調理するとき注意して「酸化しやすい高温の油」
「世界三大料理」と称賛される料理があります。
フランス料理、中国料理、トルコ料理がその3種だそうですが、いずれの国も皇帝や国王が栄華を極めた時代をもったことから、宮廷の料理人が贅の限りを尽くした食事を君主に献上するため大きく発展したものと考えられます。
中華料理は「日本の中国料理?」
不思議なことに、日本では長らく中国料理を「中華料理」と呼んできました。よく考えると、それは日本人に身近な街のラーメン屋さんのことで、「日本生まれの中国料理」と呼ぶべきものですが、ともかく安価でおいしく、ボリュームがあるので、日本人の大好きな食べ物であることは間違いありません。
店の看板が「日本料理」といったら格式が高く、支払いもそれなりに覚悟しなければなりません。それに対して「街の中華屋さん」なら毎日でも行ける気軽さで、実に嬉しい存在です。それにしても「冷やし中華」という麺料理は、誰がそう名付けたか、なんとも大胆なネーミングですね。「完全に日本生まれだけど俺は中華だ」と麺が胸を張っているようです。
さて、本家の中国料理とは何かと言うと、広東料理や四川料理、あるいは東北料理など、中国の各地方で発展した料理の一大体系であり、それに薬膳や伝統医学などの哲学思想までが加えられた、言わば「料理の宇宙」を形成しています。
中国人が、そうした中国料理を大いに自慢するのは無理もないのですが、大きな鉄鍋を豪快に振り、高温で食材を炒める中国料理には、調理の際に、ぜひ注意していただきたいことが一つあります。高温に熱した油が、体に害をもたらす場合があるからです。
「発煙するほど高温の油」は健康を損ねる
だいぶ以前に、中国人の知人からこんな冗談を聞きました。中国料理は、高温調理するので同時に殺菌ができて安全性が高いという話に続いて、彼が何と言ったかというと「ただし、炒める前の食材が腐っていないことと、つかう油が地溝油(ドブの廃油を再生した油)でないことが条件です」。
冗談のなかに「幾分かの真実」が見える話ですが、それはともかく、中国料理は「炒(チャオ)」のほかに「爆(バオ)」という調理法があって、この爆は、普通に炒めるよりも更に高温の油で瞬間的に火を通すことを指します。つまり、油を発火点ぎりぎりなほど高温にまで熱して使う調理法が、中国料理にはあるのです。
調理のため加熱した食用油が高温になって発煙点(smoke point)に達した時には、すでに油の酸化が始まっています。その時に、うっかり目を離してそのまま中華鍋を放置などすれば、容易に発火点に達して火災という重大事故になってしまいます。
それは絶対に防ぐとしても、油の酸化による健康被害にも私たちが無関心でよいものではありません。
炒め油は「煙が出るほど熱しないで」
果物や野菜を多く食べると、血中コレステロールの上昇を抑えられることが知られています。鶏卵や豚レバーなど、私たちが通常の食事でとる食品のなかにもコレステロールは含まれていますので、これを全く摂取しないことは現実的ではありません。
ただ、コレステロール値が高すぎると健康を害し、心臓発作や脳卒中を起こしやすくなることは以前から指摘されています。コレステロールが長年の食生活によって上昇してきたのか、遺伝的要因によって高いのかに関わらず、「健康的な食事」を心がけることは現代に生きる私たちにとって必須の課題と言えるでしょう。
その上で、先述した「調理の方法によって生まれるリスク」についても、ぜひ、お考えいただきたいのです。中国料理の炒め物に代表されるような高温の油による調理は、どのようなリスクとなるのでしょうか。
英国の国立衛生図書館(National Library of Health)がこのほど、加熱した食用油が人間のコレステロールに及ぼす影響を分析した研究報告書を発表しました。
この研究報告によると、食用油を一定時間加熱すると、酸化反応、重合反応、加水分解など多くの化学変化が発生するといいます。これらの化学反応は、さまざまな酸化生成物を生み出します。
人が酸化した油脂を摂取すると、コレステロールなどの脂肪物質が血管壁に蓄積し、アテローム性動脈硬化を引き起こすことで、心血管疾患などのリスクが高まります。
鉄の中華鍋やフライパンで炒め物を調理する際には、まず鍋を十分に熱してから「油ならし」をし、そこへ改めて炒め油をいれてから具材を順次投入します。
その始めの具材を入れる直前に、発煙点に達するほど高温にまで熱してしまうと、そこで油が酸化してしまうのです。そうなると、油が分解されてフリーラジカルや化学物質が放出され、食後の体に害を与えるだけでなく、食材を入れるとたちまち黒焦げや苦味が生じてしまいます。
油の種類はいろいろ「うまく使い分けましょう」
通常の炒め物ならば、サラダ油で十分です。
テフロン加工のフライパンなら、油を高温にしすぎなくても炒められます。鉄の中華鍋の場合は、「一歩手前の油温」を見極めてください。
近年では「橄欖油(オリーブ油)が健康に良い」という情報が中国や台湾でも広まっており、野菜サラダなどにかけて利用するのは結構なのですが、良かれと思ってオリーブ油を中国料理の「高温の炒め物」に使う人もいるらしいのです。
これは間違いです。オリーブ油、アマニ油、えごま油などは低温加熱でも酸化しやすい油なので、揚げ物には向きません。オリーブ油を多用するイタリアンはともかく、中国料理のような高温の炒め物には避けたほうがいいいでしょう。
油の種類によって、その特性は大きく異なりますので、的確に使い分けることが大切です。普段あまりキッチンに立たないご主人も、ぜひご家庭で調理をしてみてください。
作ることを楽しみながら、健康的なクッキングを目指しましょう。
(翻訳編集・鳥飼聡)