何清漣:環境汚染と政府の管理・統制能力の危機

2007/06/24
更新: 2007/06/24

【大紀元日本6月24日】昨年より、中国において深刻な環境汚染事件が相次いで発生している。最近の太湖、巣湖における深刻な水質汚染、長江における大量の藍藻の漂泊は、中国の生存基盤が、すでに深刻に破壊されていることを示している。しかし、皮肉なのは、こうした一連の生態環境の危機は、決して天災というわけではなく、すべてが人災であるということである。

2006年の十大環境汚染事件を例にとると、甘粛省徽県の鉛汚染、湖南省岳陽のヒ素汚染、東シナ海の廃電池汚染、貴州遵義のリン汚染、濾州のガソリン漏れ事件等、全てが人為によってもたらされたものである。また、今年発生した深刻な水汚染は、自然の、人類に対する“報復”であるといえる。

太湖を例にとると、太湖流域の経済発展は、かつて、国内総生産の10%、国家財政収入の16%という“奇跡”を達成し、この数字は、当地政府の誇りとなった。しかし、残念なことに、当地政府は最低限の常識を無視していた。

それは、この“経済的成果”が、完全に、環境の掠奪的使用を代償としていたということである。農耕時代においてさえ、地力を保持するために休耕制が実施されているのに、太湖が、どうして、現代科学技術の力を持った、超強力な掠奪的開発に耐えられるというのか?

ゆえに、環境破壊に対する懲罰は、自ずと顕在化してくる。太湖湖泊の生態は空前の破壊を受けており、湖泊の収縮、機能の衰退、水質汚染、湿地の減少等以外にも、藍藻が、すでに太湖を訪れる“旅行客”となっていた。今年に到っては、藍藻の勢いがすさまじく、追い払っても出て行かない“常駐客”となっている。政府の保守的な推計によると、太湖の水質汚染がもたらす損失は、毎年約50億元前後となっている。こうした状況の下で、当局の“経済発展の重視、環境保護の軽視”という言い訳が通用するのか?

こうした大規模な汚染事件が頻繁に出現していることは、中国政府の管理統制能力に、深刻な危機が発生していることを示している。

この危機は、第一に、法律の機能不全に現れている。中国政府が環境汚染の問題を全く重視してこなかったというと、それは決して事実ではない。この20年来、環境保護立法について、中国政府は主体的であったといってよい。1989年12月に公布された《環境保護法》以来、具体的な分野を対象とする環境保護関係の法律が相次いで制定され、《水汚染防治法》、《大気汚染防治法》、《雑訊(雑音)汚染防治法》、《固体廃物環境汚染防治法》、《海洋環境保護法》等の法律が完備され、また、その各条項は、実効性のあるものに思われた。

他方で、メディアの環境保護に対する批判報道は寛大であった。西方社会の慣例によるのであれ、中国政府が宣伝するところの法治によるのであれ、80年代の郷鎮企業が 汚染の外部効果を、何の拘束もなく周辺地区に転嫁する非理性的な行為は抑制すべきであった。しかし、実際のところは、汚染をもたらした郷鎮企業の多くが閉鎖されたものの、これに変わって現れたのが、国有企業、外資企業等、規模の効果を備えた大・中型の汚染企業であった。

第二が、許認可制度の機能不全である。環境保護関係の法律において、汚染をもたらしうる企業は、プロジェクト開始前に、各地政府の環境保護部門の評価を受けなければない旨の規定が盛り込まれていた。2002年、全人大はまた、《環境影響評価法》を可決した。しかし、各地の汚染プロジェクトは止まるところを知らなかった。多くの企業が汚染物質について最低限の環境保護処理をせず、汚水を直接排水するのは、常に見られる現象であった。中国の河、湖、海及び農田は深刻な汚染を受けているが、それは、こうしたプロジェクトの賜物である。実際の効果から見ると、中国政府の環境保護に係る許認可制度は、すでに、完全な機能不全に陥っている。原因は非常に簡単である。それは、各地環境保護部門の官員の人事権が、当地の市委、市政府の指導者の手中にあるからである。かりに、当地政府官員がGDPの増加だけを考慮し、これが人事評価の成績表となり、環境が受ける影響を完全に無視するならば、環境保護部門は、環境評価に際して上級政府の意思に沿って粉飾を行うことは避けられない。

第三が、企業を外部から統制するシステムの機能不全である。法律の規定によると、各地環境保護部門は、汚染をもたらしうる企業に対し、定時・定点の監測を行わなければならない。そして、汚染が発生すれば、罰金、ひいては工場閉鎖等の処罰が行われる。しかし、上述の汚染事件から見ると、各地環境保護部門はほとんど休眠状態になっている。

さらに、近年、各地において、環境保護運動をめぐる事件が後を絶たない。しかし、こうした事件が発生すると、各地政府は例外なく企業の立場に立ち、汚染者の利益を守ろうとする。その絶妙な風刺として、太湖の汚染を告発した呉立紅の事件に勝るものはない。藍藻が発生する2か月前、太湖の環境保護に奔走し、呼びかけを行った呉立紅が当地政府に逮捕された。地方当局が汚染企業を守ろうとする強硬姿勢、汚染企業に対する権利活動を政府への反抗と見なす思考方式から見るに、その秘密は容易に推測できる。それは、中国の特色ある政府の経済的職能が、政府・企業が緊密に結びついた利益共同体になっているということである。

法律の機能不全、許認可制度の機能不全、企業を外部から拘束するシステムの機能不全は、中国政府が高度に軟政権化していることを示している。そして、様々な兆候から、こうした高度の軟政権化が、すでに、政府の管理・統制能力に深刻な危機をもたらしていることは明らかである。

《華夏電子報》第196期より転載
関連特集: