マイナスの感情を持ちすぎると、健康面でもマイナスの結果を招くことがあります(fizkes/Shutterstock)
マイナスの感情を持ちすぎると、健康面でもマイナスの結果を招くことがあります(fizkes/Shutterstock)

肝臓のおはなし「臓器と感情の不思議な関係」

肝臓は、人体のなかで「最も大きい臓器」として知られています。

内臓が感情に影響する

西洋医学の思想によると、内臓はそれぞれ「臓器としての機能」をもつのみで、人間の情緒や精神状態に影響を与えるとは考えません。

これに対して東洋医学(とりわけ漢方医学)では、いかなる体内の臓器も、人間の複雑な感情と密接に関連して、体内の各位置に存在することを前提としています。

漢方でいう「肝」は、気の流れをコントロールして精神的安定をはかり、情緒面の調整をするとともに、自律神経系をまとめて体の各機能が順調にはたらくよう調節する働きもします。

極論すれば、漢方でいう「肝」は、西洋医学の「肝臓」とは別の臓器であると考えてもよいかもしれません。

現代では多くの場合、人間の感情は「外の環境」に対して「内の考え」が反応することで情緒に変化が起きると考えられています。

これに対して東洋医学は、ある臓器の状態が健康でないことが原因で、怒りや不安、抑うつなど精神面での影響が現れる、つまり「内在の原因が外側に表出する」を想定して患者の治療や症状の改善にあたるのです。

 

肝臓は「再生できる強い臓器」

そのような東洋医学からみて、とくに肝臓は、人間の情緒に深く関係する臓器です。

不思議なことに古代ギリシャ人も、肝臓が感情の源であり、魂の中心であると考えていたようです。

今日つかわれている肝臓(hepatic)、肝炎(hepatitis)、肝がん(hepatoma)などは、いずれも肝臓を意味する古代ギリシャ語の「hepar」に由来します。

古代ギリシャ人も、肝臓に再生能力があることを知っていました。

ギリシャ神話のなかで、主神ゼウスの怒りをかったプロメテウスは、鎖で山頂につながれ、肝臓を鷲に喰われる責め苦に遭います。しかしプロメテウスは死なず、鷲に喰われた肝臓は毎日再生したのです。

西洋医学では、肝臓は免疫システムの重要な構成部分であると考えられています。免疫システムのほかにも、肝臓のもつ機能は非常に多く、現在分かっているだけで500以上の重要な機能があります。

肝臓を守るためには、飲酒量を減らし、健康的な食生活を送るとともに、適度に運動して体を鍛える必要があります。また、A型肝炎とB型肝炎が多い地域を旅行するときは、十分な注意が必要です。

ウイルス性肝炎は、ウイルスが肝臓を損傷することによって引き起こされます。A型肝炎ウイルスは、汚染された水や食物、感染者の排泄物などから感染します。一方、B型肝炎ウイルスは、感染者の血液や体液が感染源になります。

 

「肝臓を良好に保ちましょう」

ここで再び、東洋医学の角度から肝臓を考えてみましょう。

西洋医学との大きな違いの一つは、東洋医学は「体と心が、双方向に、密接につながっている」と考えていることです。

この哲学によると、「怒り」や「イライラ」に代表されるようなマイナスの感情が強すぎる場合は、その感情自体が原因となって臓器を損ない、健康な体を病気にしてしまいます。

同じ理由で、ある臓器の状態が健康でない場合、その臓器が関連する感情が突出するように表面化します。

東洋医学では、肝臓を「怒り」の感情に関連する臓器と見ています。

人間の憤り、落胆、イライラ感は、個別の背景はあるにせよ、いずれも「肝気鬱結(肝の気が停滞すること)」の現れなのです。そのため、肝臓のバランスが崩れている人は、時として、周囲が驚くほど過度の怒りを爆発させることがあります。

しかし、普段からよく整えられた健康な肝臓は、その持ち主に大きな勇気と忍耐力を与え、賢明かつ生産的で、目標のある生活を着実に計画できる能力を与えます。

つまり自分の肝臓を努めて健やかに保つことは、免疫力を高めて自分の健康を守るだけでなく、ご自身の気持ちを和らげ、ご家族や周囲の人々に心の安らぎをもたらすのです。

その意味でも、私たちは常に、肝臓の良好な状態を保ちたいものです。

(文・Emma Suttie/翻訳編集・鳥飼聡)

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