中国国営中央テレビ(CCTV)は英国から締め出される可能性が出てきた。中国で「テレビ自白」を強いられた英国人、ピーター・ハンフリー(Peter Humphrey)氏は23日、英国の通信・放送規制機関である英国情報通信庁(Ofcom)に、CCTVの放送許可の取り消しを求める陳情書を提出した。同氏の自白映像は英国でも放送された。
中国でリスクコンサルティング会社を経営するハンフリー氏は2013年、中国で贈賄罪を問われている英製薬会社グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)の依頼を受け、社内情報を漏洩(ろうえい)させた人物について調査していたところ、中国系米国人の妻とともに逮捕された。
14年8月に有罪判決を言い渡され上海の刑務所に収監された。その後、英外務省の交渉によって刑期が短縮され、15年6月に釈放。陳情書によると、CCTVが当時、公安当局と共謀し、裁判前に検察官の脅迫を受けた同氏の「罪を認めた」場面を録画、編集し、国内外で放送したという。
一方、CCTVは来月、ロンドンに欧州本部を新設すると発表した。約300人の職員を募集し、勢力の拡大を計画している。ハンフリー氏は記者会見で、中国の官製メディアが世界各国への影響力浸透を拡大しつつあるのに対し、英国政府やマスコミが警戒すべきだと呼びかけた。
英規制当局「優先して調べる」
26日付のドイツメディア、ドイチェ・ヴェレ(DW)によると、英規制当局Ofcomがハンフリー氏の陳情を受理したと発表し、優先的に調査を進める意向を示した。また、調査の結果、違反行為が認められた場合には、必要な措置を講じるとした。
ハンフリー氏は陳情書の提出に合わせて行った記者会見で、逮捕後間もなく、鎮静剤などの薬物を投与され、狭い鉄の檻に閉じ込められたと証言した。警察側が用意した原稿を読み上げるよう命じられ、10人近くのCCTV記者やカメラマンが檻を囲み、撮影を行った。
映像はCCTV傘下の国際放送部門、中国グローバルテレビネットワーク(CGTN)を通じて、英国を含む各国に流れた。この虚偽報道により、その後の裁判が偏見に基づくものとなってしまったと同氏は主張した。
「テレビ自白」は中国で近年、多発している。ほとんどが法的手続きを踏まず、正式な逮捕や裁判の前に行われている。逮捕の正当性をアピールする意図が隠されている。北朝鮮やイランでもこのやり方が横行している。
イラン国営放送局であるプレステレビ(Press TV)は2009年、同国警察当局とともに、イラン系カナダ人のジャーナリスト、マジアール・バハリ(Maziar Bahari)氏の「テレビ自白」を画策した。自白映像は英国でも放送された。Ofcomは約1年間の調査を経て、プレステレビの英国での放送許可を取り消した。
中国刑務所で非人道的な待遇 一生消えぬ心の傷
ハンフリー氏は記者会見で、服役中に前立腺病の症状が現れたが、中国当局が「罪を認める誓約書にサインしていない」を理由に治療を許さなかった。同氏はその後、前立腺がんに罹った。
ハンフリー氏によると、中国刑務所で十数人と何の家具もない小さな部屋に閉じ込められていた。トイレは部屋の隅にある小さな穴で、プライバシーはまったくなかった。室内の照明も24時間点灯し、夜は不眠や寝つきの悪さに悩まされていた。中国での経験で心の傷を負ってしまい、苦しみは一生忘れられないという。
NGO報告書:ほぼ全員が拷問を受けた
ハンフリー氏の陳情はスウェーデンの人権活動家ピーター・ダリン(Peter Dahlin)氏のサポートを得ている。ダリン氏も2016年に中国のテレビで偽りの自白を迫られた。この経験から、国際人権NGO「セーフガード擁護者(Safeguard Defenders)」を創立し、「テレビ自白」の真相究明を中心に活動を行っている。
「セーフガード擁護者」は今年6月、『脚本と企画=中国テレビでの自白の裏側』と題した調査報告書を発表し、2013年から18年までのテレビでの自白の映像45件を集めて、十数人の被害者および関係者への取材に基づき、制作から放送までの全過程を追跡して分析した。
それによると、被害者のほぼ全員が「テレビ自白」をさせられる前に公安当局の脅しや拷問を受けていたことが明らかになった。「さまざまな拷問があり、強制投薬、殴打、やけどや電気ショック、性的虐待、数日間から1週間以上にわたる食事や睡眠の剥奪など」
(翻訳編集・王君宜)
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