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農科学もうひとつの道 完全自然農法

2. 栄養学のパラダイムシフト~素材の安全性はどうなのか

栄養学の専門家は、健康な生活を送るために「糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルをバランスよく食べよ」という。こうした栄養指導によって、人々は健康になるどころか、むしろ難病を含めた病気は増え続けている。厚生労働省の公式サイトでは、いまや日本人の2人に1人ががんになる時代だと警告している。

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健康を維持するための具体的な食事として伝統的な和食(日本食)を奨める専門家もいる。和食は、ユネスコの無形文化遺産に指定され、健康食として海外からも注目されている。しかし、実は本質的な議論がまったくなされていない。それは、素材の安全性についてだ。

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現代農業に肥料は欠かせない。そして、病気や虫食いの被害を防ぐために、大量の農薬が使用されている。そこで最近は、農薬を使わない「有機農業」が注目されている。確かに農薬を使わない農作物は安全だと思われそうだが、実はここに大きな問題が隠されている。それは、農薬だけでなく、そもそも肥料に毒性があるという事実だ。

まず、化学肥料の柱ともいうべき窒素肥料はとても毒性が強く、農作物に高濃度で蓄積された場合、食べてから体内で発がん物質に変化することが知られている。一般的な野菜を食べたときに感じる「苦味」は窒素肥料の味だ。ところが、消費者の多くは、野菜の苦味は窒素肥料が原因であることをほとんど知らされていない。

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さらに、有機農業で使われる「有機肥料」は、窒素分だけでなく、農薬汚染の危険まである。というのも、有機肥料の多くは家畜の糞を発酵させたもので、ホームセンターでも「鶏糞堆肥」や「牛糞堆肥」などの商品名で一般に広く販売されている。これらは「家畜糞堆肥」と呼ばれ、畜産農家から出てくる糞尿廃棄物を再利用することで、環境に優しい農業のイメージを持つ。それでは、畜産農家で飼育されている家畜のエサはどうだろうか。家畜のエサの多くは、農薬を使った牧草や穀物が使われている。ということは、その農薬の成分は糞に残留し、さらに濃縮されて堆肥として再利用されているのだ。

安全なエサにこだわる畜産農家もわずかに存在する。しかし、家畜糞が肥料として処理される段階で、他の家畜糞との区別はつかないし、残留農薬などを検査する仕組みも存在しない。そして、家畜糞堆肥を使った有機農業の野菜が、そのまま「無農薬野菜」として消費者に販売されているのが実情なのだ。

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では、栄養学の専門家は、こうした農作物の実態についてどこまで認識しているだろうか。食材の安全性について無視されたまま、例えば学校給食の献立が日々作られているとすると、学校給食が子供の食物アレルギーを生む原因のひとつになっているかもしれない。ましてや商業ベースで製造・販売される低コスト・低価格の弁当や加工食品は、どのように安全性が確保されているのか、私たちは冷静に疑問の目を持つことが大切だろう。

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一方、肥料も農薬も使わない自然農法の分野では、従来の栄養学とはまったく違う視点から人間の健康と食事法が提案されている。それは、大きく2つの視点で語られる。ひとつは農薬という毒物を一切口にしなければ病気にならないという視点。もうひとつは、自然のものを食べることによって腸内細菌が整い、健康維持に必要な微量栄養素が腸内細菌によって作られるため、少量の食事でも十分生活できるという視点だ。

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自然農法でつくられた食材が安全であることは簡単に想像つくが、栄養価については世間にほとんど知られていない。詳細については別の機会に譲るが、がんや糖尿病をはじめ、さまざまな病気に苦しんでいる人たちが、食べ物を自然農法の作物に切り替えることで、奇跡の生還を遂げたという実例はたくさんある。とくに自然農法の玄米を中心とした食事法は、私自身の体験も含めて、間違いなく有効であると断言できる。たとえば「7号食」というキーワードだけでもさまざまな情報が集まるので、興味のある人は、ぜひ検索してもらいたい。

さて、上記のことを踏まえて栄養学について振り返ると、現代栄養学は現代農業を前提として研究されていることがわかる。つまり、「肥料や農薬の毒性は避けられないので、そのことは前提として受け入れなければいけない」という暗黙のルールがあるように見える。逆に毒のない食材を前提とする栄養学の研究が始まれば、現代人の生活はがらりと変わるだろう。そして栄養学のパラダイムシフトは安全な素材が前提になる。つまり、自然農法の研究と普及によってもたらされるだろう。

つづく

執筆者:横内 猛

自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。
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