中共結党100周年式典でも戦狼発言 「独裁政権はもう長続きしない」との指摘
中国共産党の習近平総書記は1日、党創立100周年の記念式典で国際社会に向けて、強い口調で「中国人民は、いかなる外来勢力も我々をいじめ、抑圧し、奴隷化することを決して許さない。こうしたことを妄想した人はだれであろうと、14億人の中国人民が血と肉で築き上げた鋼鉄の長城に頭をぶつけ、血を流すことになるだろう」と述べた。
ナチスドイツを彷彿とさせる中共
中国当局が1989年に学生らの民主化運動を武力鎮圧した「天安門事件」を経験し、海外に亡命した反体制活動家の呉仁華氏は1日、同式典のライブ放送を視聴した。
呉氏は米ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対して、「ライブ放送を見た後の感想は、恐怖しかない」と述べた。同氏は「天安門楼に立っていた中国共産党の指導者らは、ゾンビのように全く表情がなかった。習近平氏は式典で笑顔を見せることがなかった。これは祝賀イベントと釣り合わない様子だ」と指摘した。
習総書記は、演説の最後に「偉大、光栄、正しい共産党、万歳!」と声を上げると、天安門広場にいた参加者約7万人も「万歳!」と一斉に叫んだ。さらに、式典では、選ばれた若い男女らが同じデザインの服を着て、共産党を称賛する歌を合唱していた。
呉氏は「参加者でさえ同じタイミングで拍手していた。このような大型集会は北朝鮮でしか見られない。民主主義の国の記念イベントでは雰囲気がリラックスしていて、参加者は笑顔を見せているため、実に対照的だ」とした。
同氏は、この式典を見てナチスドイツを思い起こしたとした。
「当時ドイツは国内の経済状況が良く、国民は自家用車を持っていた。このため、国民は国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)を支持していた。同時に、国民の間で民族主義の意識が高まった。その後、ナチスドイツは他国に戦争を仕掛け、最終的に自国の国民にも大きな災難と苦痛をもたらした。中国は今、強い経済力を持ち、国内で民族主義感情が高まっている。中国当局は今、軍事的拡張を図っており、ナチスドイツのように他国に武力侵攻する能力を持つ。これはきっと将来、中国国民に災難と苦痛をもたらすであろう」
習近平氏はこれまで公の場で複数回にわたって「人類運命共同体」に言及し、新しい国際関係の構築を提案した。呉仁華氏は、「中国共産党はそのイデオロギーと文化を通じて、国際ルールと民主主義の国の価値観を変えようという狙いだ。現在、新型コロナウイルスの大流行は人類運命共同体のその表れだと思う。実に非常に恐ろしいことだ。中国共産党は当時のナチスドイツと全く同じだ」と述べた。
「民族主義で治国」
習近平総書記は演説で、「中国人民」を繰り返した。
「中国共産党は常に人民の根本的利益を代表し、人民と苦楽、生死を共にしており、自らの特別な利益を持たず、いかなる利益集団、いかなる権勢集団、いかなる特権階級の利益をも代表しない」と習氏は述べた。
実際に、中国共産党は政権を握ってから、「党は人民の政党で、人民を代表している。政府は人民の政府だ」と唱えてきた。中国の中央政府から農村部までの各レベルの政府機関名には「人民」という言葉がつけられた。
呉仁華氏によれば、共産党は結党当初から、人民の政党であり人民の利益を代表すると強調したことで、当時、知識人を含む多くの国民から支持された。
「しかし、1949年以降の災難的な政治運動と1989年の天安門事件によって、共産党のこの宣伝は徹底的に破綻した」
「特に1989年の天安門事件では、人民政府が人民解放軍を派遣し、人民を制圧した。政府は人民の代表だという共産党が作り上げたイメージが完全に崩れた。また、中央政府から地方政府まで汚職幹部は数多くいる。今、共産党に反対しない中国国民でさえ、党はもう無産階級の政党ではないと分かっている」
呉氏は、中国共産党政権は1989年以降、「人民政府」についてトーンダウンしたが、代わりにナショナリズムを通じて統治を強めたとした。
同氏は、習近平氏は1日の演説で「人民」という単語を何回も口にしたにもかかわらず、この演説の重点は依然として民族主義や愛国主義、中華民族の偉大な復興にあるとの見解を示した。「例えば、式典の参加者は、民族主義に関する習氏の演説の内容に複数回、拍手を送り、歓声も上げた。習氏の『外来勢力』への威嚇のほかに、台湾問題についての発言でも拍手があった」
中国の問題は制度の問題
また、習近平氏は式典で、米国を念頭において「教師面した偉そうな説教を絶対に受け入れない」と批判した。
「習近平氏は中国経済が大きく発展した今、欧米の民主主義国に対抗できると考えているのだろう。彼は、中国の現在の国力で米国に挑めると認識し、鄧小平が主張した『韜光養晦(とうこうようかい・才能を隠して、内に力を蓄える)』を放棄した」と呉仁華氏は示した。
しかし、中国当局が鄧小平の「韜光養晦」政策から今の「戦狼外交」に転換したのは、「共産党政治体制の必然的な結果だ」と同氏は指摘した。
「今日、もし最高指導者が習近平氏ではなく、他の誰かがこの総書記を務めていても、同じく戦狼外交を展開するだろう。なぜなら、中国当局が世界第2位の経済大国に躍進し、西側諸国と肩を並べる力を持つようになったからだ。これは中国共産党の政治体制によってもたらされた結果であり、個人が決められることではない」
来年党大会への備え
産経新聞の矢板明夫・台北支局長はRFAに対して、中国当局の現在の対外関係は文化大革命当時の状況に戻り、中国の改革開放政策を実施して以降、最悪な局面を迎えたとの考えを示した。
同氏は、1日の記念式典は習近平氏の功績を強調する狙いがあり、また来年の党大会で習近平氏の3期目続投を実現するための雰囲気作りという意図もあると指摘した。
「今までの結党記念イベントでは、このように指導者個人の功績を特別に強調することはなかった。習近平氏は自らの領導と党を混同し、個人崇拝を行った毛沢東時代に逆戻りしようとしている。毛沢東時代の個人崇拝と今の習近平時代の個人崇拝は違う。毛時代は悲劇であり、今は茶番劇だ」
習近平氏は6月29日、中国共産党員29人に、党の最高栄誉である「七一勲章」を授与した。同氏はこの授与式でも、「国家は人民であり、人民は国家である(中国語:江山就是人民、人民就是江山)」と「人民」を主張した。
矢板氏は、習近平氏は、米国のトランプ前政権の中国共産党と中国国民を区別して考えるという主張を意識して発言したと分析。
「党と人民の一体化は共産革命時代において、共産党のスローガンだった。習近平氏が民族主義に関してプロパガンダ宣伝を強化した今、このスローガンに以前のような効果があるかは疑問だ」
同氏はまた、歴史上、民族主義を煽った多くの指導者らに天寿を全うした人がほとんどいないと示した。「この政治手法は非常に危険で、局限的であるからだ」という。「習近平氏は、民族主義を通じて中国人を奮い立たせて世界覇権を争おうとしている。この道は極めて危険だ」と同氏は批判した。
中国共産党の言論などは常に人々を惑わせてきた。共産党は中国の特殊な国情を国際社会に訴え、同情と理解を得た。しかし、世界第2位の経済大国となった中国当局は、国際社会のルールと秩序を変えようとし、途上国からの支持を得るために各国に金銭外交を行っている。
しかし、この手法は国際社会ではもう通じないと矢板氏はみている。「だから、中国当局は現在、戦狼外交しかできなくなっている」とした。
「このような独裁政権に対する社会の不満がますます高まり、政権自体も改革の原動力を失えば、中国の独裁政権はもう長く続かないことを意味する。(崩壊まで)数年、十数年かかるかもしれないが、長い歴史の中では一瞬のことに過ぎない」
(翻訳編集・張哲)