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≪医山夜話≫ (24)

体から魂が抜け出た人(上)

 Aさんの主治医は私の診療所をAさんに紹介し、カルテをたくさん送ってきました。私がまだカルテを読んでいないうちに、Aさんは私の診療所へやって来ました。

 私は、「どうされましたか?ご気分が悪いのですか?」と聞きました。

 「いいえ、別に悪いところはありません。体調もほとんど問題ありません」とAさんは答えました。

 「ではどうしてこちらに来られたのですか?」私は少し不信に思いながら問いかけました。

 「私の主治医が、この診療所なら私を治療できると思い、私を送ってきたのです」

 「何なの、これは?」彼のカルテに目を通すと、病名とアルファベット30字のラテン語が並んでいました。私の頭の中は真っ白になりました。

 私は正直に述べました。「実は、あなたの主治医がどうしてここを紹介されたのか、私には分かりません。カルテに書かれた病名を全く理解できないのです。私の診療所で差し支えないのなら、お話を詳しくお聞かせください」

 彼は、ゆっくりと私に一部始終を語り始めました。

 「実は、私の妻はずっと前から私との離婚を望んでいました。私は離婚しないために、妻から言われたあらゆる条件を呑みました。その一つは、週に一度、カウンセリングを受けることでした。そこに2年以上通った末、私には深刻な心理的欠陥があると診断されました。たくさんの検査をし、10数種の薬を飲みましたが、結局、症状は悪くなる一方です。その後、新しい病状まで出てしまいました。今の西洋医学では私の病気を治せないので、主治医はあなたを紹介したのだと思います…」

 「あなたの主治医はあなたの病気をどう診断されたのですか?」

 彼は一瞬、恥ずかしくてとても言えないというような表情をしましたが、思い切って私に打ち明けてくれました。「主治医が言うには、私の一番の問題点とは、私が今までに一度も、物事を最後までやり遂げた事が無いということでした」

 「私は50年近い人生の中で、最後までまともに働いたことがありません。毎回、求職のための申請書をもらってくるものの、最後まで書き上げた事がないのです。たとえば何かを修理しようと、工具箱を開けて道具を取り出した瞬間、作業する意欲が消え失せてしまうのです。それで、妻に愛想をつかされてしまいました。本を読む時、いつも2、3ページめくっただけでそれ以上は読む事が出来ません。それで小学校、中学校の成績は最悪でした」

 「それであなたは、学校を卒業できたのですか?」

 「私の子供の頃の生活は、とても苦痛なものでした。私は少しもじっとして勉強することができず、椅子に座っても絶えず落ち着かずお尻をこすって、つねにズボンに穴を開けていました。両親はしかたなく私を椅子に縛りつけましたが、私は椅子ごと庭まで動き、リスや猫と遊んで、勉強を全くしませんでした。その時の私の担当医は、父に1点xun_皷A5分間、私を殴るという無茶な『処方』を教えたのです。父は医者の提案に従って毎日私を殴り、これでようやく私を卒業させることができました。私は、たくさんの良いアイデアや新しい考えを生みだす事が出来ます。私の友人は、それを利用してたくさん金儲けをしました。しかし、私はお終いまで着実に遂行できないため、一度も成功したことがありません」

 「世の中には、良いアイデアがあればお金を稼げるような職業もありますが、あなたはそれを試してみましたか?」と私は聞きました。

 「たとえ手足のない障害者でも、まともに一つのことさえできない私よりもしっかりしていると思います…」

 話しを聞きながら、彼の脈と舌を診察し、どこから手をつければ良いのかを考えはじめました。

 

(続く)

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