を忘れる」と心に決め、診察をした。そして、万全は「私は1ヶ月でこの病気を治せる」と述べ、処方箋を書いた。元渓の息子は、5回薬を飲んだ後に咳の七割が止まり、口と鼻からの出血も止まった。

 しかし、元渓は息子の回復があまりに遅いと思い、万全は自分に恨みがあって全力を尽くしていないのではないかと疑心暗鬼になった。そこで、元渓は万紹という医者に頼んでみた。これを聞いた万全は、「手を放してもいいが、元渓にはこの息子しかいない。私以外の人は完治できないだろう。私がいったん帰ったら、彼は二度と私に頼むことをしない。この息子が死んだら、私が殺したわけではないが、私にも責任がある。万紹の処方を見て、正しければ私は去り、間違いがあれば私がアドバイスをしよう。万紹がアドバイスを聞かなかったら、私は去ろう」と考えた。

 万紹が出した処方を見た万全は、使っている薬は病状に相応しくないと考えた。万全は万紹に、「この子は肺気がすでに弱くなっている。気を散らせる防風と百部(生薬名)の使用は、間違っている」と言った。万紹は、「防風、百部は咳を止める良薬だ」と反論した。元渓もそばで「これは万紹の秘方だ」と言った。万全は非常に厳粛に「私は、ただこの子の命を心配しているだけだ。貴方に嫉妬しているわけではない」と言った。

 万全はその子を心配し、去る間際に彼の頭をなでながら、「まず試しに少し飲みましょう。やむを得ないですね」と述べてその場を去った。

 万全が心配した通り、その子は万紹の薬を少し飲んだだけでまた咳が再発し、息が切れて喀血した。子供は、「万全先生の薬を飲んで良くなったのに、お父様はこの人に治療してもらって、私を毒殺したいのですか」と泣きながら訴えた。

 子供の病状は急転し、危篤状態となった。元渓の妻も泣いて夫に訴えた。元渓は後悔し、頭を下げてもう一度、万全に治療を頼んだ。万全は全く気にする風でもなく、「最初に私の忠告を聞いていたら、今のように後悔しなかったはず。私に頼む以上、疑う気持ちを持たないでほしい。1ヶ月で必ず治癒させる」と言った。その後、子供はたったの17日間で完治したという。

 

(翻訳編集・陳櫻華)

 

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