「船舶のIDロンダリング」…北朝鮮の制裁を迂回する密輸業者
米国を拠点とする研究組織が2021年9月に発表したところでは、北朝鮮に課されている制裁の迂回を図る密輸業者等が制裁対象船舶の識別要素を偽造する計画に目を向けた。
非営利団体の高等国防研究センター(C4ADS)の報告書よると、これまで長年にわたり密輸船は外観の変更や故意的に間違った位置情報を通信するなどの手段を用いてきた。
同報告書に示されている見解では、「船舶のIDロンダリング」という手段はこうした従来型の方法よりも著しく精巧で、これにより制裁を迂回して密輸を行うことが可能となるだけでなく、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)が管理する船舶登録制度が損なわれる可能性がある。
同報告書には、「船舶IDロンダリングの取り締まりに伴う複雑性を考えると、これは海事規制当局にとって前例がないほどの大きな問題に発展する可能性があり、国際的な海運業に悪影響がもたらされるリスクがある」と記されている。
同報告書に関する質問を受けた国際海事機関の報道官は、特定の違法行為が発覚した場合は国際海事機関に通報することを勧めている。そうすれば同機関が事態に対処することが可能となる。
同報道官はまた、「関連国の海事行政組織の認識や承認を得ずに船舶を登録する行為など、当機関は不正登録や関連違法行為に該当する問題の対処に注力してきた」とし、「この取り組みは現在も続けられている」と述べている。
核兵器と弾道ミサイル計画を起因として、北朝鮮は厳格な国際制裁の対象となっている。兵器放棄の見返りとして制裁解除を求めた北朝鮮政府との非核化交渉は膠着したままである。
独立系の制裁監視機関が国連に報告したところでは、新型コロナウイルス感染症の蔓延防止策として2020年以来国境を封鎖した北朝鮮では、その頻度は低下しているが依然として制裁を迂回した不正活動が継続されている。
高等国防研究センターの報告書には、「国際的な海運の船積指図書は、国際海事機関のIMO番号が1隻の『本物の船舶』に発行される高信頼性かつ一意の識別子であるということを前提に処理される。ここで『本物の船舶』と言わなければならないこと自体がすでにまともではない」と記されている。
同報告書にはまた、北朝鮮の制裁を迂回する不正行為に関与したとされる船舶2隻に関する同センターのケーススタディを見れば、IMO登録制度を悪用して存在しない船舶に登録番号を発行し、これを使用して他の船舶の識別要素を偽装する仕組みが把握できると記されている。
世界で発生している紛争や安保問題に関するデータ主導型分析や報告書を発行する高等国防研究センターは、近年に少なくとも11隻の船舶が緻密な計画を策定して船籍を偽造した事例を確認したと報告している。
同報告書には、法執行機関や民事規制当局を対象として、追跡データ、衛星画像、IMO登録記録、また公的に入手できる他の情報を用いてこうした不正な船舶活動を検出・妨害する方法も概説されている。
(Indo-Pacific Defence Forum)