(mikepedroncelli/Creative commons)
≪医山夜話≫ (20)

夢のつぐない

 若い頃、医者という職業を選択する前、私は不思議と同じを見ては、翌朝になってもその内容を生々しく覚えていました。最初のころはあまり気にかけていませんでしたが、あまりにも同じ夢を頻繁に見るので、その原因について考え始めました。その後、医者か音楽関係の仕事か、どちらかを選択しなければならなかった時、かつての夢を思い出し、何の迷いもなく医者の道を選びました。不思議なことに、その日から私はあの夢を見なくなりました。しかし、その夢の中の情景は私の脳裏に深く刻まれているのです。

 夢の中で、私は妻と息子を連れて、戦乱の中、大きな荷物を担いで走っていました。途中、体中血まみれで動けなくなった負傷兵や貧しい流民が私に手を伸ばし、「先生、先生! 助けて、助けて! 」と叫んでいました。しかし、戦闘が激しさを増す中で私が考えていたのは、できるだけ早く家族を連れてそこを離れることでした。私を必要とする人たちに対して申し訳ないと思い、走りながら私の足はとても重かったのです。

 私の診療所には様々な患者が訪れます。考えてみれば、運命の神が彼らを私のところへ連れてきたのかもしれません。私は彼らの肉体的な苦痛を軽減させ、精神的な苦痛も慰めながら、10数年が経ちました。ある日、私の診療所をバーバリーさんという女性が訪ねてきました。彼女は、私が繰り返し見ていたあの夢の謎を解くきっかけを与えてくれました。

 バーバリーさんは、彼女のお姉さんに会うためにこの町にやって来ました。着いた日の夜、彼女は窓を開けたままで寝ていたためか、翌日になって彼女の片方の顔が歪み、目を開けたり閉じたりすることが出来なくなってしまいました。これは片側の顔面麻痺で、漢方では「面麻痺」といいます。私の患者だった彼女の姉、スーさんが直ちに彼女を私のところへ連れて来ました。

 私はバーバリーさんの顔を見た瞬間、驚きのあまり思わず後ずさりしてしまいました。私は夢の中で、この歪んだ顔を見たことがあるのです。私は気持ちを落ち着かせ、過去に彼女とどんな縁を結んだにせよ、今日は逃げたりしないと心に決めました。

 私は彼女の顔面に針を入れました。次第に顔の腫れがひき、耳の後の圧迫痛がなくなり、額のしわが徐々に現れて目を閉じる動作が微かにできるようになりました。口もとも動かせるようになり、よだれも止まりました。目の前で起きた奇跡を見て、姉のスーさんは感動して涙を流しました。

 私の顔を見つめると、バーバリーさんは突然、「先生、どこかでお会いしたことがあるようですが…」と聞きました。

 「そんなこと、あるわけないでしょう。先生はサウスカロライナ州に行ったことがありますか?」とスーさんが言いました。

 私は何も答えませんでしたが、心の中で「夢の中で会いましたよ、走っている私に、あなたは追いつけませんでした…」とつぶやきました。

 夢の中で、私はケガ人を置き去りにして逃げてしまったのです。あの人たちにとても申し訳ないことをしたので、この世で少しずつその償いをしているに違いありません。私はこれから、スーとバーバリー姉妹に、善悪には報いがあることや、因果応報の理を教えていきたいと思います。いつかきっと、彼女たちは私の話を受け入れてくれると信じています。

(翻訳編集・陳櫻華)

関連記事
寿命が延びても晩年の健康リスクが増えるベビーブーマー世代。肥満や慢性疾患が生活の質や政策に与える影響について解説します。
長時間座りがちな現代人にぴったり!30代から始められる簡単エクササイズで姿勢改善や筋力アップを目指し、健康な体作りをサポートします。
秋の味覚で心臓を健康に保つ!かぼちゃやりんご、サツマイモなど、心臓を守る栄養満点の果物や野菜を詳しくご紹介します。
腸や肺にある「粘液」の役割に注目し、病原体から体を守る防御メカニズムを解説。健康維持に必要な食生活のポイントもご紹介します。
子供のメンタルヘルスが肥満予防に影響することを示した最新研究。心理的健康が健やかな体重管理にどのように役立つか、その重要性を考察します。