オーストラリアは太平洋諸国に対して、中国が決して用意できない「切り札」を駆使して大きな影響力を確保することに成功した。それは移住の機会提供だ。写真はツバルのナタノ首相。2021年11月、英グラスゴーで代表撮影(2023年 ロイター)

アングル:豪、中国にない「切り札」で太平洋諸国への影響力行使

[シドニー/北京 13日 ロイター] – オーストラリアは太平洋諸国に対して、中国が決して用意できない「切り札」を駆使して大きな影響力を確保することに成功した。それは移住の機会提供だ。

地球温暖化による海面上昇で国土が水没する危機にさらされている南太平洋の島国ツバルを巡り、オーストラリアが毎年最大280人のツバル国民に特別受け入れ枠を設け、移住や就学、就労を支援する。オーストラリアのアルバニージー首相とツバルのナタノ首相が10日に結んだこの取り決めは、オーストラリアの太平洋諸国との関係を一変させる可能性がある、と専門家は話している。

オーストラリア国立大学で太平洋地域を専門に研究しているグレアム・スミス氏は「これは中国にはできない行動だ」と評価した。

オーストラリア議会は最近、年間で3000人の太平洋諸国の人々に永住への道を開く法案も可決している。

マールズ副首相兼国防相は、ツバルとの取り決めについて、オーストラリアがツバルの防衛力強化に手を差し伸べるためにこれまでよりずっと強い決意を示すものだと説明し、「われわれの太平洋諸国との関係において分水嶺」になったと述べた。

シドニーの米国研究センターで外交防衛ディレクターを務めるピーター・ディーン氏は「オーストラリアが連邦発足以来、最重要視してきた目標は、自国と利益が一致しない別の大国がこの地域に地歩を築くのを阻止することだった。(そこに)中国が登場し、彼らはより多くのインフラ整備資金を提供できる。(だが)移住申し出のような関係性を提示することは不可能であり、これは太平洋地域にとって一つのモデルになる」と指摘した。

先週のアルバニージー氏の訪中で、オーストラリアと中国の外交関係は改善している。それでも中国が太平洋諸国への関与を強めていることから、安全保障上の緊張状態は解消されていない。

そうした中でオーストラリアは12日にソロモン諸島で始まったイベントの警備要員として警察や兵士450人を派遣した。昨年中国と治安協力協定に調印したソロモン諸島に中国の警察が早速やってくるすきを与えないためで、この取り組みには周辺のフィジーとパプアニューギニアも参加した。

オーストラリアとツバルの取り決めでは、ツバルが中国との間で治安協力協定を締結したり、通信やエネルギー、港湾整備などの分野で取引したりするのを防ぐこともできる。

スミス氏は「オーストラリアと中国の関係が多少暖かくなったからといって、あるいは米中の対立が幾分和らいだとしても、このゲームが止まることはないだろう」と述べた。

中国人民大学のワン・イウェイ教授(国際関係論)は、太平洋諸国を巡って中国と米国が相手の影響力を封じようとする駆け引きが、中国のあらゆる行動に対するオーストラリアの感度を非常に高めていると分析した。

同教授は、米中の「戦略的ゲーム」が今やオーストラリアの玄関先にまで及んでいると説明。「太平洋地域における協力の枠組みは、公共の治安維持や気候変動に対処するためのインフラ整備など、非伝統的な安全保障の領域に焦点が当たる傾向にある。これらは本来、安全保障と強く関係づけて考えるべきではないが、米国は依然として神経過敏であり、オーストラリアはもっと過敏になっている」と付け加えた。

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