【大紀元日本4月20日】中国と西側諸国の間における、最近の主要な話題の一つは人権問題である。4月3日に艾未未氏が逮捕拘束される以前には、中国当局の不法逮捕に対する西側諸国からの批判は不十分であったが、艾未未事件については一斉にタイムリーな反応を示した。国連の「強制的または非自発的な失踪を担当するチーム」は珍しく行動を起こし、中国に対して、「政権異議者を継続的に迫害するという憂慮すべき傾向がある」「国際法によれば、強制的失踪(をもたらすこと)は犯罪であり、たとえ短期間でも秘密裏に監禁すれば強制的失踪に該当する」として正式に抗議した。しかし、これらの国際社会の声は、中国当局の弾圧の手を止めることができない。
中国当局は、西側諸国からの批判を完全に無視ししているのだ。それは、人権問題に関する双方の長期にわたる話し合いが、すでに失敗に終わっていることが如実に物語っている。その失敗の原因は、「3尺の氷は1日の寒さではならず」ということに他ならない。振り返ってみると、かつて米政府は、自国内の(中国に関係をもつ)多国籍企業からのアプローチを受けて、中国に対する最恵国待遇を中国国内の人権問題と切り離して議論するようにした。それにより最終的に中国がWTOに加盟(2001年12月)できたのである。一見するとこの2点は経済にしか関連していないようだが、事実上、それは中国当局に人権問題を改善させる唯一の有効な切り札なのである。
1990年代は、米中両国間における「人権外交」の全盛期であった。1989年の「六・四天安門事件」発生後に始まった西側諸国による対中国経済制裁は、90年代前半に相次ぎ解除となった。しかし米国は(他の西側諸国とは別に)中国を最大の輸出市場および貿易相手国として、毎年、米議会で専門会議を開いて中国への最恵国待遇を認可していた。その見返りとして中国は、毎年米国から最恵国待遇が認可される前に、中国国内の著名な政権異議者のうち数人を釈放せざるを得なかった。それによって「中国の人権状況は改善している」という印象を作り上げ、米議員の好感を買っていたのである。当時の香港のある政治評論誌は、よくこのような風刺漫画を載せていた。中国当局が監禁中の政権異議者を一人だけ「大紅包(ご祝儀)」にして米国政府に贈る。米国からの「お返し」は、中国にその年度の最恵国待遇を与える、というものだ。ところがこの種の取引は、中国にとってはまさに「百益あって一害もなし」のものだった。中国は、たかが数人の政権異議者を釈放することで、米国から経済利益を引き出せたのである。
しかし、はっきりしなければならないのは、当時の最高指導者であった_deng_小平氏は、このような他国から制約を受ける状況に満足していたわけではないということである。WTOに加盟する前、中国は「衣の下に鎧を隠す」必要があった。そこで、他国から制御される局面を打破するために、中国は利用可能な全ての広報と渉外の手段を駆使するとともに、中国に投資する米国の多国籍企業を介して、米政界に対し、これらの企業が中国投資で得る膨大な利益が米中間の政治・経済関係を左右する重要な要素になっていることを説いて回った。中国への投資によって利益が得られることを実践し、また保障するために、ボーイング社やマイクロソフト社などが長年にわたって、米国の議会に対して大規模なロビー活動を繰り広げた。彼らはワシントンにて、米国政府を説得する専門の要員を置き、さらに連盟まで結成したのである。
中国の深刻な人権状況および独裁政治について、彼らが米国議会を説得する主な口実は、「中国は今、欧米のような民主実現の道を歩んでいる」「経済の発展は中国の政治改革を促進できる」「インターネットの普及は中国に情報の自由伝達をもたらす」などなどである。このようなロビー活動は中国当局を大きく助けるものであった。人権問題と貿易活動を切り離して考えるとの意見を米政界は次第に受け入れるようになり、中国がWTOに加盟するまで、米国は毎年、中国に最恵国待遇を与えた。そして、最終的には2001年の中国のWTO加盟を後押しする形となった。その結果、米国は中国と人権外交を行う一番の切り札を失ったのである。
率直に言えば、中国当局は西側社会の口頭による批判など全く恐れていない。唯一の懸念は、西側諸国による全面的な経済制裁なのである。しかし、中国がWTOに加盟してから、西側諸国は中国に経済制裁を加える力を失った。1990年代半ばから現在に至るまで、中国における外国からの投資が拡大し、西側の数百社の多国籍企業が中国市場と密接な利益関係を築いた。2010年までのEU(欧州連合)の対中国投資の総額は700億ドルを超え、中国への海外からの投資額では第三位となっている。米国の対中国投資の総額も600億ドルを超えていることに加えて、国際社会も周知の通り、中国は米国の国債を大量に保有している。それに比べてあまり注目されないEUについて言えば、長年来、中国は最大の貿易パートナーであるとともに、EUにとっての中国は、輸出先および技術提供国として最大であり、また輸入先としては第二位の国である。EUの対中国輸出のうち85%は完成された製品・商品であり、それらの生産に直接関わる職場人口は300万人を超えているため、ユーロ圏内(EU内)の就業問題についても中国に対する依存度は益々強くなっていると言えるだろう。
このような状況の下では、西側諸国の間で(対中国)経済制裁への共通認識を持てない上、これらの国々の内部でも、企業や政府、国民の間で共通認識を持つことはできない。それに加えて、中国は早くから「発注外交」の手段で欧州全体を繋ぎとめており、大きな財団を介して米政界をけん制している。
その結果、西側諸国による中国の人権後退への批判も、見せかけだけの「恒例行事」に化しつつである。「我々は言うべきことを言った。結果はどうあろうと構わない」と言わんばかりである。一方、中国側の反論もますます強気になっており、「現状はこうだ。あなたたちは口喧嘩の外に何ができるのか」という強硬姿勢を貫いている。このような状況は長年続いてきた。
西側諸国による干渉が弱まる一方、中国国内では「社会の安定」を維持するための対策が強化され続けたため、中国の人権状況は今日のように悪化してきたのである。
北アフリカと中東地区で相次ぎ民主運動が勃発してから、中国当局は確かに一時的に慌てだした。大規模な取締を経て、中国当局のやり方はしばらくの間で「安定」を維持できるであろう。先頭に立っていた政権異議者は「行方不明」にさせられたり、口封じされて論調を変えたりしている。もし、誰かが我慢できずに声を発したら、第二の趙連海氏になるであろう。
趙氏は4月5日、インターネット上にビデオ映像を公開して、身柄拘束された著名な芸術家・艾未未氏の釈放を訴え、ツィッターで「いつでも再び逮捕されたり、行方不明にされたりする心の準備ができている」とコメントしていた。6日午後、同氏は自宅から強制連行されて、同日深夜12時頃に釈放された。この数時間の間に、同氏がどのような脅迫を受けたかについてはまだ外部に知らされていないが、釈放された後の同氏は論調を180度変えてしまった。趙連海氏同様のケースはそのほかにも何人かいる。これらの人は皆、今後、政府と中国共産党に反対しないと公に表明した。
今年の北アフリカと中東地区での大規模な民主運動の後、中国当局は、対外的には価値観の押付けをしないこと、および経済の共同発展などを持ちかけて欧米諸国に好意を示している一方、国内においては高圧的手段を用いている。甚だしきに至っては、一部の政権異議者に対して精神的な拷問を加える手法で、その影響力を自滅させようとしている。
中国当局は、それで脅威を取り除いたと安心しているであろう。しかし、その時代錯誤的なやり方は、まさに火事場の火を鎮火するところか、むしろ薪を抱えて火に飛び込むに等しいのだ。
※何清漣:ニューヨーク在住の経済学者・ジャーナリスト。女性。中国湖南省生まれ。混迷を深める現代中国の動向を語る上で欠かすことのできないキーパーソンの一人である。中国では大学教師や、深圳市共産党委員会の幹部、メディア記者などを務めていた。中国当局の問題点を鋭く指摘する言論を貫き、知識人層から圧倒的な支持を得たが、常に諜報機関による常時の監視、尾行、家宅侵入などを受けていた。2001年渡米。1998年出版した著書『現代化的陥穽』は、政治経済学の視点から中国社会の構造的病弊と腐敗の根源を探る一冊である。邦題は『中国現代化の落とし穴』
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