米ハリウッド映画業界情報雑誌「ハリウッド・リポーター」電子版は21日、同業界と中国当局の非互恵的な関係を批判した(pixabay)

米映画業界誌、中国との関係を反省 「熱狂的からデカップリングへ」

米映画・エンターテインメント情報誌「ハリウッド・リポーター(The Hollywood Reporter)」電子版は21日、米映画界が中国市場に進出するため、中国当局の顔色を伺ってきたことについて反省する記事を掲載した。関係者は、記事は米ハリウッド映画業界にある中国当局を批判してはいけないとのタブーを打破したと認識を示した。

同記事は、「熱狂的な取引関係からデカップリングへ:中国とハリウッドのロマンスが終わろうとしている」とタイトルが付けられた。記事はこのほど、映画『ノマドランド』でアカデミー賞監督賞を受賞した北京生まれのクロエ・ジャオ監督に言及した。アジア出身の女性として初となる歴史的な受賞となった。

ジャオ監督は2013年、米メディアのインタビューで、「中国は嘘ばかり」などと語り、中国当局を糾弾した。このため、中国国内では、ジャオ監督本人に関する情報や、同氏のアカデミー賞受賞作品『ノマドランド』について、情報規制やネット検閲が行われた。

ジャオ監督は2019年、ウォルト・ディズニー・スタジオ傘下のマーベル・スタジオが企画したスーパーヒーロー映画、『エターナルズ(Eternals)』のメガホンをとった。記事によると、ウォルト・ディズニー・スタジオは現在、総投資2億ドルの『エターナルズ』が中国で上映できるかを危惧している。中国国営中央テレビ(CCTV)第6チャンネルがこのほど、米国映画の上映予定情報を放送した際、『エターナルズ』とマーベル・スタジオの別の作品、『シャン・チーとテン・リングスの伝説(Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings)』について言及しなかった。

失敗

「ハリウッド・リポーター」誌は記事の中で、映画プロデューサーであるジェフ・ロビノフ(Jeff Robinov)氏の話を引用した。ロビノフ氏は「数十年間、(中国当局は)中国経済のあらゆる分野に参入しようとする欧米企業との間で、協力を約束した。しかし、投資家にとって、このような約束は一度も果たされたことがない」と述べた。

ロビノフ氏は2014年、スタジオ8(studio 8)を設立した。設立当時、中国複合企業、復星国際(Fosun)は10億ドルを出資するとロビノフ氏に申し出た。しかし、その後の米中貿易戦で、復星国際は支払いを延期し続けた。同氏によると、復星国際は約束を破ったが、スタジオ8の一部の株式がすでに復星国際に渡ってしまった。

記事は、米映画会社は中国市場への進出が失敗に終わり、収益を上げていない現状を指摘した。

2012年、アニメーション制作会社、ドリームワークス・アニメーション創業者であるジェフリー・カッツェンバーグ(Jeffrey Katzenberg)氏は、中国国有企業とともにアニメーション制作会社、「オリエンタル・ドリームワークス」を立ち上げた。しかし、現在、この米中合弁会社は完全に中国企業となった。会社名も「パール・スタジオ」に変えられた。

16年、映画製作大手パラマウント・ピクチャーズ・コーポレーション(Paramount Pictures Corporation)の前社長、アダム・グッドマン(Adam Goodman)氏は中国の持ち株会社、楽視グループに入社した。グッドマン氏は、楽視の米国映画製作法人、楽視娯楽公司(Le Vision Entertainment)の社長に就任した。しかし、親会社から資金提供がなかったため、その後、楽視娯楽公司は倒産した。

自己検閲

「ハリウッド・リポーター」誌は、中国当局の経済的・政治的影響力の拡大で、米映画制作会社はここ十数年間、中国当局を批判し、中国社会の現状を反映する作品を作ったことがないと批判した。「最も歯に衣きせぬ有名人でも、香港市民の民主化運動に対する中国当局の鎮圧や、新疆ウイグル自治区でウイグル人住民に対する人権侵害について、何も述べていない」という。

「映画製作会社は、中国当局のレッドラインを越えて踏み込んだ発言をすれば、失うもののほうがはるかに大きいと認識している。(中略)19年10月、ヒューストン・ロケッツの元ゼネラル・マネージャーであるダリル・モーリー氏が、香港の民主化運動を支持するとツイートしただけで、中国当局はNBAの試合放送を1年間停止した」

一つだけ例外があった。米映画監督のジャド・アパトー氏は昨年9月、米ニュース専門放送局MSNBCの取材でこう述べた。「中国とのビジネスが中国をより自由にしたというより、中国は金で私たちを黙らせた」

いっぽう、同誌は、中国当局は映画製作という欧米各社の得意分野において、欧米各社を追い越し、支配権を握ろうとしているとの見方を示した。中国当局は、経験豊富な外国映画製作会社を誘致し、合弁会社を設立するために「国内市場を開放した」。しかし、その最終的な目的は、中国側に制作技術や知識を移転させることだ。

「アメリカ映画には、中国共産党が望まない文化的な影響力を持つ。その一方で、中国側はハリウッド映画の消費者を惹きつける力を認識しているため、その力を利用し、国内のインフラ建設を促進する狙いがある」

中国国内にある映画スクリーンの数は10年の6000余りから、20年末の7万5000に拡大した。

中国企業による米映画製作会社の投資も近年増えている。

中国の博納影業集団(ボナ・フィルム・グループ)は15年、米テレビ映画製作大手の21世紀フォックスに2億3500万ドルを出資した。

中国のマスメディア会社、完美世界股份有限公司(パーフェクト・ワールド)は16年と17年、米ユニバーサル・スタジオの映画製作に総額5億ドルを投資した。

中国電子商取引最大手アリババ集団は16年、米著名映画監督、スティーブン・スピルバーグ氏らが設立した映画製作会社「アンブリン・パートナーズ」の一部の株式を取得した。

米映画プロデューサーのクリス・フェントン(Chris Fenton)氏は、米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対して、「ハリウッド・リポーター」誌の同記事の執筆者に多くの資料を提供したと明した。

フェントン氏によると、米映画業界の情報誌は長い間、業界と中国当局の非互恵的な協力関係について声を上げることができなかった。同氏は「今、状況が変わったと言える。米国のエンターテインメント業界と中国の関わり方が建設的に変わることを望む」とした。

フェントン氏は昨年、自身が執筆した回顧録、『悪竜の餌やり:ハリウッド、NBA、米実業界が抱える1兆ドル規模のジレンマの正体(Feeding the Dragon: Inside the Trillion Dollar Dilemma Facing Hollywood, the NBA, & American Business)』を出版した。同本は、中国当局によるハリウッド支配の実態を暴いた。

(翻訳編集・張哲)

関連記事
中国には、「一日の始まりに必要な7つのものがあり、それは、薪、米、油、塩、たれ、酢、お茶である」ということわざがあります。お茶は中国の文化の一部としてなくてはならないもので、客人にふるまったり、食後にたしなんだり、その長い歴史の中で育まれてきました。
日中戦争の勝利は中華民国の歴史的功績であるが、これは連合国の支援を受けた辛勝であった。中華民国は単独で日本に勝利したのではなく、第二次世界大戦における連合国の一員として戦ったのである。このため、ソ連は中国で大きな利益を得、中共を支援して成長させた。これが1949年の中共建国の基礎となった。
オーストラリアのピーター・ダットン国防相は22日、宇宙司令部の設立を発表し、「強硬で好戦的な中露両国」に対抗できる宇宙軍事能力が必要だと述べた。
中国メディアは、ロシアのウクライナ侵攻をめぐって、反米・反北大西洋条約機構(反NATO)などの親ロシア政権の宣伝工作(プロパガンダ)を積極的に推進している。
ロシアのウクライナ侵攻に対して世界の有力国が一致団結してロシアに壊滅的な経済制裁を加える中、米国はロシア支援を続ける中国企業への制裁も視野に入れ、中露の枢軸を断ち切ろうとしている。