ワクチン接種率で通貨に明暗、目先は円安圧力継続か

浜田寛子

[東京 14日 ロイター] – 新型コロナウイルスワクチンの接種率が、各国通貨の明暗を分けている。早期の経済正常化に期待が高まる中、金融緩和の出口が意識され金利が上昇、対ドルで通貨が上昇する傾向となっている。その半面、ワクチン接種が遅れ金融政策の引き締めに程遠い日本の円に対しては、クロス円でも円安圧力が続くとの見方が多い。

<経済正常化に進む英国>

ワクチン普及が追い風となっているのが英ポンドだ。対ドルで年初来3%近く、昨年3月の安値からは約20%上昇している。

ロイターがまとめたデータによると、英国では14日現在、人口の53.4%が既に少なくとも1回目のワクチン接種を終え、27.6%は2回目も済ませた。

英国は主要7カ国(G7)中ではワクチン接種率はトップで、経済正常化への期待も高い。ジョンソン英首相は10日、首都ロンドンがあるイングランドでコロナ感染拡大抑制策の緩和を次の段階に進める方針を発表。飲食店やパブなどの屋内営業を17日に解禁するとした。

イングランド銀行(英中央銀行)は今月6日、週間の国債買い入れ規模の減額を決定した。政策金利を過去最低水準の0.1%に据え置き資産買い入れ枠も維持したことで、金融引き締めには当たらないとしているが、市場は「出口」を意識。英10年債金利は約2年ぶりの水準に達している。

<いち早く「出口」に向かうカナダ>

「米CPIショック」に底堅さをみせたのがカナダドルだ。4月の米消費者物価指数(CPI、季節調整済み)は総合指数が前年比4.2%上昇と、約12年半ぶりの大幅な伸びを記録。金融市場に動揺が広がる中、高リスクとされる資源国通貨では豪ドルやニュージーランドドルで対米ドルの売りが先行したが、カナダドルはほぼ横ばい圏での推移となった。

ソニーフィナンシャルHD・金市場調査部のアナリスト、森本淳太郎氏は、先進国の中でも先行してテーパリング(量的緩和の段階的縮小)に向かうカナダは金融政策への注目度が高いとし、「いち早く金融政策引き締めに向かうとの思惑から、加ドルが買われているのではないか」との見方を示す。

カナダ銀行(中央銀行)は4月の金融政策決定会合で、国債の購入を減額することを決定。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に対応する金融緩和策を、ゆっくりながらも解除を開始した最初の中銀となった。

加ドルの強さの背景には、「出口」がみえてきたことに加え、英国同様、ワクチン接種率の高さもあるとみられる。ロイターのデータによると、14日現在、同国の人口の41.5%が少なくとも1回目のワクチン接種を終え、3.5%は2回目を済ませた。

カナダの10年国債金利は3月以降、横ばい圏での動きだが、レベルとしてはコロナ禍前の2020年1月以来の高水準を維持している。

<円は最弱通貨の一つ>

円は対ドルで年初来約6%下落。クロス円でも円安が進んでおり、対英ポンドで約3年3カ月ぶり、対カナダドルで約3年4カ月ぶりの円安水準と、最も弱い主要通貨の一つとなっている。

その要因は、ワクチン接種の遅れによる経済正常化期待の低さだ。ロイターがまとめたデータによると日本では、1回目の接種を終えた人の割合は3%、2回目は1.1%にとどまっており、経済界からもワクチン普及の遅れを危惧(きぐ)する声が聞かれる。

楽天グループの三木谷浩史会長は13日の会見で、日本のワクチン普及の現状について「かなりの危機感を覚えている」と発言。特に手続きなどが極めて煩雑で複雑な点に関しては「若干フラストレーションがたまっている」と述べ、今後政府に協力する意向も示した。

政府は7日、東京都などに対する緊急事態宣言を延長。地方で変異株を含む感染が広がる中、14日には北海道・岡山県・広島県を新たに緊急事態宣言の対象地域に追加した。

日銀は国債買い入れを過去1年では若干増やしたが、2016年のイールドカーブ・コントロール(YCC)導入以降では減速させている。市場では「ステルステーパリング」ではないかとの指摘もあるが、景気や物価の回復の遅れから金融緩和の「出口」は遠いとみられており、10年債金利はゼロ%近傍での推移が続いている。

国際通貨研究所の上席研究員・橋本将司氏は、世界の景気サイクルと円は逆相関の関係にあり、コロナ禍からの回復局面である今は「円安になりやすい地合い」と分析。世界的にワクチンが普及して順調に景気回復に向かえば、「クロス円を中心に円安方向になるのではないか」との見方を示している。

(浜田寛子 取材協力:基太村真司 編集:伊賀大記、田中志保)

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