パウエル議長は、2024年7月10日にワシントンの米国議会議事堂で行われた連邦準備制度理事会の半期金融政策報告に関する下院金融サービス委員会の公聴会で証言した( Bonnie Cash/Getty Images)

FRB議長、インフレ2%前に金融緩和を示唆

米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は7月10日、連邦議会で証言し、インフレ率が2%に戻るまで金融政策を緩和するのを待つつもりはないと語った。

パウエル議長は下院金融サービス委員会に出席し、利下げの前にインフレが「特定の数値」に達する必要はないと確認した。「ンフレには一定の勢いがあるため、インフレが2%まで下がるまで待つ必要はないと我々は言ってきた」と述べた。

代わりに、FRBはデータの全体を評価し、インフレが2%目標に向かっているかどうかを判断している。

「インフレが持続的に2%に向かっていると確信できるかが問題だが、まだその確信は持てていない」と述べた。

FRBは様々な指標を評価するが、個人消費支出(PCE)価格指数に焦点を当てている。PCEは幅広い財やサービスを対象としており、過去25年間FRBの好むインフレ指標である。

米経済分析局によると、5月のPCEは前年同月比2.6%増加し、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEも2.6%増加した。

最新の経済見通しでは、FRB当局者はPCEとコアPCEが2026年までに2%に達しないと予測している。

パウエル議長は連邦公開市場委員会後、インフレ率が一度で2%に達することは望んでいないと語った。

「インフレが一度2%に達するだけではなく、時間をかけて安定的に2%に定着することを目指している。」

上院公聴会のポイント

9日、上院銀行委員会での証言で、パウエル議長は利上げを続けると経済成長の見通しが危うくなる一方、利下げを急ぎすぎるとインフレの再燃リスクがあると述べた。「インフレが持続的に2%に向かっているという確信が得られるまで、フェデラルファンド金利(FRBが金融市場を調整する目的で作られた政策金利)の目標範囲を引き下げるのは適切ではないと考えている」と述べた。

基準となるフェデラルファンド金利は5.25~5.5%の間で23年ぶりの高水準にある。FRBの経済予測・見通しによると、今年中に0.25%の利下げが一回のみと予想されており、2024年末までに政策金利の中央値は5.1%に下がるとされている。

労働市場について、パウエル氏は、米国の雇用市場はコロナパンデミック前と同様の状態に戻っていると述べた。

「広範な指標による、労働市場の状況はパンデミック直前の堅調だが過熱していない状態に戻っている」と述べた。

失業率は先月4.1%に上昇し、2024年上半期の月平均雇用増加数は22万2千人だった。

シェロッド・ブラウン上院議員を含む民主党の議員らは、利下げをあまり長く待つと「良い雇用創出に向けたこれまでの成果が水の泡になる可能性がある」と警告した。

FRBは良好なインフレデータを待ってから利下げを行う予定だが、パウエル議長は労働市場の急激な弱体化があれば中央銀行が対応する可能性があると認めた。

「労働市場が予想外に弱まった場合、すなわち予想以上に顕著に悪化した場合には、対応する可能性がある。なぜなら、我々は二重の使命を持っており、今はその二つの使命が1年前よりもバランスが取れていると考えているからだ」と述べた。

また、バーゼルIII最終規則文書から役員報酬ルールまで、銀行規制も議論の焦点となった。

共和党の上院議員らは、バーゼルIIIが1千億ドル以上の資産を持つ金融機関に厳しい資本要件を課すことが過剰規制の一例だとし、資本が経済を通じて流れるのを妨げると指摘した。

ティム・スコット上院議員は「バーゼルIIIの自己資本規制は、(アメリカンフットボールの)スタークォーターバックを、シーズン中に怪我をするかもしれないから傍観していろと言うようなものだ。まったく馬鹿げている」と述べた。

エリザベス・ウォーレン上院議員は、ドッド=フランク法第956条の長らく遅れている施行についてFRB議長を批判した。この条項はウォール街の役員報酬に対するインセンティブを制限するものだ。

ウォーレン氏は連邦準備制度理事会議長との緊迫したやり取りの中で「FRBは、他の金融規制当局とともに議会の指示通りに第956条を実施する規則を最終化することを拒否している」と述べた。

次の注目点はインフレ

国会での証言を終えた後、パウエル議長と米連邦公開市場委員会(FOMC)の委員らは、7月11日に発表予定の消費者物価指数(CPI)報告を精査する予定だ。

クリーブランド連銀のインフレ予測モデルによると、年間インフレ率は3.1%に緩和されると予想されている。エネルギーと食品部門を除いたコアCPIは3.4%にとどまると予想されている。

企業が出荷した製品の販売価格を測る生産者物価指数(PPI)のデータは7月12日に発表予定だ。

市場のコンセンサス予想では、PPIは6月に0.1%、コアPPIは0.2%上昇したとされている。

FOMCは7月30日に次回の2日間の政策会合を開催する予定だ。今月後半に0.25%の利下げの可能性はわずかだが、先物市場では9月の利下げを予想している。

関連記事
多様性ポリシーについていけない?世界を多様性の波に巻き込んでいるDEI運動からフォード社が距離を置く措置を発表。多くの米企業が同様の方針転換を行っている。
日本製鉄によるUSスチールの買収は、米国大統領選にも影響を与える重要な争点となっている。雇用維持や経営改善を提案する一方、米国内ではナショナリズムや歴史的背景から反対意見が強まる。米政府がこの買収を阻止する場合、どのような影響を及ぼすか
ジャクソンホール経済シンポジウムはFRBの金融緩和政策の土台作りとなり、9月の利下げに向けた基礎を築くことになるかもしれない。
失業率の上昇、PCE物価指数の低下、国債利回りの急落を踏まえ、、FRBは今すぐ行動し、8月下旬のジャクソンホール会議前に0.5%の利下げを実施するべきだ。
億万長者ウォーレン・バフェット氏の企業は、米連邦準備制度理事会(FRB)が保有する米国債を上回る規模を保持していることが明らかになった