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【画壇逸事】唐寅、絵画を学ぶ

唐寅は明時代の人で、字は伯虎、「明四家」の一人であり、「江南第一の才子」と号された人物である。唐寅は、若年期に沈周を師として絵画を学んだと伝えられる。

年月が過ぎるのは早いもので、瞬く間に一年が過ぎ、唐寅は自分の絵画はすでに素晴らしくなり、少なくとも師匠の描く画と大差はないと考えるようになった。唐寅は自分の作品を見れば見るほど満足し、「免許皆伝」を許されてもいいだろうと思い、師匠の元を辞して故郷に帰って家族と過ごすことができるはずだと考えた。

唐寅の言葉を耳にした沈周は、何も言わず、ただ慣例に従って、唐寅への餞別として、酒や肴を準備した。しかし彼は普段ほとんど誰も出入りすることのない部屋の中で用意した。唐寅は部屋に入り、この部屋は尋常ではないことに気付いた。窓は無いのに出入口が4つもあり、木製の出入口から外を見通すことができる。外には非常に風流な庭園があり、緑の柳や赤く美しく咲いている花、泉や滝、石山などあるべきものは全て備わっていた。唐寅は目の前の景色に引きつけられ、思わず出入口から外に出て庭の素晴らしい景色を見ようとした。ところが、ひとつひとつの出入口の所で壁にぶつかり、この時に初めてこれらの全てが師匠である沈周が描いた画であったことに気付いたのである。

唐寅は、自分の描いた画は師匠が描いたものに遠く及ばないことを猛然と悟り、慚愧の念がにわかに湧きおこり、その場で師匠の元に絵画を学び続けることを決めた。

この体験の後、唐寅は謙虚になり師匠に教えを請い、努力して絵画を学んだ。3年後には彼が描く絵画は成熟したものとなり、沈周もまた「免許皆伝」として故郷に帰らせて自らの流派を立ててもよいだろうと考えるようになった。

この時、唐寅が師匠に感謝の意を示すために酒と肴を用意して、師匠のやり方をまねて「窓」の絵を描いて壁に掛けておき、その部屋で師匠のための宴席を設けた。師匠が席に着く前に、猫が忽然と入ってきて宴席へと跳び込んでいった。唐寅は慌てて手で払ったところ、この猫は窓に向って逃げようとした。一つ目の窓、二つ目の窓、続けて幾つかの窓に向って跳んだものの、何回も壁にぶつかって跳ね返され、猫はそのたびに悲鳴をあげた。

沈周は、これを見て非常に喜び、「良きかな、良きかな。お前はもう一人前の絵画師で、故郷に帰ってよいぞ」と言った。

中国画であれ西洋画であれ、絵画の作風、絵画の流派に変革が行われる過程においては、保守的な画風、厳格な構造、繊細でデリケートな画面、明確な主題と正確な主体の構造での流派が現れるものである。このような絵画の作風は、中国、西洋の絵画史のいずれにおいても存在してきたもので、画壇においても重要な位置を占めて、波及する範囲は極めて広範なものであった。

この特殊性は中国画の工筆画にも見られ、この中で自ずと成立した体系が院体画(中国の宮廷画家の画風。伝統を重視して花鳥や山水を写実的かつ精密に描かれている)である。工筆画はその大部分が先ず線を引いて静物あるいは人体の外形やそれぞれの部分の構造を描き出し、その上で相応しい顔料を用いて色を塗り重ねていく。院体画も主として工筆画の画法を用いて描くものであるが、工筆画より規制が多くなっている。これは工筆画の絵師は皇帝の命に従っていたため、皇帝の嗜好に合わせなければならなかったからである。

院体画は北宋後期に最高峰に達している。それはもともと芸術を愛した皇帝、宋の徽宗が在位中、書学、絵画を大いに奨励して書画院を設置し、民間の傑出した絵師を厳選して都で奉職させて専業の画家としたからである。北宋と南宋の時期に極めて多くの精美な花鳥画が残されているが、大部分はこれら有名あるいは無名の絵師による優れた作品なのである。

西洋美術史において、古典主義派(14~16世紀の欧州におけるルネサンス期及びその前後における美術作品)も写実的な手法が堅持されており、画面全体を滑らかに均一に描き、筆使いを残さないことが求められる。また人物の造形、比率、動きには正確さと迫真性が求められる。それぞれの異なる質感を表現するために、光陰の表現には精密さと自然性が求められ、更には正確な遠近法を用いて完全な空間感覚を創り出さなければならず、精妙にして現実の人生や人間性に符合する芸術となっている。

唐寅に関するこの物語の中で、沈周と唐寅の技法は上述した工筆画の手法に属していると言える。工筆画は西洋の古典主義派の手法と全く同じものというわけではないが、いずれも対象を本物そっくりかつ繊細に、まるで生きているかのように描くことが要求される。

唐寅と沈周の世に伝わっている作品の中で、相応の絵画を見出すことができない。なので、この物語が真実であるか否かを探ることはできない。しかし、この話は、古代の巨匠たちが如何に真剣に、慎重に自分の仕事に打ち込んできたか、転写・模写の実力が如何に緻密で奥深いものであったかということを物語っており、故に作品が「真実であるかのように錯覚させる」人間業とは思えない境地に至っていることも当然なことである。

 

(翻訳者 柳成蔭)

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