【歌の手帳】つつめども
つつめどもかくれぬものは夏虫の身よりあまれる思ひなりけり(後撰集)
歌意「包んでも隠しきれずに外へもれてしまうものは、夏虫(螢)の身の内からあまって外へ出てしまうような、心の思い火でございますよ」。
詠み人知らずの歌です。「思ひ」と螢の「火」が掛詞になっているのは和歌の定番ですが、この一首については、そうした技巧の上手さよりも、この一瞬の光景の美が、実に卓越しているのです。
歌についている詞書をふまえて鑑賞すると、この歌は、「桂のみこ(孚子内親王)」の求めに応じて捕えた螢を、お側に使える女童(めのわらわ)が汗衫(かざみ、夏の薄衣)の袖に包んで差し出したときの歌だそうです。
夏の薄衣、女童、ほのかな螢の光。なんと美しい夏の夜の一コマでしょう。
(聡)
(読者の皆様へ)下のコメント欄へ、ご自作の「短歌」「俳句」をお寄せください。歌にまつわるお話も、ぜひお書き添えください。皆様とともに作り上げる、楽しいコーナーにしたいと願っております。なお、狂歌や川柳は、また別の機会とさせていただきます。お待ちしております!
関連記事

「フクロウとキリギリス」の物語で学ぶ、甘い言葉やお世辞が真の賞賛とは言えないという教訓。イソップ寓話の魅力とともに、道徳的な価値を感じてみましょう。

清明の季節は「肝」の働きが高まり不調も出やすくなります。今が旬の菜の花は、肝の熱を冷まし気の巡りを整える優れた食材。簡単に取り入れられる養生レシピとともに、春の五行養生をご紹介します。

年齢とともに増える抜け毛や白髪。実は日々の食事で改善の余地があります。髪に必要な7つの栄養素と、中医学が教える髪と内臓の深い関係について解説します。

長年うつ病に苦しんだ女性が、薬ではなく「精神修養」によって回復。絶望の中で見つけた“希望”が、人生を根底から変えた──その実例と、科学的裏付けとは。

中医学では、緑内障の原因を「怒りや憂うつ」「代謝機能の低下」「夜更かしによる精の消耗」など全身の気血の乱れとして捉え、漢方や鍼、体操で改善を図ります。