大紀元エポックタイムズ・ジャパン

【歌の手帳】音もせで 

音もせで思ひに燃ゆる(ほたる)こそ鳴く虫よりもあはれなりけれ(後拾遺集

歌意「音をたてて鳴くこともせず、その胸に秘めた恋の火にじっと耐えている螢よ。その姿は、鳴く虫よりもあわれをさそって、私にはいとおしく思われるよ」。

源重之(みなもとのしげゆき)の作。平安時代中期の歌人で、生没年など人物の詳細は分かりませんが、『小倉百人一首』の一首「風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな」の作者として知られています。

暗闇の中、光る螢火(ほたるび)は、人知れず燃える恋の情熱にたとえられます。

歌中の「思ひ」の「ひ」は、作者の心の中で燃える恋の火の縁語(えんご)。つまり「火に燃ゆる螢」とも読めます。夏の夜の、音のない小演劇の一幕です。

(聡)

 

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